連続小説「アディクション」(ノート47)
ギャンブル依存症から立ち上がる
この物語は、私の誇張された実体験を基に妄想的に作られたフィクションですので、登場する人物、団体等は全て架空のものでございます。
〈「しばらくいます」〉
私は、あと一週間でここ正力クリニックを「卒業」し、4月から、調理師の専門学校に通うこととなります。
私のクリニックでも、実はかなりこの一年半で新陳代謝があり、私自身も古株となっていました。そして、多くの親しい方々やポンコツ1名、おたけさん入れると2名もここを去りました。
塩月さんも、亡くなってから1年が経って、なんかつい最近のような、遠い昔のような変な感覚なんですが、まぁ倉骨さんと島野さんが結婚することにについては、草葉の陰で喜んでいるでしょう。
そんなわけで、私よりも古くから居る人で残っているのは、淡河さん、大北さん、迫丸さん。あと「追放移籍組」でノブさんということになります。
「屑星さんもいよいよ来週ですかぁ」
「ノブさんは、卒業する予定はまだ先なんですか?」
「なんかねえ、仕事する気が起きないんですよ。退職金もしばらくすれば底を尽きるんてすけどね。まぁ、生活保護だけでも僕の場合なんとかなるからなあ。」
「そんな焦って社会復帰することも無いってことですかね?」
「あ、そうそう。昨日、玉井さんのバーに行ってきましたよ。」
「そうなんですか、私も声掛けてくれたら行ったのに。」
「急に気が向いたもんですみません。玉井さんとは大丈夫なんですか?」
「あ、いや才所さんの味方ではあるけど、そこは『課題の分離』が出来ていて、今でも良き同志ですよ。」
「はは、なるほどね。玉井さん、屑星さんは来てくれないかなと気にはしていましたよ。」
「では、近々顔出しますよ。」
「で、あかねんも来て、手伝ってました。」
「そうなんですね。二人はいつ結婚するんだろうか?」
「なんか、来月があかねんの誕生日で、その時に籍いれるとか。」
「式とかは挙げないのかな?」
「まぁ事情が事情だから、でもそのうちに二人でどこかで挙げるらしい。」
「なるほど。じゃあ、お祝いでも何か持ってって顔出そうかな。」
「皆、色々と『新生活』ってやつですかね。僕はしばらくは先ですけどね。」
そして、休憩が開けて、才所さんが現れ午後のミーティングが始まりました。才所さんも「しばらくいます組」ってことなんだよなあ。
〈「バーテンダー」〉
「ギムレット」
私の好きなカクテルではありましたが、今は酒は飲みませんので、ジンジャーエールを頼みました。
あ、玉井さんのバー「スリップ」に来ています。
オーナーは、この店舗の運営を全て玉井さんに一任していて、まぁおそらく才所さんよりかは収入が良い待遇と言えるでしょう。
自己破産し、生活保護を貰っていた半年前の生活とは打って代わって、今や池袋の花形バーテンダーでしかもカワイイ奥さんまでいるという「人生逆転」というか、まぁギャンブル依存症になるまではギロッポンでオーナー店長やってて億まで稼いでいた人だから、そのくらいのポテンシャルは当然あるんでしょう。
「屑星さん、お祝いまでいただいてありがとうございます。」
「まぁ、酒飲めないから、今日はこっちの方がメインですからね。あ、あかねんもおめでとう。」
「ありがとうございます。」
「しかし盛況ですね。」
「有り難いことに、かつての私の『ファン』の方も来てくださっています。」
「くー、飲んでみたい気もしなくもないが、『トリガー』ですからねぇ」
「はは、絶対に飲まない方がいいですよ。」
「どうすか?ギャンブルの方は止められてますか?」
「今は立ち上げたばかりだから、そっちの方には気が回りません。軌道に乗った時が危険と思ってます。」
「店名『スリップ』にしたのも、コーピングの一環ですか?」
「そうなんです。まぁ昨日はスリップ毎日してる人が来ましたけどね。」
「淡河さん、こういうとこにも来るんですか?馬券代に回さないでw」
「なんか、日曜に万馬券当てたらしい」
「そうですよね。そういうことでもないと来ませんよね。」
「あと、才所さんもその後来ました」
「え?」
「お祝いだけ届けに来てくれて、『今は玉井さんの幸せを喜んでいます』と仰ってくれました。」
「…マジっすか。何か泣けてきました」
と、カウンターの奥の方から嗚咽する音が聞こえて来ました。
「あそこの、鼻から牛乳出しながら号泣しているポンコツ詐欺師、いつからここに来ているんですか?」
「あれちなみに、カルーアミルクです。他のお客様の邪魔にならないようにって2時間前から居座っています。」
「今後出禁にしたほうがいいかと」
「検討します。」
才所さんの「漢」に、ノンアルコールで乾杯した池袋の夜でした。
〈「家族」〉
「家族が私にとって何よりも大切」
そんなこと言える人って、本当に「運のいい人」もしくはお目出度い人だと私は思っています。
ここ「正力クリニック」のアディクショングループのメンバーの殆どの人は、その「家族」に見捨てられています。
あ、もちろん見捨てられてない人も居て、実は私もそっちのほうなんですが。
メンバーの大北さんは、かつては印刷所を経営しておりました。当時は奥さんがいて、ふたりの娘さんとともに幸せに暮らしておりました。で、印刷物で請け負っていたのが「パチンコ雑誌」だったんですけどね。
当初はパチンコとかにも興味は無かったのですが、雑誌の印刷を扱っているということで「一度やってみるか」と思いパチンコ屋に行き、大当たりして10万円程稼いでしまったのが「運の尽き」だったと回顧されております。
大当たりした日に、ふたりの娘の欲しがっていた物を買って帰って渡すと、大喜びされ「パパ大好き!一生大事にするね!」と言われた時は、父親冥利につきると思い、「あれが私の人生の坂の頂上でしたかねえ」と語っておられます。
その後は、「依存症お決まりコース」に則り、いつの間にかパチンコがやめられず、借金を重ねそして借りてはイケないとこから借り、使ってはイケないお金を使い、全てはパチンコ台の穴に吸い込まれ印刷所が潰れたのを機に離婚。そして、最愛の娘からは、
「あんたなんか父親じゃない!あんたが親だなんていうことが恥ずかしいから、二度と姿を見せないで。」
の、捨て台詞が娘の姿を見た最後で、現在どこでどう暮らしているかは全くわからない状態とのことです。
その後、清掃作業員などしながら食いつないでいましたが、パチンコだけはどうしてもやめられず、ついには勤務先のお金を横領してしまい「御用」となり、執行猶予はついたものの保護監察のもと、このクリニックに繋がったとのことです。以来、10年通い続けてるとか。
ギャンブル依存症の問題行為ひとつで、家族の「絆」なんてものは一気に崩壊してしまいます。
どんなに信頼関係とか、家族のような肉親においても、「金銭」の話になると大概は別世界に行ってしまうのが現実で、結局、何においても「世の中金」ってことになってしまっています。
まぁその是非については、私の別の動画かブログで切り込みたいと思いますが、
どんな大切な家族の「絆」も、「金銭」が関わると脆く崩れるということでしょうか。
今回はここまでとします。
GOOD LUCK 陽はまた昇る
くずぼしいってつ
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?