稼働日記〜伝説の演説〜
普段、設定4以上を特定日や新台入替日に使っているお店。特定日前日から滅茶苦茶煽っていた。
「打ち切り早くなりそうだなあ」
煽りすぎじゃないか? いつも対象の当たりは設定4が多数。そこまで煽る程じゃない。俺はそんなことを考えながらも、目覚ましをいつもより早くセットし、眠りについた。
ピピピピピー!(六根清浄!)
目覚まし時計が鳴る。カバネリの時計は音量調整ができない。Sammyの開発する台も時計も音量がおかしい。今日もカバネリの時計は耳をつんざく。
「音の再現度が高すぎる。いつのまにかホールで寝てて、爆音マン隣座ったかと思った 」
カバネリの目覚まし時計に起こされ、いつもより2時間近く早く家を出た。
「もう台数を超えてるんじゃないか?」
朝早くから着いたのに関わらず人の数が異常だった。まるで繁盛店じゃないか。驚いていると、
「押さないでください。押さないでー」
ここが地獄だろうか。満員電車にいるかのようだ。抽選権利を争奪するために人が雪崩のように並ぶ。まるで満員電車に駆け込むサラリーマンのようだった。もちろん、俺は乗り遅れなかった。
「満員電車はもう慣れてんだよな。あまり物には6があるっていうしな。きっと大丈夫だろう」
空いてる台に座るプランでいくかぁ。そんなことを考えていると、
「今日は伝説の日になりますよ」
店長が、ニヤニヤ笑いながら俺に声をかけた。
「伝説ですか?中間でも大丈夫ですよ」
「入場後には分かりますよ」
「またまた〜」
いつもの調子で店長はお客さんに声をかける。毎回、朝から顔を出すのは素晴らしい店長だなぁと感心していたが、まさか、この伝説の日が真実になるとは俺はこの時は知る由もなかった。
抽選番号は良くもなく悪くもない30番台。入場したが、バラエティの6号機しか取れなかった。でも好きな版権だ。負けても納得だ。今日はこれでいい。店長を信じよう。設定4以上あってくれよ。
この時、店内がいつもと違うと気づいた。何もかもが違う。直感だった。異様な雰囲気だ。すると、店長がマイクを取り出した。
「皆さん朝早くからお並びいただきありがとうございます。私、この店舗で店長を務めさせていただいて半年になりますが、たくさんの設定を組んできました。ですが、もしも、もしもですよ。店内のスロット45台全て。全台が設定6の店があったらみなさんどうしますか? 」
「打ちたーい!」
若い男性が声を上げた。
「打ちたいですよね。スロッターの夢。設定6。それが打ちたくて、皆さん、朝早くから並んでくれていると思います。スロッターの夢ですよね。もし、店内の台が全台設定6ならどうなってしまうのでしょうか。もしもの話ですよ。この店の話とは言っていませんよ」
パチパチパチパチ👏
拍手が起こった。異様な光景だ。だが、確信があった。これは真実で夢ではない。おれも自然とパチパチパチと拍手をしていた。
「しかし、残念ながら、今月いっぱいで、閉店となります。最後になりますが、今日、みなさんの夢を叶えます。休憩している暇なんてありませんよ。今日は精一杯ぶん回してください」
確信があった。だからおれはマイスロを入れなかった。マイスロなんて必要ない。メモもいらない。そうだろう店長。俺はこの日をずっと待っていた。ありえないなんてことはありえない。そうだよな。店長。
店長ありがとう。そして、お疲れ様。ゆっくり休んで、また、夢に向かって頑張ろう。小さな事でいいから変わり続けよう。スロットも人間も変わっていく。時代は変わり続ける。
こんな時代に6号機の虹トロフィーを打てて良かった。本当に...…