2月4日(夜)
買い物から帰ると、リビングは暗闇に包まれていた。
―今回はそれが正解なのだが。
これで、あの妹が炬燵にでもいたら、大目玉を喰らわせる。
母が。
家を出る前に、風呂に入っておけといったのだ。その前に食器を洗っておけとも言ったが、さてさて。
「……」
そんな気はしていたさ。
皿洗い大嫌いだもんな。
潔癖症なんだとかふざけたことを言って、こういうのはやりたがらないのだ。潔癖で悩んでいる人に謝れ。
お前のそれは、ただやりたくない事の言い訳にしているだけだ。
ホントに潔癖なら、私より部屋を綺麗にしろ。風呂に入ることを嫌がるな。外着のままベットに入るな。―外着で布団に入るのは、個人的にはほんとに意味が分からない。
なんで、そんな汚い状態で、寝る場所に入れるんだか……。
「……」
ただまぁ、それである程度の片づけやら何やらを、せずに済んでしまっているのだから。
―全く、我が妹ながら、世渡りがお上手なようで。
まぁ、いい。
もう。気にすることじゃない。
昨日言っただろう。
そんなにひりついてちゃ、メンタル保たないって。
それより、私もさっさと風呂に入ることにしよう。
丁度、妹も上がってきたところのようだし。
「……」
炬燵で携帯いじってたら、「入れ?」とかにこやかな笑顔で言いやがった。
お前は皿を洗え。置いておいてやったから。
「……」
―さて。
パジャマ、とタオル。あと、下着類。
それと、携帯を濡れないようにケースに入れて。
「……」
寒さに震えながら、浴室に入る。
人が入った後は、床がすでに濡れているせいか、いつも以上に寒く感じる。なんせ足の裏から冷えていくのだ。
あと、普通に家族とはいえど、人が入った後に入りたくない派だ。
だから基本的には、私は一番風呂を頂く。
そのために、自分でさっさと風呂掃除をして入っているから、誰にも文句は言わせていない。
今日は仕方ないので、我慢するが。
「……」
熱めのシャワーで体を濡らしつつ、身体を慣らしていく。
―過去に2度ほど、風呂の中で意識を失いかけたことがあるので、割と慎重に。こういうのは大切なんだと学んだ。
「……」
頭を洗い、身体を洗い。
全身を綺麗にしたあとで、浴槽につかる。
ここで髪の毛とか浮いてたら、速攻出るが。
今日は大丈夫らしい。
「……」
ゆっくりと全身を埋め、体温を上げていく。
息を吐きながら、緊張を緩め、顔を上げる。
その視線の先には、小さな風呂桶がある。
「……」
我が家は昔、浴槽にためていたこのお湯を、シャワーの代わりにしていた。
桶で湯をすくい、全身にかけて。
今はもうしなくなったが。
―他の家はどうなのだろう。
「……」
確か、一度小学生の頃に友達の家に泊まった時は、驚かれたはずだ。
桶でこのお湯使うの?って言われた。
まぁ、幼いながらにジェネレーションギャップというか。そんなのを感じていた気がする。
「……」
今は、この小さな桶があるだけ。
あるだけだ。
使われているのかどうかは知らない。
こんな小さいので、何ができるのかという感じだが。
「……」
そこにあるだけで。
それだけでいいなんて。
お気楽なものでいいな。
モノに、お気楽もなにもないな。
むしろ使われなきゃ意味ないか。