塩野のどらやき
時代が変わったからといって、古い思い出は
役に立たないと言われたって、かつて日常で出会った美しいシーンはいつまでも今の時間に生きている。はず。
赤坂には塩野という老舗和菓子屋がある。
こちらのどら焼きは絶品だ。思い出しただけで、ほら。近くで仕事をしていたこともあり、何かにつけては立ち寄り、小窓に飾りつけてある美しい季節の和菓子群を眺め、漂う老舗の香りを嗅ぎ、あ、今日は女将さんいらっしゃるわ、などと自分なりに塩野との関係を築いていた。
ある日、スーツ姿の、歳の頃は30代くらいの
男性がポッケの小銭を確認しながら店に入り、どら焼きを一つ買い、すぐさま立ち去るというシーンに出会した。
文句なし、かっこよかった。
ああここのどら焼きが美味しいことを知ってるんだ。
伝わるかな〜こんな文章で。でも、
これは私の大事な風景のひとつなのです。