第323回、都市伝説協会~小さいおじさん~
駆け出しの芸能人の彼女は、とあるテレビ番組で、自分が体験した不思議な出来事として、小さいおじさんの話をした所、スタジオは大いに盛り上がりその日の収録は、大成功に終わった。
彼女は上機嫌で、自分の控室に戻って、メイク直しをしていると、鏡越しに部屋の中に、黒いスーツ姿の男がいる事に気が付いて、後ろを振り向く。
「いや~先程の、小さいおじさんのトーク、大反響でしたね」
その男は、笑うでもなく、無表情のまま、彼女に話かけて来た。
「ところでなのですが、あなたはその、都市伝説協会へのご加入は、されていますでしょうか?」
彼女には、男のいっている事が、さっぱりわからなかった。
都市伝説協会等、今まで聞いた事もないからだ。
いかにも怪しそうなその協会の名前に、彼女は露骨に警戒の表情を見せたが男は彼女の態度を気にする事もなく、そのまま話を続けた。
「まあ、あなたが協会の事を知らないのは、当然です。あなたが教会に加入をされている記録は、どこにもありませんので」
男は、淡々と話しを続ける。
「しかし、そうなると、少し困った事になるのです。あなたは今日、小さいおじさんの話をしましたが、当社の権利の侵害をする事になりまして‥」
彼女は、いよいよもって男のいう事が、わからなくなっていた。
自分は、ただ自分が体験をした、不思議な出来事を話しただけなのだ。
それが一体、誰の、何の権利の侵害になるというのだろうか?
「あなたは知らなかったかもしれませんが、小さいおじさんに関する権利は全て、私達都市伝説協会が所有をしているのです。小さいおじさんについて
テレビで話をされる際は、私達のトーク使用許可証が必要になります」
「それにあなた、番組の中で、小さいおじさんの絵を描いていましたよね。
あれもいけません。小さいおじさんの絵を描く際には、きちんと小さいおじさんの、画像使用許可証を得なければならないのです。
そうでなければ、画像の無断使用による、肖像権の侵害になるのですよ。
それと入浴中に、ちいさいおじさんが現れたという話も、頂けないですね。
女性の入浴の場に、男性のおじさんが現れるのは、コンプライアンス的に、アウトです。
今の時代、都市伝説もコンプラを守らないと、色々と問題になるのですよ」
「あの、私はただ、自分が体験した、自分が見た話をしただけなのですが、それが何で、使用許可やコンプライアンスが関わって来るのでしょうか?」
「あなたのいいたい事はわかります。自分が見たという、自分で考えた話なのに、なぜ他人の許可を取らなければならないのか?皆思っている事です。
でもね、皆が皆、自分で考えた、小さいおじさんの話を、勝手にしだしたらどうなると思いますか?
世間の小さいおじさんへの印象がバラバラになって、それが嘘だという事がいずれバレてしまうのです。それでは、不思議な体験談で仕事を得ている、あなた達芸能人にとっても、致命傷ですよね。
ですから私達、都市伝説協会が、あなた達芸能人が話をする、不思議な体験談の品質を維持する為にも、様々な不思議体験に関する権利の所有をして、話の維持、管理をしているのです。
今、当社の教会が所有する小さいおじさんの設定は、10種類になりますが、
芸能人の方が、小さいおじさんの話をされる際は、この中から選んだ物を、きちんと当社の規定にそって、話をして頂く事になっています。
それにあなた、小さいおじさんに、妖精の羽が付いていたという話をされてましたが、あれは危険です。某ディ〇ニー社の、ティ〇カー〇ルの権利を侵害をする恐れが出てしまいます。もしディ〇ニー社に、訴えられでもしたらどれだけの賠償金が、発生するかわからないのですよ。
そうそう、最近、ディ〇ニー社の版権が切れて、著作フリーになった物に、口笛を吹く白黒ネズミという物がありますが、あれは危険なので、手を出されない事をお勧めします。
著作フリーだからと油断をして、白黒ネズミを絡めた話をしていると、まだ版権が残っている、色付きネズミの著作権の方に触れて、ディ〇ニー社から莫大な、著作使用料が請求をされる可能性がありますので。
そうならない為に、私達が他社の版権に引っかからない、安全確実の著作問題をクリアした、クリーンな不思議体験談を用意させて頂いているのです。
当社が所有するユーマとしては、小さいおじさんの他に、河童やツチノコ等日本の伝統的な妖怪や未確認生物も、幅広く取り揃えております。
著作権のフリーな不思議体験談として、UFOとの遭遇話がありますが、当社では、優秀なシナリオライターが、100を超えるUFO話を用意して、あなた達芸能人に、より高品質なUFOとの遭遇話をして頂ける様にしております。
当社が用意できる最上のUFO話に、UFOの母船に連れていかれるエピソードがあるのですが、もちろんただ体験話を提供するだけでなく、宇宙人に人体改造された証明もできるように、改造手術を行う所まで、きちんとサポートをさせて頂いております。
どうでしょうこの機会に、当社の、都市伝説協会へご入会をされてみては。今なら、気軽に話せる、金縛り体験談の十本セットを無料でお付けしておりますが‥」
彼女は、小さいおじさんに対して、嘘の体験話をしていた訳ではなかった。
しかし男は、彼女が本当の話をしているとは、信じていないようだった。
彼女は、芸能界への憧れが、急激に失われていくのを感じていた。
テレビで見ていた芸能人の、あの輝かしく感じられていた不思議な体験談は全てどこかの誰かが管理をしている、作り話だったのだろうか?
自分と同様の不思議体験をしている人等、実際にはいなかったのだろうか?
彼女は、黒いスーツ姿の男に、自分の手の平を差し出して、質問をした。
「あなたは今、私の手の上に、何が見えるかしら?」
スーツ姿の男は、少し首を傾げて、無言でその手を見つめていた。
「そう、やはり、見えないのね」
彼女は、自分の手の平の上の、妖精のような羽のついた、小さいおじさんを見ながら考えていた。
私に見えているこの小さいおじさんは、他の人達には見えない、精霊なのだろうか、それとも自分の頭の中にいる、イマジナリーなのだろうかと。
※本内容は、芸能人の不思議な体験談を否定する意図の物ではありません。ちなみに、自分の頭の中にいる小さいおじさんは、赤ちゃんのような身体に
妖精の羽のついた姿で、マグカップを風呂代わりに入浴したり、スマフォに勝手に触れて、誤作動をさせたりする愛らしい奴ですが、その話を信じるか信じないかは、あなた次第になります。