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連続小説「アディクション」(ノート21)

ギャンブル依存症から立ち上がる

この物語は、私の誇張された実体験を基に妄想的に作られたフィクションですので、登場する人物、団体等は全て架空のものでございます。

〈「克服ミーティング」〉

メンタルヘルスグループに移動はしたものの、ギャンブル依存症の私は週に2回、アディクショングループの「克服ミーティング」に参加することが義務付けられていました。

個人的には、島野さんの顔が見れるので結構よろこんでこのプログラムを受けていました。あ、そうです。違うグループのフロアにはそれぞれ「出入り禁止」となっているため、このミーティング以外にアディクショングループのメンバーさんやスタッフとお会いできることは無かったのです。

ミーティングについては、以前の回でも申し上げた手法で行われています。

倉骨さんからは、挨拶代わりに

「あそこのスタッフって、ホント最悪ですよね。エレベーターで居合わせても目も合わせない。「ボネちゃんおはよー」とか声をかけるもんちゃんとはエライ違いですよ。」

「まぁ、アディクショングループをかなり嫌ってるようですからねぇ」

「でも、スタッフなら会釈するくらいでないと、社会人としてダメだぞ」と淡河(おごう)さんが割り込むと、

「そういう淡河さんは、それ以前に人間としてダメだと思います。」

「おい、ボネ、俺をいじめるな。こう見えても繊細なんだよ。」

「まぁ、週末の競馬の検討とかは、確かに繊細にやってますからね。」

「競馬なんてやってません。私はギャンブルが大嫌いです。」

などという茶番をしているうちに、島野さんから号令がかかり、メンバーが車座に椅子を並べ、ミーティングが始まりました。

「では、これからミーティングを始めます。本日の進行は私、島野がいたします。ミーティング前にルールを確認しましょう。」

言いっぱなし聞きっぱなしで、他者の話に割って入らない。ミーティングでの内容は一切外に持ち出さないということで始まり、私の話す番となりました。

「ギャンブル依存症の屑星です。」

このクリニックに来て半年が経ち、私は自らギャンブル依存症であることを述べるようになっていました。

いつからなのか明確ではないのですが、自分自身を受け入れようと考えることにしてからだろうと思います。

この私の発言を横目で見てた大北さんが、何か満足気に頷いていました。

いわゆる「12ステップ」における、ギャンブルにおいて自分は無力でそして依存症であることを認め、理事長でもない院長でもない、もしかしたら島野さんかもしれない、間違いなく島貫ではないが「クリニック」という「神」に委ねているところで、ステップを進めているのかもしれません。

で、近況について冒頭述べるのは

「メンタルヘルスのメンバーさんには馴染めましたが、スタッフには馴染んでないというか、スタッフが私に馴染んでいないようです」

と、素直に毒を吐いて、倉骨さんらを笑わせていました。

まぁでも以前も申し上げたのですが、「誰かを嫌っていることは、誰かを守っていること」だと考えるようになってきてから、本当に鬱で苦しんでるメンバーさんを助けるためには、やはり私のようなどこでもブチかますタイプの人間は敵として遠ざけるのも理解はできます。

個人的にはそんなにデリカシーのない人間だとは思っていないのですが。むしろ、私が依存症と知ってて競馬とキャバクラの話を隣で大声でする例の生臭坊主よりはよほどデリカシーがあるとは思ってます。まぁそのお坊さんも全然憎めない人なんですけどね。

この日のテーマトークは、「スリップしないように心掛けてること」でした。

淡河さんが

「規則正しい習慣を心掛け、一切のギャンブルに手を出さないと心掛け、引き金になるものを全て断ち切っています」

と発言されて、昨日の競馬で3000円損をしているのを知ってる我々にとっては

「世の中、平気でウソをついても良心が全く傷まないという人は必ずいる」

という教訓をいだだき、むしろ心が晴れやかになりました。

この日は他に、私と初対面となる玉井さんと話をすることになりました。

「はじめまして、玉井といいます」

「屑星です。よろしくお願いします」

「例のカレーのレシピ、こないだの料理プログラムで本当に助かりました」

「あれを引き継いでくれたんですか?」

「はい、あそこの淡河さんというウソばかりついてる人にそそのかされて、リーダー役やらされてしまいました。」

「なるほど。洗礼を浴びたのですね」

「来月の『クリニックメガ盛り桜祭り』で、また優勝を狙おうと思います。」

玉井さんは、私と同じギャンブル依存症。職業はバーテンダーでソムリエやワインエキスパートの資格も持っているとのことです。40代前後くらいかな。

この方は、ガールズケイリンとボートレース女子戦専門で「女の子を食い物に生きてこうと思ってたら、逆に食い物にされてしまった」らしく、年末のボートレースの「クイーンズクライマックス」で、店の売り上げピンハネして注ぎ込んだものの、見事に溶かしてしまい、店側にバレて、親御さんが肩代わりして警察沙汰は免れたものの、他に多額の借金もバレて、めでたく正力クリニックに繋がったとのことでした。

この方もこれから色々とありますw

依存症のメンバーも来る人、去る人、目まぐるしく、正力クリニックは繁盛しているのでした。

「行為依存」〉

克服ミーティングが終了し、私は玉井さんからお茶でもしようと誘われたので、まぁ今のアディクショングループの様子も詳しく聞きたいし、「いいですよ」と答えた直後に背後から、

「私も行きます」

「う、魚さんどうした?」

「私も行きますので」

別に断る理由も特にないだろうということで、3人で近くのファミレスに入ってフライドポテトとドリンクバーで安く上げて話をしようとなったのですが、

結局私と玉井さんが会話をしてて、魚さんは黙って座ってるだけでした。

まぁ、最近のアディクションの様子も聴けて、以前葬儀出禁の理事長令が出た要因の主である、「喪服フェチ」の男が近々アディクショングループに戻ってくるらしく、タイミングとしては、これまた私が通院当初の理事長の「残念な話」で痴漢で捕まったメンバーと同時くらいという話を聞いたのですが、

「いやー、玉井さん、正力クリニックって、そういう方々のある意味受け皿なんですよね。」

「社会復帰うんぬん以前なんでしょうね。まぁ再犯しないことで何とか生き続けるには、それこそ「一生通いなさい」がベストかもしれません。」

「性依存症の人たちって、スリップイコール逮捕ですからね。」

「ここが我々ギャンブルとは違うところなんですがね。ただ「行為の依存症」という観点では根っこは同じですがね。」

「性欲が強い人って、むしろギャンブル依存症の人の方が割合高いですよね?」

「あー、それは言えてますね。」

「特にさっきから黙ってる人はねw」

「いやいや」

「魚さん、何がいやいやだよ?否定するんですか?w」

「いやいや」

「どっちだよ?」

「勘弁して」

何か、傍から見られると「イジメ」みたいなやり取りな感じがしたので、ここで勘弁してあげました。

再び玉井さんと会話を続けますが、

「まぁでも屑星さん、犯罪ではないけど、被害者ってそれなりにギャンブル依存症でも出ますからね。」

「人にウソついて金借りて、そして挙げ句に返さないってのはザラですよね」

「だからその、性依存症の人が仮にスリップしたとしても、我々は見捨てないようにしたいなと思います。」

「それは同意します。まぁスタッフの中には見捨てるどころか切り捨てたいと思ってるのもいるだろうけど」

「特に女性はね。別に島貫でなくても、島野さんや門奈さんもホントのところはどうなんだっていうのがあるかと。」

「世間的には『金とオンナにルーズでヤバい連中』ってことですもんね。」

「しかしなぁ、僕は倉骨さんがちょっと気になるんですよ。」

「え、彼に何かあったんですか?」

「彼はマジで惚れてますよ。」

「門奈さんにですか?」

「え、本当に?」

「魚さん、うるさいよ」

「門奈さんじゃありません。彼は島野さんのことがガチで好きです。」

「え、ホントですか?」

「あぁ、良かった」

「魚さん、うるさいよ。」

むしろ私のほうが「良くなかった」が、それにしても玉井さんは人をよく観察していると思いました。

倉骨さんは、まさしく「それさえ無ければ」立派な好青年だと思ってます。

「だから、結構苦しいんだと思いますよ。「もんちゃーん」ってのは間違いなくカムフラージュです。」

「しかしよく、わかりましたね。」

「そこは私は『一流のバーテンダー』ですから、そういうのは得意です。」

「玉井さんも見た目はいい男ですから、スタッフの女性、落とせるんじゃないですか?」

「そだなー、もんちゃんでも落としてみようかな?」

「そ、それはやめてください!」

「魚さん、うるさいよ。」

その後、魚さんをギャラリーとしたまましばらく会話して解散しました。

私は倉骨さんのことが気掛かりになってしまいましたが、ですメンタルヘルスグループのプログラムと、差し迫っている「強制退去」で、なかなか気を回すことも出来ていませんでした。

今回はここまでとします。

GOOD LUCK 陽はまた昇る
くずぼしいってつ





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