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アオイソメを食べた話

※画像はありません。ヌマガエルですら載せなかったのにアオイソメなんて載せるわけないんだよなぁ…各自、自己責任でググってください。とりあえずトップには、卒業旅行に行ったとき撮った沖縄の海をアップしときました。綺麗でしょ?でももう、今の俺は「奴らが住んでそう…」とか思ってしまう(沖縄には多分生息してないと思うけど)


はい、アオイソメです。釣り餌として有名なアイツですね。
ググる勇気がない方向けに、その姿形をざっくり説明しますと、ミミズとムカデが合体して、更にその足の本数を2倍以上に増やした感じの見た目をしてるクリーチャーです。釣り人でも触れない人は少なくない。

「イソメ」という名がついてはいるものの、こいつはゴカイの一種です。いわゆる「イソメ」は毒を持っているらしいんですね。俗に「イソメ毒」とも呼ばれるそれは、正式名称を「ネライストキシン」と言うらしい。
それに対して、アオイソメは無毒である。そして、ゴカイを食べる地域は意外に多い。故にアオイソメも食べられる。
そういう情報がメジャーです。

ところが調べていくうちに、アオイソメもこのネライストキシンを有しているとの情報が出てきました。曰く、弱った時や傷ついたときに、それを分泌するのだとか。このネライストキシンは有機リン系殺虫剤にも使われる成分で、慢性的に曝露すると人体にも様々な悪影響を及ぼすらしいです。こわいですねぇ。

えー、このアオイソメ、野食を行う人間の中ではそれなりにメジャーな食材?です。
なんで「食材」に疑問符を付けたか。
それは、こいつらを食べた、体感8割以上の方が「不味い」「食えたもんじゃない」「水風船のゴムのニオイ」と評しているからです。

ところが、野食を行う人間なら多くの方が読んでいるであろう名著『「ゲテ食」大全』では、逆に絶賛されているんですね。
「下手な雑魚など足元にも及ばぬ美味」とまで書かれています。また、インターネット上で検索しても、少数の方は「結構普通」「苦味が強くて旨みが薄いカキフライ」「味だけで言えば貝類のキモ、見た目に難がある」という旨のことを述べています。

そして、通常の個体は生でも火を通しても「苦い・臭い・不味い」が、抱卵個体を生で食した時のみかなりの美味である、という声も。

偉大なる先輩たちの間でも、意見が割れるこのアオイソメ。
まあ…食ってみるしかないでしょう。
あ、毒は大丈夫なのかって?まぁ、今回少し食べてみるだけですし、死にゃしないでしょう。結構な人が食べてるみたいだしね。まあ、そうでなくとも、生き餌として売られているアオイソメは様々な薬品が使われている可能性大らしいので、そういう面でもあまり良くは無いですが…。というわけで、念のため真似しないでくださいね。生食は寄生虫の心配もありそうだし。

さて、ついにこの時が来ました。
ジャスミンライスを買いに行った途中のイシグロでアオイソメ売り場へ。
水槽の中の「奴ら」を見て、その姿形に改めて嘆息する。
ああ、もう後戻りはできない。

中サイズを50g購入、にするか。まあ、たかだか1円玉50枚分です。そんなに大量にはならないでしょう
店員のお兄さんに、「アオイソメ中サイズを50でお願いします」と言うと、手慣れた様子で箸を持ち、水槽へ。ここで思いがけず、アオイソメをドサっと掴んで秤の上のカップにのせる。44g
お兄さん、(あれ、まだこの程度?)という顔をする。安心してくれ、俺は貴方の100倍くらいそう思ってる

再び水槽へ手を伸ばすお兄さん。「も、もう結構です!」などと言えるはずもなく、その姿を黙って見守るしかない僕。
でも、今考えてみれば「あ、そのくらいあれば結構ですよ〜!余っちゃっても困るので!お金は普通に50gぶん払うんで!」とか言えば良かったと思う。この時の俺はそこまで頭が回らなかった。

まあ、今まで食ってみよう食ってみようとは思っていたんです。ですけど、どうも踏み切れずにいたんですよね。
というのも、僕、脚の多い生き物が苦手なんですよ。芋虫は平気なんですけどね。ムカデとか、見ただけで結構ゾワっとしてしまう。こんなことしててこう言うのも説得力ないですけど、結構デリケートなんですよ、僕。

……じゃあなぜ、よりによってアオイソメなんて食ったかって?


だって、人生は一度しかないから。


はい、そういうわけで…、食っていきます。まず生で行くしかないですね。

カップを開ける。キモい。
しかも蓋にへばりついてるのがいる……。触りたくないので爪楊枝で落とそうとしたんだけどいきなり素早く動くんじゃねぇよ!!!割とマジでビビったわ、もうほんとにやめてほしい。

手で触りたくないのは、別に触れないほど気持ち悪いからではないです。
いや、「ないです」とまで言うのは言い過ぎなんですけど、もう生でこいつらを踊り食いしなきゃならん運命を控えてるんだし、それはかなり薄れてる。幼少期、海釣りに連れてってもらった時も、普通に素手でぶちぶち千切ってたし。

問題は、こいつらが噛んでくるということです。流石に、いま噛まれたら生理的嫌悪感が好奇心を上回ってしまう
嘆きと悲しみ、絶望と嫌悪感をギリギリのところで上回ってる好奇心。この配分が大きく崩れたら、もう無理になってしまう。

ザルにあけて、水洗いをする。水を浴びてゴキゲンに踊り狂う彼奴等。少年時代のトラウマ、ハリガネムシの姿が脳裏によぎる。
今は無理だけど、いつかハリガネムシも食ってやりたいですね。恐怖心だけ植え付けられてそのままなのは悔しいもん。俺に恐怖心を植え付けた報いは、どこかで必ず受けてもらう。

では……はい。箸で一匹目だけ掴んで、皿の上に乗せる。

【ところがその蒸しパンも、その外皮が既にぬらぬらして来て、みんな捨てなければならなくなっていました。】

太宰治『たずねびと』より

奇遇だな。俺の目の前にも外皮がぬらぬらしてる奴らがいる。ところが、俺はこれを捨てるわけには行かない。気の毒だが、俺もアオイソメと一緒に死ぬる覚悟をきめるんだね。それがもう、いまでは、おれの唯一の、せめてものプライドなんだから。

とりあえず切ってみよう…。上述した抱卵個体は、切ってみるとわかるらしい。断面から、緑色の体液や赤い血と一緒に白い液体が滲み出てくるんだとか。いやー、とっても美味しそう!!楽しみだなぁー!!わくわく!!

一匹目を一刀両断にすると、のたうちまわりながら上半身が噛みつこうとしてくる。もういい。疲れた。今更もう、どうでもいい。

白い液体、確認できず。とはいえ、抱卵個体だけでなく通常個体の味も検証せねばならないので、踊り食いしない理由にはならない
はい、パクッ!コリコリ……。

……ん?普通じゃね?
いや、思ったよりも普通。海水(塩水)の中にいる生き物なので、まず塩味はある。そして悪名高い苦味も勿論あるのだが…、それほどキツいものだとは思えない。むしろ、これなら貝類のキモのほうがよほどキツい苦味がある。
肉の風味も普通だな…?
明らかに順序がおかしいが、ここで初めて、鼻で匂いを嗅いでみる。

……普通だな?
いや、磯臭いですよ?磯臭いんだけど、別に「くっせぇ!」ってほどの臭気は無い。磯に住む生き物なら普通。魚の方がよほど臭い。
なんなら、【磯の香り】と表現してしまってもいいくらい。このあと、念のためもう二匹の通常個体を食べてみたが、評価は変わらず。

うーん…。不味くないよ。これなら普通に食える。むしろ、ちょっと美味しいまである。とはいえ「下手な雑魚など足元にも及ばぬ美味」というほどではないです。普通に下手な雑魚のほうが美味い。

じゃあ次、抱卵個体を探そう。
皿の上にあげて、次々と一刀両断。四匹目でついに来た
真っ白な液体が溢れ出てくる、抱卵個体だ!
ほい、パクッ。コリコリ。
…美味い!これはびっくり。美味い。豊かなコクがある、上品な甘みがある、大トロを彷彿とさせるような脂の乗った風味がある!
確かに抱卵個体は美味い。これならもっとたくさん食べたいくらい。見た目がコレでなければ。

さて…、どうしたものか。通常個体の不味さに関しては覚悟してたんだけどな。
抱卵個体からコク、甘み、脂の乗ったような風味を引いただけ、という感じ。
野食の先輩方は、通常個体・生の不味さをどうにかしようと、色々な工夫をされていた。ところが、通常個体が普通に食えるレベルとなると、逆にどうしたものかと戸惑ってしまう

まあ、これ以上生で食う気にはあまりならない。見た目に関してはもう殆どどうでもいいんだけど、なんせ寄生虫が怖いのである。いくら、海のものだから淡水に住むやつらよりかは安全だと言ってもね…。リスクを取るのと、それを最小限に抑えることは両立する。

というわけで、竜田揚げにでもしてみようか。後は消化試合だな。

アオイソメを袋に入れ、下味となる酒、みりん、醤油を投入。当然、その瞬間は暴れ回るのだが、なんかめちゃくちゃキモい液体を放出してくる。口や肛門、断面から出すのならまだわかる。当たり前のように体表から謎の液体を分泌するのはやめてくれ。消えかけていた嫌悪感が再び蘇る。というか、これは嫌悪感というより畏怖だ。
もう、キモいとかじゃない。怖い

まあ、炒める時に妙な液体を吐き出し、青緑色のヤバい物体になるというのは既に調査済み。ならば、下味の調味料でついでにシメてしまい、衣をつけて揚げれば、ヤバい物体にもならずに済むのではないか、ということです。

片栗粉をまぶして、数匹まとめながらカラッと揚げる。おお、美味そうじゃん。狙い通りヤバい色味にもなってないし、衣がいい感じに奴らのフォルムを誤魔化してくれる。

まあ、上述した通り、後は消化試合です。一つとって、サクッとな。うん、揚げちゃうとぶっちゃけなんでも軽く食べられ




ウォォエゥエッッ!!!


マジでこの文字通りにえずいた。何が起きたか、理解する暇もなかった。

にっっっが!!!苦すぎる!!!あと、くせぇ!!!えっ、なんで?えっ?
「生の状態の苦味は加熱しても消えない」、これは知ってる。そして今回、「生の状態の苦味は全然たいしたことなかった」。
いや、でもね、でもね?「生の状態では普通だけど加熱すると苦くなる」なんて聞いてねぇぞオイ!
アオイソメを絶賛してる『「ゲテ食」大全』の著者ですら、「生のまま食べればより鮮烈な苦味がある」って言ってんだぞ?
おいこれどういうことだよ?臭み?なんかもうそっちはどうでもいい、苦味がおかしい。あっそうか、焦げてたんだな!まあ多分焦げてなかったと思うし、明らかに「焦げの苦味」じゃないんだけど、多分そうだ、うんうん!
もういっちょ行こウゥオエェッ!

……ダメだ。これは食えない

というわけで、粉砕して鼻つまんで、水で流し込むように飲みました。

もう二度とやりません。

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