置き去りの相棒
最初に通販で買った自転車は、本物の道具ではないと正体を見破られて分解されてしまった。
お年玉で買った安物の二代目も友人のところへやってしまった。
三代目になってやっと、彼は正真正銘のロードレーサーを手に入れた。
高校の入学祝いだったそのバイクに、彼は没頭した。
部活が終わったら、着替えてそれに乗って走り、車でしか行ったことのない土地に自分の足で向かった。
「この自転車は一生乗り続けるよ」
嬉しさと感謝のあまり、両親や祖母にまでそう言い回った。
次第に世界を知ることになった彼は、自分の乗るバイクがどのような種類であるかを知ることになった。
鉄のパイプの接合部にはラグというデザイン性も兼ねた補強があり、変速はしたパイプについているレバーをハンドルから手を離し動かす。
もちろんこのバイクに愛着はあったが、時代に取り残されているような感覚に次第に陥っていった。
鉄じゃなければもっと速く遠くへ行けるのではないか。
そろそろ新しいバイクに手を出してもいい頃ではないか。
そう自分を納得させ、彼は次々に新しいバイクを手にしていった。
今、三代目のレーサーは、祖母の家の二階に部品を取り外された状態で座っている。
「一生友達だよ」と言いながら、どこで何をしているのかわからなくなった同級生のように。
たまにそのフレームを持ち上げたり、拭き上げてみたり、細部を覗き見たりする。
いつかまた一緒に遠くへ走りにいく友達になることを願って。