{そこからは/そこまでは}作家の仕事です!
仕事観の話をする。
以前、担当編集さんの1人に、こんな話をしてもらったことがある。
物語の編集者になる前は、ファッション情報誌の編集をやっていて、モデルの写真ページとかを担当していた人だ。
なるほど、面白いな、と思って。
これは『人をとりまとめる仕事をしてきた人』の矜持なんだろうな、と。
僕は、小説家の仕事にしても、エンジニアの仕事にしても、『自分で手を動かす仕事をしてきた人』だ。
会社務めをしていたときも、マネージャーやコーディネーター的な役割に押されそうになったら逃げ回っていた。
だから、自分で手を動かす仕事――カメラでどうカッコよく撮影するかとか、メイクをどう素敵に魅せるかとか、自分の手によるアウトプットとクオリティの相関がわりと明確な仕事――については、感覚がわかる気がしている。
でも、人をとりまとめて動かすタイプの仕事については、感覚をよくわかっていない。
自分の知らない道を辿ってきた人の仕事のスタイルだな、面白いな、と印象に残っているのだ。
こうした仕事をしてきた編集さんたちは、方向性やモチベーションの共有を大事にしている気がする。コミュニケーションにコストをかける。つまり飲む(語弊)。
雑誌の中でそのページをどんなページにしたいのか、どんなところを目指しているのか、カメラマンやメイクさん、モデルの人たちと、しっかりビジョンの共有を行って舵取りするのが仕事だから、そうしたスタンスになるのだろう。
で、共有したら、「ここから先は、それぞれのプロの仕事です」と。
カメラの機材の選び方だとか撮り方だとか、メイクのこまかい仕方だとか、そんなことには編集者は口出しできません。まかせます。
そういう仕事のやり方だ。
まだ新人だった僕は、これがすごくやりやすかったので、
「なるほど、商業ではこんなふうにすれば、うまくいくんだな~!」
って、思って。
すっかりそうした仕事の仕方に慣れたあと、別の編集さんと立ち上げをすることになった。
「よし、じゃあまずは一緒に、方向性の共有をしよう!」と思って、いろいろ話を振ってみるのだが……。
なにを話しても編集さんから、木霊みたいな答えしか返ってこない。
(この仕事、気乗りしないんだろうなぁ……)
としょんぼりしつつ、それでもいろいろ話そうとしていたら、あるとき、すごく戸惑ったような感じでこう言われた。その人は漫画出身の編集者だったんだが、
僕がそれを聞いて、思ったのは…。
…あれ?
べつに…まちがってねえな? ……って。
たしかに編集者って漫画家からネームをもらって、それに対してあれこれ言ってるよなって。ぜんぜんまちがってないぞ。
まちがってないのに、なんでこんなに噛み合わなくなってんだ? …と。
で、図にしてみました。
つまり、これは、各人の、自分の仕事の定義についての話なんじゃないかな…と思って。
「ここから先は自分の仕事」なのか、それとも「ここまでは自分の仕事」なのか。
仕事の上流から下流までの流れのなかで、どこを自分の仕事/責任範囲と捉えているか、という部分のすれ違いの話なのかなと。
ファッション情報誌出身の編集さんは、前述したように各クリエイターへのビジョンの共有を自分の仕事/責任と考えていたので、上流側で握る仕事の仕方をした。
漫画雑誌出身の編集さんはそうではなくて、作品のクオリティ担保を自分の仕事/責任と考えていたので、下流側で握る仕事の仕方をした。
それはどちらが正解でどちらが間違いということではなく、たんに位置取りの話である。
そして、下流を自分の仕事と捉えている人に、僕が上の人相手のときとおなじように上流で話をしようとしてしまったがために、「自分の仕事範囲じゃないところをいろいろ言われて、面倒くさいなぁ…」と思われて、そろってモチベーションダウンしていった。
……そういうことだったのではないかしら、と。
自分が自分の仕事と思っていることと、他人から自分の仕事と思われていること。
両者が食い違っていると、モチベーションの低下を生んでいくのは、どんな仕事でもおなじなんじゃねえかな…とか。
で、僕としては、創作畑出身の人は、どちらかといえば下流で握る感覚が主流であって、上流で握る人の方がむしろレアケースなのでは…? とか、上流で握る仕事をする人にしても、年齢が上の相手には気を遣ってやりにくいのでは…? とか、ディレクションするにしても自分の守備範囲外のものをディレクションするのはむずかしいのでは? とか、仕事のやり方を変えるべきかな? でも過去にそれでやってうまくいかなくて、やり方変えたんだったよな…? とか。
いろいろ、いろいろ、考えていって……。
まぁ、しばらく書けなくなったよね…。
何年か前の話なので、今ではさすがに書けるようにはもどったのだけど。
今でもそのへん、どうするのがいいのかいまいちわかってない。
わからぬ。まったくなにごとも我々にはわからぬ。