キャッシュレスで「国難来(こくなんきたる)」。
キャッシュレス決済が5割を超えそうな勢いです。官民を挙げて、「キャッシュレスはお得だ」「便利だ」「時代の趨勢だ」とキャッシュレスを妄信していますが、私は「国難来」と感じます。
『国難来』は、戦前の医師であり、官僚であり、大政治家であった後藤新平の講演録です。後藤新平は、関東大震災(1923年)後に内務大臣兼帝都復興院総裁として東京の帝都復興計画の立案・推進にも従事しました。
『国難来』は震災の7ヶ月後、1924年4月に出版されたものです。
後藤新平は、当時のアメリカによる排日運動、国内の政治の腐敗、戦後の物価高騰と米騒動など「内憂外患」を「国難」と直感し、国民に警告を発したのです。
100年後の現在、「国難」は相似相で派生しています。政治家一人ひとりは「国難」を感じても、政党となると「利権」が最優先され、「利権」のためなら、政治家や官僚が平気な顔をして国民を騙す、外国に国を売り渡しているのです。国民には、すべての情報が開示されず、偏った情報で思考や行動を誘導します。
例えばキャッシュレス決済です。2010年13.2%だったキャッシュレス決済比率が、2020年には29.7%になりました。新型コロナ発生から3年経った2023年4月現在、5割を超えていると予想されます。キャッシュレスのメリットばかりが喧伝され、キャッシュレス化しなければ、時代に取り残されるとばかり躍起になっています。キャッシュレスを批判しようものなら、「時代遅れ」と蔑まれます。
キャッシュレス決済には手数料がかかります。例えば、クレジットカードのキャッシュレス決済手数料は、飲食店5%、小売店4%、百貨店・スーパー2%、コンビニ1%と言われています。
まず、業種・業態により手数料率が違うのに疑問を感じます。同じ飲食店でも売上げに占める原材料費率は20%~55%と様々です。当然粗利益率も異なるわけですから、原材料費率55%(粗利益率45%)のお店にとって5%は大変な負担です。
スーパーの経常利益率は2%を確保できているのが1%前後、99%が2%以下、ほとんどがトントンか赤字です。経常利益率が2%以下のスーパーが2%の手数料を払ったら、ますます赤字になり、これでは何のために商売をやっているのかわからなくなります。
2%支払った以上のメリットがあるのでしょうか。キャッシュレスにしたら、客数が増えるというのはエビデンスがありません。すべて利権をガッポリ得る側の喧伝材料です。「キャッシュレスに遅れたらお客を失いますよ」と恐怖を煽って、カモにしようという魂胆です。
実際、年商100億円のスーパーチェーンで年間のキャッシュレス手数料は1億円を超える勢い。半年後には間違いなく1.5億円に迫るでしょう。それにエネルギーコストの上昇で電気料金の上昇が利益を圧迫しています。政府からは、給与を上げるよう圧力が加わります。物価高騰対策には、給与を上げるより、消費税を下げるかゼロにする方がよっぽど効果があります。その議論をすることさえタブーとなっているのです。
いまや、あの手この手で、キャッシュレス化を推進し、スーパーの従業員が汗水たらし、爪に火を点して稼いだお金が銀行や信販会社、IT企業に吸い上げられていくのです。それらの資金は、国内に回らず、ほとんどか外国に流れているかもしれません。
キャッシュレスと同時発生しているのがポイントです。カードで買物をするとポイントが付きます。貯めたポイントは、次回利用時にポイント分だけ値引きを受けることができます。新しくカードを作ると「5,000ポイントプレゼント」などポイントが付与されます。
ポイントは、「お金」でしょうか。
政治家、官僚もそして企業も「ポイント」を「お金」ではないことにして、国民を騙しにかかっているのです。一般社団法人全国銀行協会によると、「貨幣」には3つの機能があるそうです。「貨幣」とは「お金」のことです。①価値の保存機能(貯蓄)、②交換機能(決済機能)、③価値の尺度機能です。
ポイントは、期限が切られていることが多く、①の価値の保存機能がないといわれます。しかし、「セゾンカード」は「永久不滅」を謳っています。保存機能のあるポイントも存在するのです。
②の交換機能はどうでしょうか。以前はポイント発行店でしか使用できませんでしたが、現在では加盟店ネットワークの範囲であれば、貯めたポイントを別の加盟店で使うことができます。ガソリンスタンドで貯めたポイントで、コンビニでコーヒーを飲みことができるのです。また、ポイントを商品券に変えて、その商品券を換金すれば、「お金」になります。
オオゼキ(東京都)のキャッシュバックカードように「換金日」を設けて、ポイントを換金できるカードもあります。ネットワークの拡大で、ポイントで家賃や保険が支払えるようになるかもしれません。その時のポイントはもはや「お金」です。
③価値の尺度に関しては、1ポイント=1円とリンクすれば、ポイントが価値の尺度になります。
結論を言うと、すでにポイントは限定的ですが、「お金」なのです。「お金」だとしたら、企業が勝手にポイントを発行すること自体が、違法ではないでしょうか。入会時にポイントを進呈し、平常時にポイント10倍、20倍の販促を乱発する企業もあります。
その企業が食料品だけでなく、衣料品、住居用品、医薬品、家電などに加え、保険など金融商品、住宅などの不動産を扱うとなれば、完全にポイントによる“排他的経済圏”が確立されます。ジャブジャブとポイントを発行し、お客をポイント漬けにすれば、ライバル他社の参入の余地がなくなるのです。
ポイントを発行する企業が、国内企業ならまだしも、敵対国の企業だったらどうでしょうか。敵対国のポイントという疑似通貨による“排他的経済圏”が作られることになります。
政府はマイナンバーカード普及に躍起になっています。マイナンバーカードを取得すれば、「マイナポイント」がもらえます。「マイナポイント」とは、マイナンバーカードを所有している人が申し込むと、指定したキャッシュレス決済サービスで最大20,000ポイントが獲得できる仕組みです。マイナポイントは、街中での支払いやネットショッピングのときなど、いろいろなところで利用できます。これはほぼ「お金」です。
ところが、「マイナポイント」の事業費は閣議決定され国会で承認されれば、関係事業者に利権がばら撒かれます。21年度の補正予算は約1兆8,000億円です。2018年度にクレジットカード会社が発行したポイント総額が2兆円くらいかとも言われています。私の想像ですが、コロナ前とコロナ後ではキャシュレス決済が4倍になったことを踏まえると、2023年現在は、2018年の4倍、8兆円前後だと思われます。
社会保険料は閣議決定し、国会が承認すればいくらでも増やすことができるので、今や税金と社会保険料を合わせた「国民負担率」は47.5%です。働いた分の半分は持っていかれるわけです。令和2年の「国民負担率」は38.4%。増えたのは社会保険料で10.6%が18.7%と8.1ポイント増えています。
日本の名目GDPが560兆円、日本における通貨流通量が110兆円といわれるなかで、民間企業が発行したポイントが2兆円(2018年時点)、政府の発行するマイナポイントが1.8兆円、都合3.8兆円のポイントが流通していることになります。民間企業が発行したポイントが8兆円(筆者推定)だとしたら、9.8兆円です。令和5年の防衛予算は6.6兆円です。いかに膨大かが理解できると思います。
国や地方自体の会計が「一般会計」と「特別会計」に分かれます。「一般会計」細かい項目まで国会で議論されますが、「特別会計」は十分な議論されることも、報道されることもありません。ところが、「特別会計」は「一般会計」の4倍、400兆円です。
私は今後、「既存の通貨」と「ポイント」の関係は「一般会計」と「特別会計」のように、規制を逃れ野放し状態で増え続けることを危惧します。
ポイントを発行している企業が日本の企業ではなく外国の企業であったらどうでしょうか。ポイントを無尽蔵に発行し、ポイントを円もしくは実物資産に交換された暁には、日本は外国の植民地になります。
私が一番恐れるのは、通信障害と電力不足です。規模の大小はありますが、通信障害は日常茶飯に起きています。富士山噴火や南海トラフ地震などで通信障害と電力不足が同時に起きることも当然あります。
地震などの天災で、電力供給が滞ったら、キャッシュレス決済は無効化します。救援物資が届くまで2~3日は我慢できるかもしれませんが、救援物資が届かず、水と食料不足が7日~10日続いたら、水と食料を求めて各地で暴動が起きかねません。防犯カメラは無効化し、警察や自治体も大衆の不満を抑え込むことができないでしょう。
知人や親戚を頼るにも通信手段と交通手段が遮断されています。ましてや、CO2削減で電気自動車ばっかりになっていたら、電力不足で電気自動車は動きません。ガソリンとガソリン車を所有する者が富を独占し、地上の支配者になるのです。1979年公開のオーストラリアのアクション映画『マッドマックス』の世界です。
政府は国民の信頼を失い、暴動を抑えるために外国から派遣された軍隊が我が国を占拠し、外国の傀儡による革命政府が擁立されるかもしれません。
食料自給率を高めるのと同時に、キャッシュレス決済比率を抑え込む。少なくとも、生活必需品は、キャッシュレス比率5割以下にしておかないと国を守れないのです。
「国難来」。もうキャッシュレスが便利でお得とは言っている場合ではないのです。