連続小説「アディクション」(ノート29)
ギャンブル依存症から立ち上がる
この物語は、私の誇張された実体験を基に妄想的に作られたフィクションですので、登場する人物、団体等は全て架空のものでございます。
〈第62話「恋愛禁止」〉
私の移動が決まった早々、若くてかわいい香坂(こうさか)さん、愛称あかねんがやって来たと思いきや、その翌日さらにまた、若くて今度はクールビューティー系の方がお越しになられました。
「四條葵(よじょうあおい)と申します。よろしくお願いします。」
「四條さんですね。」
「あおたん、ですね。」
「だからノブさん、馴れ馴れしいですよ。」
「あ、でも、そう言って貰えて嬉しいですよ。」
「そうなんだ」(この子もいい子だ)
「じゃ、あおたん。よろしく。こちらのオジサンはもうすぐ居なくなるけど。」
「え、そうなんですか?」
「まぁ「大人の事情」でw」
「残念ですけど、短い期間ですがよろしくお願いします。」
あおたんこと四條さんは、となりの柳田さんと相羽さんのいるシマに着席しました。この「ギャンブルおやじ」二人は正に、狂喜、歓喜、乱舞でした。
そして、早速わちゃわちゃやり始めると、どうやらとっとと週末に峰さんのレース観戦に行く話をまとめてました。
「しかし、柳田さん。そういうのは手際いいですねぇ~。」
「ふっふっふ。あかねんも行くってよ」
「いいですねぇ~。しかし、柳田さんと相羽さんは競艇やりませんでしたよね」
「いやいや、実はやってたんですよ。」
「え、初耳です。」
「まぁ屑星さんは足洗ってるからいいけど、私は峰さんがここにいる間は、競艇はやらないことにしていたんです。」
「そういうことなんですね。」
「何があるかわかりませんし、個別に繋がってることでどこかで迷惑かけるリスクもありますからね。」
「確かに、「行動を共にしている」時は控えた方がいいかも知れませんね。」
「まぁ、それで舟券買ったところで違法行為とまでは行かないとは思うのですが、そういうところから八百長とかの入口になりかねないと考えてました。」
今は、峰さんはここから離れて、いわゆる「インサイダー情報」を得ることができない環境であるということで、改めて応援に行くという柳田さんを私は尊敬させていただくことになりました。
さてさて、若い女性が二人来たことにより、何気にフロアから活気も感じられました。さらに来週は私が居なくなるのでスタッフ的には万々歳なんでしょう。
ちなみに、このメンタルヘルスグループのメンバーは、登場人物のほかに倍くらいのメンバーがいて、アディクションの根市君や加茂川君に近い年代の若手も多少はいます。女性はこれまではおたけさん1人でしたが。
そういうわけで、このフロアルールの「恋愛禁止」が生きてくるわけです。アディクションの私はそういう意味でも居ない方がいいかも知れませんねって、違う違う!私はギャンブル依存症です。
まぁ、同じギャンブル依存症でも魚(うお)さんに来られたらどっちかストーキングされるような気もしますが。ていうかあの人ギャンブル依存症だけなんだろうか?わけがわかりませんw
ただ、このフロアの若手は極めておとなしく、色々と話し掛けたり、誘いをかけたりするのは、「ギャンブル親父ペア&ノブ」ということになります。
まぁ「恋愛禁止」ルールは大丈夫だろうなと思いきや、後に波乱が起きることとなるのです。
〈第62話「競艇場に行こう!」〉
私も競艇場に行くことになってしまいました。
この日は日曜ということで、峰さんの出場している江戸川競艇場の開催が最終日ということもあって、競艇場の「拘束」から解放され、夜に会えるように、柳田さんが「段取り良く」セットされておられたのでした。
で、柳田さん、相羽さん、ノブさん、おたけさんに、あかねん&あおたんの御一行様で江戸川に赴くことになっていたのですが、
「屑星さんのメンタルヘルスグループ追い出しコンパをやらねば。」
と、柳田さんが提案され、皆さんもご賛同。まではいいのですが、なんせ私はギャンブル依存症でこのボートレースはトリガー中のトリガー。
「お金かけなきゃいいじゃないですか」
「そんな、じゃあジュースでいいからのO部みたいなこと言わないでよ。」
「峰さんとも、なかなか会えませんよ」
「それもそうですね。じゃあ、」
「ほとんどE藤さんですな。」
「はい、私はE藤ですよ。」
ということで、急遽参戦となってしまいました。
まぁ、あかねんとあおたんの指南はあのギャンブルペアがやるだろうから、まぁ私はおたけさんの面倒でも見てやるかと考えていると、そのおたけさんが、
「屑星さん、私、船酔いするんです。」
「えーと、我々は乗らないで見てるだけですから。」
「え、そうなの?皆で峰さんの船に乗って峰さんを応援するんじゃないの?」
「あの?なんで我々が一緒に乗るんでしょうか?」
「だってフェリーボートなら当然乗れるでしょう。」
「ホントに、全くご存知ないんですね。ボートレースはフェリーボートではなく小型モーターボートです。しかも今はフェリーにボートまで付けて言う人はほとんど居ません。」
「そういえば、メンバーレクチャーの時に言ってたような。」
どこから面倒みていいか、かなり大変な案件だとつくづく思いました。
さて、そんなこんなで、「ツアー」の当日を迎えました。朝9時に東西線の西葛西駅に集合し、そこから送迎バスに乗ります。梅雨入り前で、天気は良く気温もかなり高くなりそうです。
女性陣は日光対策は念入りといった服装で参戦。
「日差しが強くなりそうですね。どうします?峰さんのレース以外は、室内から観戦しますか?」
というわけで、皆さん合意のもと指定席券を購入。たぶん、ずっと外だとかなり日光浴びることになるので、指定席券代の出費を惜しむことはありませんでした。
江戸川競艇場は、河川にそのままレースコースを設置します。ほかの競艇場は「プール」を作り設置するので、かなり特殊な競艇場といえます。そして、河川の堤防にスタンドを設けて間近でレースを観戦することができるのですが、今日は日差しが強いので、室内からガラス越しで観戦できる指定席を確保したところでございます。
この日は開催最終日ということで、この節間の優勝者を決める優勝戦が行われるのですが、峰さんは残念ながら優勝戦の6人に残れず(あ、競艇はすべて6人(艇)でレースをします)、その他の一般レースで本日2回出走(競艇は同じ選手が1日最大2回出走できます)することになってました。
早速ギャンブルペアが、あかねんとあおたんに色々なレクチャーをして、ノブさんはひたすらカメラマンをして、私がおたけさんの面倒を見る、という図式になってました。
レース場のB級グルメも満喫し、まあ気温も高いので皆さん生ビールなどもグイグイ行ってしまっております。私はそこでもウーロン茶とかコーラとかで全然平気でした。
「屑星さん、本当にアルコール依存症なんですか?」すでにビールの回ったノブさんが赤ら顔で私に尋ねるので、
「アルコールのほうは依存症なのか本当のことは私も自覚ないんだけど、酒を絶対飲むなと言われても全然苦じゃないし、むしろ体を鍛えて、そして血液検査が生涯初の「異常なし」を勝ち取ってから私にとってはアルコールは邪魔でしかないんですよ。あと、酒飲んで少し酔ったりすると、それがギャンブルの引き金になるリスクもあると思うんです。」
「なるほど。それで、レースを見てて、お金をかけたくなる気は起きないんですか?」
「そこは少し不安でしたが、全く起きません。てか、さっきからおたけさんに色々聞かれて、予想するとかそういう気にもならない感じですw」
ちなみに、午前中のレースが4つ終わったのですが、おたけさんはまだ舟券を買っておらず、私に「これは舟の競走なのか」とか「どれが一番先にいるのか」とかまだ舟券購入に至るような状況にならない質問を何度も繰り返していました。まあ、あるあるなんですが、どこでレースが始まってどこでゴールして終わっているのかは、この時点では全く理解していませんでした。
さて、第5レース(競艇は1日12レースあります)にいよいよ峰さんの登場です。峰さんは4号艇での出走ということで、番号は「4」。江戸川競艇場は背番号のついたカボック(救命機能のついた上着とでも言っておきます)ですので背中に4番を背負っています。まあ、コースの取り方とか細かいルールを書くと、たぶん10話分くらい連載しなければなりませんので省略します。
ちなみに、競艇は1コースの1番が圧倒的有利で、江戸川競艇場だと1番の選手が全レースの半分くらいは1着で勝っている感じです。
「ここは1番が強いからなあ。でも峰さんの応援込みで1-4とかにしましょう。」
と、柳田さんが言い、あかねんとあおたんはそれに追従しました。
相羽さんは、「その裏返しの4-1も買っておこう」。
「そうっすね。」と、ノブさんはこれに便乗します。
「ねえ、さっきから何の話をしているの?」
おたけさんがチンプンカンプンの状態だったので、
「あ、どうします?買いますか?峰さんのレース」
「そうね、何がいいかしら?」
「峰さん応援するなら、4を1着で予想したのを買うとか。」
「それは当然よ。それでさ、一番大きく稼ぐにはどうしたらいい?」
私は一瞬考えました。
「おたけさん、2000円賭けられますか?他のレースは賭けないとして」
「そうね。それならできるかしら。」
「では、これでやってみてください」
ということで、峰さんの1着を固定し、ほかの5人の選手の2,3着を全通りの箇所にマークシートを塗り「4-全ー全」の3連単20通り×100円の計2000円の舟券を購入しました。
そしてレース開始。峰さんはスタートダッシュを決めて、内側の1,2,3番の舟を捲り切って先頭に立ちました。
「峰さんすごい!」
「しかし、1を負かし過ぎた・・・」
「あー、買ってない」
と、ギャンブルペアやノブさんが嘆いている中、峰さんは堂々の1着。
あかねんとあおたんは「1-4」の舟券を100円買ってそれを記念に財布に収めました。
「おたけさん、当たってますよ。」
「え、峰さん勝ったの?やったー。」
「あ、勝ったのも分からなかったんですね。」
「で、いくら貰えるの?」
1番が大敗し、しかも人気の全くない6が2着。3着には3番が残り、
「4-6-3で・・5万3000円です!」
「あのー、おたけさん? あれ、死んだかw」
「・・・うん、一瞬三途の川が見えたわよ。なにこれ凄いわね。」
「やばいっすね。こういうのがギャンブル依存症の入り口ですから。」
「でも、私がなんにも知らないうちにこうなっちゃったのよ。」
「こういうのも、あるあるなんですよ実は。でも、おめでとうございます。」
「どうしようかしら。このお金。」
「好きに使えばいいじゃないですか。峰さんもう1回出ますから、その軍資金になりますよ。」
「そうね。それまではキープしておくわ。」
そして、他の皆さんもこれをみて、ますます気合が入りました。
今回はここまでとします
GOOD LUCK 陽はまた昇る
くずぼしいってつ