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『桃色な宝石の関係性』

ジュエリーを制作するというお仕事は特にデザインも女性を対象にする方が男性の為のジュエリーより多いので、ピンク色の魅惑的な宝石は世界中人気があります。それだからでしょうか、一般的に「宝石」として有名なピンク色の石名を並べてみますと、ピンクダイアモンド・パパラチア(パパラチャ)サファイア・ピンクサファイア・ピンクトルマリン・ローズクォーツ・モルガナイト・クンツァイト・ピンクスピネル・コンクパールといったように宝飾業界の方もヒーリングジュエリーのようなパワーストーンとして天然石を扱っている業界の方にも、老若男女様々な世代のお客様へのジュエリーとして作品に使われている認知度の高くてしかも熱心なファンに愛されている宝石が多いと思います。そんな有名な桃色の宝石もヴァンモアは紹介していますが、今回はその色の宝石の中では趣きのある、そして意外とコレクター心理(収集感情)に火をつける珍しい宝石として【インカ・ローズ/ロードクロサイト/ロードナイト】と呼ばれる宝石名のピンク色石を紹介したいと思います。
昔、この宝石達は当社のようなジュエリー作品をマルチに制作している会社以外ではあまり使われず、もっとメジャーな貴石と呼ばれるダイアモンド、ルビー、サファイア、エメラルドの四大宝石といった宝飾品取扱が中心でしたので表舞台では見かけない宝石でした。ヴァンモアは創業の頃に「ジュエリー教室」としてもスタートしていたので、生徒さんの為にも興味のある宝石を集めて仕入れていた経歴からこのような面白い宝石を少し早くから作品として販売していた経緯がありました。更にその生徒さんから職人となり現在も同じ業界で仕事をされている方もいて、宝石の硬度を数ある文献で知る以上の経験により石をセットする爪と呼ばれる部分の形状など細かい感覚を身につけることが出来たメンバーで運営することが出来たので、今は全国から様々な依頼が来ているとも感じます。
その時代からもやはりピンク色だからでしょうか、この変わった宝石インカ・ローズ/ロードクロサイト/ロードナイトはかなり昔からジュエリー制作に使って来た記憶があります。そんなマニア垂涎のこちらを一つずつ紹介しますと、
(※「インカ・ローズ」と「ロードクロサイト」は同じマンガンの炭酸塩鉱物で化学組成も MnCO3で同じなのですが、市場では分けて名称が記載されているので別々にまとめました。ただし、販売名称が下記のようにしっかり区分けされていない事が昔から多くありますので逆の印象の名称が付いていることもありますが、知識としてこのようにまとめておきました。)
【インカ・ローズ】
「インカ・ローズ」という名前の由来は、中南米でも特にアルゼンチンのサンルイス州で産出して採掘が行われたものとしては世界最古となる鉱山があります。そこは13世紀頃の古代インカ帝国によって営まれていた銀・銅の鉱山で、層状のロードクロサイトが得られていました。「ベーコンカラー」「ベーコン模様」「ベーコンストライプ」と言われるように、現代の人には食卓に出てくる『ベーコン』に非常に似ているのでバイヤーの間ではそう呼ばれることも多いですが、昔の人はロマンチックなインスピレーションを抱いたものでこの縞模様をカボション・カットに研磨した際に見える縞のコントラストや波紋のような模様が薔薇を想わせた事から「インカの薔薇」「ロジンカ(Rosinca)」「インカローズ(Inca Rose)」と呼んでその名称が付きました。ということでお解りのように鉱物としての正式名称はロードクロサイトなのですが一般市場では通称の方のインカ・ローズという名称の方がとても人気があると感じます。その認知度の差からか、素材として仕入れる際も街中で見かける時もインターネットで販売されている物もこのインカ・ローズとロードクロサイトという名前を明確に分けている訳ではないので、縞模様のあまりない綺麗な透明感のあるピンク色の宝石も解りやすくインカ・ローズと表記してあるものもあります。鑑定士としてGIAで宝石の知識を学んだときは正式名称のロードクロサイトとして紹介していますので、ヴァンモアのように知識を持った販売店は両方明記していることも多いです。

【ロードクロサイト】
「ロードクロサイト」とはギリシャ語で[薔薇]の意味のrhodesと[色]という意味のchrosより『薔薇色の石』という意味になるように薔薇色であることから名付けられました。菱型~平行四辺形の結晶体である為に、宝石(ルース)として販売用のケースにはいっているものがよくトランプのダイヤマークの形になっていることがあり、色も綺麗なものはそのインスピレーションが鮮明に浮かびますのでついデザインイメージで引き寄せられてしまう事があります。透明度があるものでカットを綺麗に施してあるとエメラルドのピンクバージョンのように品格のある美しさです。専門的には内包物(インクルージョン)がエメラルドはベール状の湾曲した形もありますが、こちらは直線的で印象が違いますけれどここはチョット宝石の魅力を言葉で伝いたいという気持ちで多めに見てくださいね。職人としてもまたエメラルドと比類する石留の難易度がありまして、モース硬度が[3.5~4]と一般に日常で体感した事がある例えを探しますと石膏を何かで傷付けた時のような「ザクッ」っとした感覚の硬さしかありません。専門的には[カルサイト]あたりと近いので石を留める時に気がつかずに少しチップのように欠けていたり、最後にただ流水で流しているだけでも石留の不可抗力がかかっていてポロッと欠けていたという事がありますので注意が必要です。このモース硬度クラスの宝石で最近やや高価な価値の印象がある宝石というとヘミモーファイト(ヘミモルファイト)です。一般的にジュエリー職人業界で柔らかい宝石というとオパールの名前が出ますがそれより柔らかいとても難易度が高い作業となりますので、一流の職人でもこの自然の硬さしかない石をジュエリーに完璧にセットすることが非常に困難です。機械でも人間でも自然を完全に意のままにする「絶対」という言葉が存在しないような、職人の努力はその緊張と訓練で日々出来ていると皆さんにお伝えしたいと思います。
しかしながらヴァンモアはそんなロードクロサイト&インカ・ローズも数々の経験を持ってして石留して参ります。日本でもハイクォリティーなジュエリー職人が少なくなりつつある世の中、この熟練の技術も継承していかなければと実感しています。
ごく稀ではありますがシャトヤンシー(キャッツアイ効果)が出るものもあります。

【ロードナイト】
そしてこちらのロードナイトを一緒に紹介する理由としては、見た目がロードクロサイト&インカ・ローズととても似ているものがあります。不透明なものは少し解りやすく「トルコ石のように黒いネット模様が少し入るピンクの石」というイメージです(その黒い模様が無いものもあり、その場合はやや難しいですが[縞模様]がポイントかと思います)。鑑定士の資格を持っていてもバイヤーとしてルース(裸石)販売の場所に行って値札の名称が間違っていても屈折計などの機材がないと判別できないこともあるので業者間のやり取りや信用と信頼のつながりがとても大切です。それでも初見で判断しなければいけない時は、ロードクロサイトには縞模様のベールを探し、ロードナイトには雲のような靄(モヤ)を探します。鑑定の授業で教わった方法ではないのであくまでも印象で仕入れの際にインプレッションで感じているコメントですから、実際に迷ったらやはり正確に鑑定しましょう。どちらも透明~半透明の石はカットされて市場で見ると綺麗で誘惑的でまさに宝石!と言える逸品です。原石の状態はロードナイトがゴツゴツした石であるのに対してロードクロサイトは結晶状の部分があるのが特徴です。日本でも岩手県の野田玉川鉱山でロードナイトが採掘されるようです。

このように「ロード」とはバラを意味していますので「ローズ」と同じ意味となります。日本では赤色を連想する薔薇を名前に付けていますから「世界ではバラはピンクなのかな?」と思ったこともありますが、何より宝石には魅惑的な名前を付けたいという感情から、世の中の女性にプレゼントする代表的な花(薔薇)がネーミングに使われているという事ですかね。そうしてみると、この宝石達には「紳士(男)淑女(女)」が見え隠れする思惑が世界中のどの国でもあるようです。国境を越えて男女での桃色な宝石の関係性を知ってしまうと、人間味溢れる宝石と密かに想いながらピンク色の宝石を作品へ制作する時にはつい考えてしまいます。
宝石の知識を深めるとそのジュエリーを求める方の小説のような感情を抱くこともあり、ちょっと職人仕事が面白い時もあります。

《更にちょっとマニアックな宝石》
【ペツォッタイト (ラズベリル)】
ピンクの宝石としては近年誕生した宝石にこの「ラズベリル」があります。文字通りラズベリーカラーのベリル(鉱物)ということから省略言葉(略語)のようになっています。コチラの宝石の方が[ベリル]ということでエメラルドと同じ鉱物ですしこのラズベリルの硬度も[8.5]とエメラルドと同じから少し硬いぐらいと各記事に記載があります。ですからロードクロサイトよりエメラルドのピンクバージョンという表現が当てはまるかと思いますが、何より発見されて一般市場に見かけるようになったのが「2002年11月:マダガスカル南東部フィアナランツォア州 のサカヴァラナ鉱山にて発見」という2003年頃からとかなり最近の宝石で、「ペツォッタイト」という名称がついたのも発見したイタリア人鉱物学者の名前から「2003年9月:国際鉱物学連合(IMA)はベリル グループの新鉱物と認めて正式名として認定」となり、今後の話題が気になる宝石という印象です。その名称が付くまでの2002年11月~2003年9月頃にはマダガスカルが産地という事もありトルマリンが取れる地域のため、しばらくはピンクトルマリンのように市場に流通したそうです。確かに見た目も似ていますが硬度や結晶状況を考えると宝石のカッターはすぐ気がついたと思います。ですのですぐにベリルと判明して「レッド ベリル(ビクスバイト)」や「マダガスカル レッド ベリル」、「ラズベリー ベリル」、「ラズベリル」、「ピンクベリル」といった呼び名であったそうです。
もし見かけることがあったら新種の宝石と覚えておいてください。
ちなみに、こちらの宝石もエメラルドと同じ状況で含浸処理(オイリング)されているそうなので専門的な超音波洗浄やスチーム洗浄の熱蒸気による作業そして液剤を使うことから通常の一般洗浄まで注意してください。

《ロードクロサイト(rhodochrosite)・インカ・ローズ(incarose)》【和名:菱マンガン鉱(りょうまんがんこう)】
【産出国】
主要産地国 アルゼンチン・オーストラリア・ドイツ・ルーマニア・スペイン・アメリカ・南アフリカ・日本など
【鉱物組成】
MnCO3
硬度 :3.5~4.5
比重 :3.45-3.70
結晶系:六方(三方)晶系

《ロードナイト(rhodonite)》【和名:薔薇輝石(ばらきせき)】
【産出国】
主要産地国 オーストラリア・ブラジル・ドイツ・イタリア・メキシコ・ルーマニア・スウェーデン・アメリカ・ロシア・日本など 
【鉱物組成】
(Mn,Ca)5Si5O15または(Mn,Fe,Mg,Ca)SiO3
硬度 :5.5~6.5
比重 :3.30-3.76
結晶系:三斜晶系

《ペツォッタイト(ラズベリル)(pezzottaite(raspberyl))》
【産出国】
主要産地国 マダガスカル、他にアフガニスタン・ミャンマーなど
【鉱物組成】
Cs(Be2Li)Al2Si6O18
硬度 :8
比重 :3.10
結晶系:三方晶系

【お手入れ】

【宝石言葉】

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