魔法の宝石アレキサンドライト
ジュエリーの制作やデザインの仕事をしている長い歴史の中で、この「アレキサンドライト」という宝石を語らない訳にはいかない!。そんな至極の逸品として正に『変色する宝石の王』とも、世界の五大宝石(貴石であるダイヤモンド・ルビー・サファイア・エメラルドの四大宝石にプラス一大宝石として加えられて)に名前を連ねる中でも宝石愛好家が憧れとしてこよなく熱望し『ダイヤモンドを凌ぐほどの宝石の王様』と崇められ君臨していた時代が日本にもあった事には特別な理由があったと感じます。
その一つは【変色効果(カラーチェンジ)による自然から生み出された魔法の魅力】で、貴石を全て集めたジュエリー嗜好の高い方々のハートを射止めた時期がちょうど日本高度成長の絶頂期にあったからと思います。
この変色効果は照射される光源[光の波長(解りやすくは:蛍光灯と白熱灯)]によって変化するのですが、光学的な検知から説明すると、鉱物組成であるクリソベリル【BeAl2O4】にごく微量の鉄やクロムなどの不純物を含むことから生じます。
・青緑色系スペクトルの強い太陽光(または蛍光灯の明かり)の下では暗緑色を示す。
・橙赤色系スペクトルの強い蝋燭の明かり(または白熱灯の明かり)の下だと色が鮮やかな赤色に変わる。
という現象ですが、文章で少し解りやすく説明したいと思います。
よく馴染みのある光線の名前に「紫外線」と「赤外線」があります。どちらも目に見えない《不可視光線》で、その間に《可視光線》が虹色に紫・青・緑・黄・橙・赤 と存在する状況です。宝石の色もそのどの色が吸収されて見えず残りの色がどの程度見えるかで決まります。そこでアレキサンドライトはというと微量の不純物によって紫・黄を吸収して青・緑と橙・赤が目に見えてきます。通常ですとこれだけの全ての色がどれだけの光量混ざってどう見えるかになるのですが、アレキサンドライトは反射する光に青&緑色要素と橙&赤色要素の両方が平均的にあるため光源のスペクトルが青緑色系VS橙赤色系のどちらが強いかで変色するという事です。そうなんです、≪両方が平均的≫ということが重要なポイントなんですね。どうでしょう?解りますでしょうか。
太陽光と蝋燭の炎で表現出来る変化を楽しめる情景も、また情緒を感じて所有して試したくなる魅力の一つと言えるでしょう。
また、同じような効果としてカラーチェンジガーネットなども存在しますので、区別されて《アレキサンドライト効果》と呼ぶこともあります。
そして、もう一つは【硬度8.5とされながら優れた靭性による日常身に着ける安心感の或る硬さ】が、宝飾販売店やジュエリーデザイナーと制作の職人の中でも多彩なデザイン性を持たせる事につながり、若干硬度や処理の心配があるエメラルドよりアドバイザーの方々が興味を惹かれるようになったと思います。そこでモース硬度と靭性の解説ですが、確かにダイヤモンドは硬度10で一番硬い(現在は【ウルツァイト窒化ホウ素】が地球上で一番硬いそうですが...)のですが、実は劈開面があるので一定方向に衝撃を加えると割れます。職人の世界では定説なのですが、その劈開が無い事で得られる『靭性』の面ではダイヤモンドよりもルビー、サファイヤのコランダムやジェイダイト、ネフライトの翡翠と称される宝石の方が高く、アレキサンドライトもその上位に属しています。制作する上ではこの靭性の方が安心なこともあります。
更に、もう一つは【産出量が少なく大きいものあまり取れないという希少性】です。3カラット以上の宝物に出会う事はほぼ皆無で、尚且つ通称「ジェムクオリティ」と呼ばれる上級のカラーチェンジを見せるものも少ないというのが正にコレクターズアイテムとして扱われるのだと思います。仕入れなどの際、このジェムクオリティを見極めるのが難しく、光源条件を一定の認識で見なければいけないので各国で仕入れる際は自然光の状況が変わりますからお気を付け下さい。
このような一級宝石に相応しい要素を兼ね備えていることが、高級となる知名度に上り詰める結果につながったのは言うまでもない事と思いますね。
一般的な歴史の話は、1830年にロシア帝国ウラル山脈東側トコワヤのエメラルド鉱山で発見された為、発見時はエメラルドと思われていたそうですが、変色効果を確認したことで他の宝石には見られない性質のために別の宝石と判断されました。そこで付いた名称アレキサンドライト【alexandrite】(アレクサンドライトとも表記される)の由来は、珍しい宝石として当時のロシア皇帝ニコライ1世に献上された日が4月29日で皇太子アレクサンドル2世の12歳の誕生日だったという事からこの名前になったとまことしやかに言い伝えられているそうです。
1975年に人工合成石の製造に成功していますが、合成の需要があまり生まれなかった事と製造コストが高くなる製法でしたので市場にはあまり出回らなかったいう事ですが、店頭では数石見たことがあります。
鉱物としては、宝石のキャッツアイという呼び名で有名なクリソベリル(金緑石)の変種となりますので、この変色効果が少しでも見られなければアレキサンドライトとは認められないというのが鑑定の見解基準となります。
という事は、クリソベリルと同じ鉱物ですのでキャッツアイ効果(シャトヤンシー)で光の効果による猫の目のような模様が出る言わば『アレキサンドライトキャッツアイ』も存在します。
産地別の特性傾向を簡単にまとめますと、[ブラジル産]はミナスジェライス州がやはり有名な産地(他の宝石も産出する正に『宝石の鉱山』という州)で、変色がはっきりするものが多く色合いも綺麗でインクルージョンも比較的少なく透明度が高いと全てが最上級品質とされています。唯一、その品質のせいか大きい石の産出が少ないです。[スリランカ産]はラトナプラ地区が有名な産地です。黄色を少し含むために緑も薄く赤というより橙に近い変色にとどまりますが大きい石が取れるというのが特徴です。[ロシア産]は発祥の地でもありますので人気はあります。ウラル山脈付近の産出は緑色から赤色への変色バランスが良くこちらも上質なのですが、インクルージョンが多いという傾向があります。だだ現在は産出量がかなり少ないので幻と表現されることもあります。[タンザニア産]は他の宝石も同様に地質的にも変わった条件なのかアレキサンドライトキャッツアイが産出します。加えて少量ですがかなり良質な物も採れます。鉱山はマニャラ湖の西岸が有名です。[マダガスカル産]は現地が現在かなり色々な場所で様々な宝石の産出が進んでいて、良質なものも産出しているそうですが、採掘され始めたのが最近で当社も情報不足の為にはっきりとした実質量などは伺えていない状況です。まだまだ今後もリサーチが必要な宝石ですので、しっかり勉強していきたいと思います。
【産出国】
主要産地国 ブラジル・スリランカ・ロシア・インド・タンザニア・マダガスカルなど
【鉱物組成】
BeAl2O4
硬度 :8.5
比重 :3.71-3.75
結晶系:斜方晶系