ミッキー絵本探究ゼミ第4期②リフレクション
第4期の学習テーマは、「絵本の絵を読み解く」「翻訳」である。
第2回目の講義は、絵本を「翻訳の視点」で見直し用意する。チームで議論し全体で発表。その後、ミッキー先生から一冊一冊講評をいただいた。
わたしは事前準備が間に合わず発表できなかったため、現在勉強中の絵本入門と合わせてここに振り返りとする。
Ⅰ. 選書した翻訳絵本 「しろいうさぎとくろいうさぎ」
やさしいタッチの絵にシンプルな色使い、ふわふわのうさぎの描写がお気に入りの一冊。
「翻訳の視点」で見直し選書するという宿題であったが、絵本の世界に入門したばかりの私には難しい課題であり、まずはこちらの「好きな翻訳絵本」をセレクトし、原書を取り寄せ翻訳と読み比べてみた。
原書タイトル:「THE Rabbits ‘Wedding」
翻訳タイトル:「しろいうさぎとくろいうさぎ」
あらすじは、原書のタイトル通り、しろいうさぎとくろいうさぎが恋を実らせ結婚するまでのお話。原書を調べるとタイトルがネタバレになっていることに驚いた。お話の中で、くろいうさぎは「うん、ぼくちょっとかんがえてたんだ」と何度も繰り返している。翻訳本のタイトルは「結婚」には触れていないので、読んでいるこどもたちは「くろいうさぎはいったい何をそんなに考えているんだろう?」とわくわくしながら読みすすめることができると思う。
原書)Two little rabbits, a white rabbit, and a black rabbit,
翻訳)しろいうさぎと くろいうさぎ、二ひきの ちいさなうさぎが
翻訳本は冒頭では、原書通り「ちいさなうさぎ」と訳しているが、
以降のページではlittle white rabbit「しろいうさぎ」little black rabbit「くろいうさぎ」と訳され、「ちいさな」は省略されている。
littleは「ちいさな」「幼い」「年少の」という意味を持つが、この本では、絵がうさぎの幼さ、可愛さを十分表現されているため、翻訳通り、「ちいさな」はなくても伝わる。なぜ、原書はあえてlittleとしたのか不思議に思った。
原書)"Let´s play Hop Skip and Jump Me," said the little white rabbit.
翻訳)「うまとびしない?」しろいうさぎが いいました。
原書)and with a hop, skip, and a jump,
Then with a hop, skip and a jump,
翻訳)ぴょん、ぴょんの、ぴょーん。
単にぴょんぴょん飛び跳ねて遊んでいるのではなく、日本人では誰もが知っている定番の遊び、「馬飛び」と訳されている。また、うさぎの動きを表現するのにふさわしい可愛らしいオノマトペを使うことで、絵だけでは伝わりにくい二匹が仲良く一緒に楽しく遊んでいる姿をイメージすることができる。(文章から生まれる絵)
原書)"I just wish that I could be with you forever and always," replied the little black rabbit.
翻訳)「いつも いつも、いつまでも、きみといっしょに、いられますよう
にってさ」くろいうさぎはいいました。
原書)The little white rabbit opened her eyes very wide and thought very hard.
翻訳)しろいうさぎは、めを まんまるくして、じっと かんがえました。
原書)"Why don't you with a little harder?" asked the little white rabbit.
翻訳)そして、「ねえ、そのことを、もっと、いっしょうけんめいねがっ
てごらんなさいよ」と、いいました。
原書)The little black rabbit opened his eyes very wide and thought very hard.
翻訳)くろいうさぎも、めを まんまるくして、いっしょうけんめい かん
がえました。
くろいうさぎがしろいうさぎへ愛の告白をする場面。前半は原書通りの訳になっている。
原書)"I wish you were all mine!" said the little black rabbit.
(直訳 あなたのすべてを僕のものにしたい)
翻訳)そして、こころをこめて いいました。「これからさき、いつも き
みといっしょに いられますように!」
原書)"Do you really wish that?" asked the little white rabbit.
翻訳)「ほんとうに そうおもう?」しろいいさぎがききました。
原書)"I really do," replied the little black rabbit.
翻訳)「ほんとうに そうおもう」くろいうさぎは こたえました。
原書)"Then I will be all yours," said the little white rabbit.
(直訳 じゃあ、わたしはあなたのものになります)
翻訳)じゃ、わたし、これからさき、いつも、あなたと、いっしょにいる
わ」としろいうさぎがいいました。
愛の告白の後半部分に注目してみると、原書と翻訳の違いに気が付いた。
原書「あなとのすべてを僕のものにしたい」「じゃあ、わたしはあなたのものになります」。作者ガース・ウイリアムズはアメリカの作家であり、ストレートな言葉の表現は正にアメリカ的である。洋画の字幕や吹替でもこのような表現をしばしば目にするが、日本人、特に日本のこどもには直球すぎる印象。訳者はこれを「いつまでもいっしょにいられますように。いるわ。」とシンプルで優しい表現に翻訳されている。国の文化の違いにより言葉の選び方も大きく異なる。この訳は日本のこどもたちにとてもふさわしい表現だと思った。
Ⅱ. ベーシック絵本入門から学んだこと
ゼミの目的は、学んだことを自分の経験をもとに、自分の言葉でアウトプットできるようになること。
しかし、わたしは他の受講生にくらべ、読んだ絵本の数はおろか、勉強量や経験数が圧倒的に少ない。よって、少ない経験ではあるが、わたしが作成した写真絵本をもとに、新たに学んだことを書いていこうと思う。
ミッキー先生に初めてお会いした時に「絵本を作りたい写真家に絵本論を学んでほしい」とアドバイスをいただいた。そして絵本ゼミに参加するにあたり「ベーシック絵本入門 生田美秋・石井光江・藤本朝巳著 ミネルヴァ書房」を購入し現在勉強中である。「絵本を学ぶ人、絵本に関わるすべてのひとのために、美術、デザイン、文学、保育、教育から総合的にアプローチした本邦初のテキスト」と帯にも書いてあるように、とても新鮮で、内容も充実しており、読んでいて楽しい。
まさにその通りである。そして作成する側のわたしもその傾向にあることに気が付いた。
写真絵本を作る際、まず概ねの物語を考え、撮影した写真をセレクトし、文章を考える。
こちらは4年前に作成した、エゾリスの写真絵本。
冒頭の文章を読み返して感じたことは、
「のにさく たんぽぽのように あめにも かぜにも まけない
つよいこに そだちますようにって」
この後半部分の文書は省略したいと思った。
写真絵本を作る際に、今までは(絵)写真をじっくり見ずに、文章で説明しがちであったことに気が付いた。読みすすめていく中で、写真で理解できることは、書かず、読み手の子どもが「なぜ、わたげちゃんという名前なんだろう?」とわくわくした気持ちで読みすすめてくれるようなはじまりの文章に書き直したいと思う。
こちらは、物語の後半部分のページ。ここで気が付いたことは、
「おおきく なりました」は省略してもいいかなと思った。
ページをめくる毎に、こどもでもわかるよう、少しずつ成長した個体
(実際に同個体を2か月にわたり撮影した)の写真を使用しているため、
「おおきくなりました」と説明しなくてもわかる。読みすすめていく中で、写真から読み取ることができる。
こどもは絵本を通して想像力や語彙力、豊かな感性や社会性を養う。今後は文章による表現に偏らないように注意し、写真と文章の相互作用を考えて作成していきたい。そのためには、自分の語彙力を高める必要があることを痛感した。沢山の本を読んで習得していきたい。また、写真をみて物語の筋を理解してもらえるよう、撮影技術も磨く必要があることを再認識した。
その他、過去に作成した写真絵本を見直し気が付いたことは、オノマトペが少ないことや、分かち書きが中途半端であること。実際に、職場の患者さんに読んでいて読みにくいなと思ったことがある。改めて、もう一度声に出して読みながら文章を考えていきたい。
繰り返しになるが、「ベーシック絵本入門」は読んでいて楽しい。
第2章 絵本のテキスト 画面展開と描写の手法の項は解説がわかりやすくとても勉強になる。これは絵本に関わる人のみならず、写真家にお勧めしたい内容である。動物撮影であれば、被写体を置く位置、大きさ、向き、空間についての意味を理解できる内容である。「こすずめのぼうけん」においては、最後ページのおかあさんにおんぶされてお家に帰るシーンだけは、すずめ親子は左側を向いている。(右から左へ向かって飛んでいる)これは帰着の方向というそうだ。この手法は組写真を作成するにあたり応用できる。他にも興味深い内容が盛りだくさんであるが、もう少し掘り下げてから、次回以降のリフレクションで書きたいと思う。
Ⅲ.おわりに
今まで読んできた絵本は、表紙の絵やタイトルに惹かれるものだけで、自分の好みに偏っていた。しかし、ゼミに参加し、ミッキー先生や先輩方に出会えたことで、沢山の素晴らしい絵本に出逢うことができ、これから読みたい絵本や読むべき絵本や文献がみえてきた。動物撮影においては、写し方のバリエーションを増やすために沢山の写真家の作品をみて、見る目を養うようにしてきたが、絵本においても同じことが言えると思う。
今までは、独学で写真絵本を作ってきたが、これから学んでいくことを活かすと同時に、このゼミで知り合えた絵本探究の先輩方にも見ていただき、アドバイスをもらえたらきっと素敵な写真絵本ができそう。贅沢で夢のような話であるが、実現にむけてがんばりたい。
【参考文献】
ベーシック絵本入門
生田美秋・石井光恵・藤本朝巳著 ミネルヴァ書房 2013年
石井桃子の翻訳はなぜ子どもをひきつけるのか
竹内美紀著 ミネルヴァ書房 2014年
英米絵本のベストセラー40 心の残る名作
灰島かり著 ミネルヴァ書房 2009年