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他人のひとことで変わる、ものの見え方

先日、福井に旅行に行ってきた。
忘れたくない出来事があったので一筆。

旅行にはよく行くけれど、がちがちとスケジュールを決めるのは苦手。
いつも「ここに行けたらいいな!」を一つや二つだけ決めて、あとは宿だけとって出発する。

今回の旅では、それが恐竜博物館と東尋坊だった。

一日目に恐竜博物館に行き、「恐竜ってほんまにいたんやな…!」なんて思い直す。

二日目、目覚めると10時。
美味しいモーニングに行きたかったのになあ、とすこし悔しく思いながら、目覚ましかけずにぐっすり寝れる朝も幸せよな!
と思い直してホテルを出ると、もう11時。

朝昼兼用のご飯を食べて、ついでにカフェにも入ってゆったりして…
おっと、もう13時半。
そこから、ぼんやり行きたいと決めていた「東尋坊」に向かうことにした。
でも、天気予報はあいにくの雨。
無計画に駅の近くでゆっくりしすぎてしまった罪悪感もあいまって
気分は正直、絶好調とは言い難かった。



そんな中で乗り込んだバス。
しばらく揺られていると、ほろりと運転手さんが口を開いた。安心する、やさしくてどこか聞き覚えのあるような、おじちゃんの声。
「えー、ここで、目的地への到着予定時刻をご案内いたします。」
車内がちょっとザワザワした。
もちろん、良い意味のザワザワ。
「東尋坊にお越しの方は、到着時刻が深夜…おっと、間違えました。お昼の3時ですね。」
車内にほんの一瞬緊張が走ったあと、空気がゆるんだ。
「ここは笑うところです。」
車内は一気ににこやかになった。

そこから東尋坊に着くまで、
「こちら右手に見えますのは…」と
バスガイドさんのように名所を案内してくださったり、着いてすぐにある「夕なぎ」というお店がおすすめだと教えてくださったりした。

海の色は変わりやすいことも教わった。
「いま窓から見える水平線のところ、青くなってますね。あそこは潮の早いところです。青くてきれいな海だなぁなんて飛び込んだら、潮が早くて流されてしまいます。手前の灰色のところは、潮がゆっくりです。漁師さんなんかは、海の色を見て、その日の漁のことを決めたりもするんですね。」

途中、アンケートも行われた。
「ちょっと、聞いてみてもいいですか。元気に手を挙げてくださいね。」
「芦原温泉に行かれる方〜」
「越前松山水族館に行かれる方〜」
順番に聞かれていく。
ぱらぱらと手を挙げる車内。

「東尋坊に行かれる方〜」
一気にみんなの手が挙がった。
みんな、といっても車内にいるのは10人にも満たない人数なのだが。

アンケートが終わると、
「お答えいただき、ありがとうございます〜。聞いてみただけです。」
とおっしゃった。
車内がまた、やわらかい笑いにつつまれた。

そうして到着する直前。
「あ、言い忘れておりました。」
と話し出した運転手さん。

「運転する時はおしゃべりせずに、安全運転につとめるというのが会社の方針です。しかしながらこの路線は観光バス、少しでもお客さんに楽しんでいただきたいという想いで、私しゃべっております。全員がしゃべるわけではありませんのでね、そこのところよろしくお願いします。私のような運転手はあともう一人おります。私は二人いるうちの一人であります。」

濃淡のあるあたたかい話し方で伝えられたその言葉には、お客さんへの想いと、他の運転手さんへの思いやりが垣間見えた。
会社もきっと、黙認されているんだろうなと思った。

東尋坊に着くと、空は分厚い雲で覆われていた。
途中には大雨も降ってきて、かなり濡れた。

遊覧船に乗ろうとしたら、次第に海が荒れ始めた。荒波。


遊覧船に乗っている間に、雨は止んだ。
少ししたら、ちょっとだけ光が差してきた。
「ほんとに、この辺の天気って変わりやすいんだなぁ。」と遊覧船の方に教わったことを感じながらふと海を見ると、また水平線のところが青くなっていた。

青は、潮の早いところ。

決して100点の天気ではないけれど、
運転手さんのお話を聞く前だったら何とも思わなかったであろうこの青が、
なんとも愛おしく思えた。

帰りには、おすすめされたお店にも寄った。
べっこう色のガラスリングをお迎えした。


帰りの静かなバスに揺られながら、いろいろ考えた。
なんであの運転手さんは、案内を始めようと思ったんだろう…。

むかしはバスガイドさんがいたとか?
ただおじちゃんがおしゃべり好きなだけ?
それとも…

名勝の観光地でありながら、自殺の名所でもあるという東尋坊。
死ぬことだけ考えてバスに乗り込んだ人の心を溶かして、引き止めるため…?


いろんなことが頭をよぎった。
真意は聞いてみないと分からないけれど。

とにもかくにも
その運転手さんのおかげで、
少なくとも私の東尋坊、いやいや福井での思い出は、色濃くあたたかいものとなった。

旅って時間もお金もかかるし
疲れることも多いけれど、

人に出会ったり
言葉に出会ったり
あたたかさに気付けたり。

やっぱりそんなところが醍醐味で、
それらが私に与える影響力って
大きいものがあるなぁと、感じた旅だった。

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