小説 さいかい-プロローグ
隼人は薄暗い森の中,自分に伸びる木の枝を振り切りながら全力で走っている.森は鳥の声や人の声,様々な声が囁いてくる.ただ,そんな音を気にしている余裕は隼人にはない.
足を前へ踏み出すたびに足元のぬかるみがねちゃりと音を立てて隼人の足に絡みつき,行く手を阻む.雨が降った形跡は無いけれど,どれだけ進んでも目の前にはぬかるみが広がるばかりだ.
―どこにもいけやしない.
そんな気持ちが隼人の心を占める.
やがて縄紐が並んでいる道が見えてきた.かつては神聖な神社の道とかに使われていたのだろうが,今にも千切れそうなくらい紐はボロボロで,表面には泥やゴミがこべりついている.
そのまま,ただひたすら真っすぐ突き進むと走っている道はだんだん固まり,今まで自分に迫って来くるように生えていた木々の数が減ってきた.しばらくすると,開けた草原に行き当たった.よく見るとこの草原はクローバーの群生地らしく,そこら中がクローバーで覆われている.
今までに無い安心感を隼人が感じていると光が強く差し込んでいる丘が見えた.
―このまま,ここで楽にしてたい.
隼人の願いとは裏腹に頭の中は妹の存在だけがどんどん大きくなっている.
―探さなくちゃ
妹がどんな顔だったか覚えていないし,周りの人や物は存在自体を否定しているけれど,隼人ははっきりと言える.
妹は確かに存在していたと.
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本当は1週間前に出すつもりだったんですが,順番を考えれば考えるほど沼にハマっていきここまで行き着きました.とりあえずこの話をいい感じに終わらせれると嬉しいです.
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