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タバコの匂い

雨予報だったので自転車通学は諦めた。

最寄りの駅を寝過ごし二、三駅戻ると、しとしとと雨がぱらついていた。

まあ、道路も濡れているし電車賃は無駄にならなかったとほっとする。

眠たく重い頭を揺らしながら駐輪場横の細い歩道を歩くと、懐かしい匂いがした。

傘をあげて前を見ると、土方の男性がタバコをふかしながら歩いていた。

私はタバコを吸わないので、どれがどう言う匂いなのかわからないが、その匂いで中学の時の記憶が鮮明に思い出された。

まだセミの鳴き声もある9月の夜、私はかなり野球に打ち込んでいた。

学校が終わると監督の家で仲間たちと打撃練習を夜中までやった。

監督はネットの裏に皮張りの椅子をこしらえ、タバコを吸いながらああでもないこうでもないと言いながら私たちを指導するのだった。

自分の番が終わって、監督の横を通り過ぎるとき、そのタバコの匂いがより強くなった。

セミ、夏の終わりの涼しい夜、タバコの匂い。

どこにでもありそうなこの情景が、私を思いもしない過去へと誘う。



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