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風景をつくる合宿01 | 考え始める7月

「風景をつくる宿」プロジェクトは WEEK神山という鮎喰川沿いの宿を営む中で、周辺の環境や歴史との関係性を考えながら風景を育んでいくプロジェクトです。

「風景」は誰もが同じものを見ていても、それぞれに見方が異なっているものであり、また、無数の人の活動の痕跡が重なり合って現れるものです。
そんな風景について、一人ではきっと考えられないだろうと複数のメンバーで多角的な視点で話し合うことにしています。

7月にはチームでWEEK神山に集まり、3日間の合宿を行いました。
メンバーは、WEEK神山のオーナーである神先さん、水辺の生物の研究をし来年からWEEK神山で働く井上君。神山の城西高校の教育に携わる梅田さん。神山町の景観計画を考えている小池さん。神山の風景調査を行い、現在ランドスケープデザインに携わっている私、稲田の5人です。

とっても濃厚な合宿だったのでこの投稿で内容を紹介させてください。
※一部テキストはひろちゃん(小池さん)も書いてくれてますよ。

<DAY1>
01:着いたらナマズが捕れてた!

井上君は兵庫から、稲田は東京からWEEKで合流。稲田は久しぶりの神山でしたが、いつでもその辺に居そうな感じでぬっとこの合宿が始まりました。

WEEK神山のお部屋ご存知ですか?
鮎喰川のへの眺めが最高です。

まず部屋に荷物を置いて母屋の縁側でゆっくりしていたら、井上君がバケツで何かを運んでいました!中にいたのは大きなナマズ。着いて鮎喰川に仕掛けしていたら早速捕れたらしい。WEEKの水槽に入れようとしたみたいですが、鍼で傷ついてしまったので神先さんが料理して皆で大事に頂くことに。捕れたてのナマズ、初めて食べたかもしれない。

捕まえたナマズ

02:皆のプロジェクト共有会


WEEK神山の前オーナーの隅田さん、ランドスケープデザイナーの竹林さんも加わり、それぞれが今取り組んでいることをシェアしました。思い返すとWEEKはいつも出会いの場。来る度にこうやって日本中から来た様々な方が活動の紹介していて、新たな繋がりが生まれます。

<DAY2>
03:WEEKの周辺を散策


とりあえずWEEK周辺の土地を見ないと始まらない!と散策を開始。
WEEK神山は、左右谷川が鮎喰川に合流する地点に建っています。そんなWEEKの鮎喰川側、そして左右谷川側の双方を歩きました。
WEEKはもともと民家があった跡地に立っているため、庭には歩経路や田畑だった名残が見て取れます。そして、鮎喰川に降りる道もあるのです。

そんな道際にはWEEK神山の「ロックンロールプロジェクト」で修復した自分たちの背より高い石積みがいくつもあります。圧巻。

川辺へ降りると、鮎喰川の本流がすぐにあるのではなくて、草に囲まれたいくつかの水辺が目に留まります。中には岸から冷たい水が湧き出ているところも。
井上くんや神先さん曰く、流れが弱く、草に囲まれているこのような場所に多くの生き物が住んでいるとか。

本流側へ出ると地層が隆起したような岩壁や川石がごろごろとしています。川幅も広く、谷間に視線が広がります。

一方で、左右谷川側は谷が細く北向き斜面のため日陰になっています。こちら側も川岸を石積みをして平らにし畑として利用しています。川辺の石は苔むしており、鮎喰川とは様子が異なります。

04:城西高校神山校が取り組む「まめのくぼ」の視察


 WEEKの対岸には、「まめのくぼ」と地域の人から呼ばれてきた場所があります。まちの高校である城西高校神山校では、2019年より耕作放棄地である「まめのくぼ」で地域種で引き継がれてきた「神山小麦」の栽培と商品化、石積み改修や間伐などの景観保全の活動を展開しています。今回は梅田さんにつないで頂き、教頭先生や農業担当の先生からまめのくぼでの活動内容を聞く時間を作りました。

まめのくぼで栽培された神山小麦は、町内のパン屋“かまパン”で使われる他、KAMIYAMA BEER SHIWA SHIWA AREの原料にも用いられています。7月は既に神山小麦の収穫が終わった後でした。

生徒の学びや挑戦の場になっているだけでなく、先生も栽培してみたいものを植えたり、生徒と先生が一緒に楽しんでまめのくぼの活動をされているのがよく伝わりました。

 生物に詳しい井上くんが水路で発見したものは、水生生物のアマガエルとコミズムシ、、水草としてはレアなシャジクモの仲間だそう。まめのくぼは元が水田として利用されていたこともあり、水が土中を流れてきて、水たまりが偶発的に出来る箇所があるそうです。

 まめのくぼで栽培されている作物の一部は有機JASや生き物に優しい取組みを審査・評価され一定のレベルであると認証された「とくしま生物多様性活動認証」の認証も取っており、環境や生き物に配慮した方法で栽培しているからこそ、生息できてる生物もいるかもしれませんね。

ちなみに、まめのくぼからWEEKへはこんな道が通っています。急斜面に通る車両の入れない人の道。坂下の住居の裏から畑、山の上へと道が続いています。

05:WEEKの環境を沢下りして考える!:川の上流部から鮎喰川との合流部まで川を降りてみた

その次は沢下り!川の中からのWEEKの眺めを見てみたくて(これまで幾度となくWEEKに訪れているものの、川から観察することがなくて)、夕方には2本の川の合流部を目掛けて左右谷川から鮎喰川へ沢下りをしました。

川岸から覗くのではなく、しっかり身体を川に入れて水の流れを感じながら散策。左右谷川は深く足がつかない所もあります。

この辺は足がつかない!
影の深いところから、視界が開け植生も変わってきました。
そして鮎喰川のこの景色へと繋がります。


2本の様子の異なる川がグラデ―ショナルに繋がっていく風景を実感しました。良く体感できたのが水温の変化。合流点では水温が急に温くなることもありました。これらの湿度、深さ、日当たり、水温と川の中の変化は大きくそれぞれの場で生きることのできる生き物は大きく異なってくるだろうなと推測します。これまでWEEKを取り巻く環境のうち、人間が活動しやすい道路側ばかり見ていると気づかない多様な環境が在ることを実感しました。こういった環境に目を向けることでもっと生き物と人間の接点を豊かに持ち得る予感がします。

06:スキーランド上の山を登り、神山の歴史の深さを目の当たりにする


2日目の午後は神先さん案内の下、鮎喰川の支流である左右山谷川沿いをハイキングしました。真夏日で暑かったですが、山の中、そして川の近くは涼しく感じられ、みんなで黙々と目的地まで歩きました。

この急斜面かつ道の狭さ、神山の皆さんはスタスタ歩いてましたが、
なかなか難易度の高い道でしたよ!!
神山で暮らしている人の坂を上る足の筋力は一味違う。(稲田)


川の両脇には杉が沢山植えられています。
林床に下草が生えておらず、土壌がむき出しになっている様子がわかります

 山を歩いてみると、急斜面に針葉樹が高密度で植えられていて、地面に下草が生えていない場所が多く見られ、豪雨が降った際に土砂崩れが起きないか心配になってしまいました。。神山の山は戦後に国の拡大造林の政策が行われたことで、町中に杉・ヒノキが植えられたそう。現在、その割合はなんと山林面積の約7割!

岩・針葉樹が多くなかなか滑りやすそうな足元。


 昔の人がスギやヒノキが将来の孫世代にも売れると信じてせっせと植林する姿を想像しながら、途中スリリングなところがありましたが、立派な石積みの堰があるところに到着しました。これは、昔、刑務所に入っていた囚人等によって作られた堰だそうで、あまりのスケールの大きな堰に驚きを隠せませんでした。

今回のゴール地点。10mを優に越える堰。一体何人の人たちが汗水垂らして作ったのでしょうか
堰には昭和二十五年と書いている。

 こんな山奥に人が手で作り上げた立派な構造物が見られるとは思ってもみませんでした!
 この他にも、神山では歴史の厚みが見て取れる風景に出くわす瞬間が多々あり、先人たちが作り上げてきたものの延長線上に自分たちが生きていることを意識する瞬間でもあります。

07:それぞれが考えた風景について:毎日のディスカッションで話したこと


 合宿の最終日にこれまで見てきて感じたことをディスカッションしました。その一部を皆さんにシェアします

〇歩くことで時間の積み重ねを体感できる場所

 「自分の家は最低でも250年続いている」「自分は15代目」といった、長く神山に根を下ろしている人たちが沢山います。そんな歴史の厚みがある神山ですが、実際に歩いてみても、平らな土地を作るのに必要だった石積みが町内のあちこちで見られ、生きていくために石を使い、斜面と上手に付き合い生きてきたことがよく分かります。

 ディスカッションで挙がってきたキーワードとして、「歩くことで時間の積み重ねを体感できる(長い時間軸で出来ている町だと体感できる)空間づくり」・「新しい動きが感じられる場所」がありました。これらを意識した風景づくり、一体どんなものになるかは、、まだまだこれからです。

〇生き物にも優しい、人が心地いい、そんな空間ができたら

 今回の合宿では生き物担当の井上くんがいたことで、神山の風景を見る視点が増えました。石積み一つとっても、湿気が溜まりやすい石積みの下部と乾燥しやすい上部では生息している生物が異なること、「こういう生物が生息していることはつまりこういう環境だと言うことができる」等、目から鱗でした。  このプロジェクトを通じて、私たち人間が心地いいと思う場所を生み出すに留まらず、「人間が入りにくい、生き物のための場所をあえて作る」ことで、人間が他の生き物のことを強く意識し、人間が自然の一部分であることを体感する、そんな空間づくりにも挑戦したいですね。

■終わりに

 さて、まずは皆で同じものを見てディスカッションしよう!という目的から始まった7月の合宿。各々の立場から(宿・教育・景観計画・生態学・設計)神山の風景について考えることのできた時間でした。「WEEKのお客さんから考えるとどんな風景になるべき?」「神山の子どもたちに向けてどんな風景であると良い?」「他の生き物からするとこの風景の意味は?」などレイヤーを分けつつ考え、「ここらしい」像を構築していっています。
 また、今神山で行われている景観計画や、学校でのプロジェクト、私自身が行った神山の風景研究が共有知として議論の土台になっていることで、「じゃあ次どう実践する?」とスムーズに議論ができていることも印象的でした。

今後の「風景をつくる宿」の合宿でも場をつくる・整備していくことだけが目的ではなく、皆でこの土地の風景について話し合い、風景の視座を獲得しながら日々の営みの準備をしていけたらと考えています。


自己紹介
小池裕子(こいけひろこ)
神奈川県出身で神山に移り住んで3年目。
一般社団法人神山つなぐ公社で景観計画をつくっています。これだけライフスタイルが変化し、色んな影響が出始めている今日、神山の風景に対してどんなアクションを起こせるか悶々としていたところ、風景をつくる宿プロジェクトを始めたいと神先さんからお話があり、是非!とすぐに返答して参加しています。バックグラウンドとしては、大学で造園や都市計画、石積み等を勉強していました。

稲田玲奈(いなだれな)
香川県坂出市出身。2016年より慶應義塾大学SFCの石川初研究室で神山の風景について研究をしていました。神山中の集落を巡り、多くの方々の庭先を見せてもらい調査を実施し「神山暮らしの風景図鑑」や「道の神山図鑑」を製作。現在はフジワラテッペイアーキテクツラボという設計事務所でランドスケープデザイナーをしていますが、神山でもいつかお話しを聞かせてもらった多くの方に何か返せたらと思っていたら今回神先さんにお声がけ頂きました。神山のこれからに続くような一手ができると嬉しいです。

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