会計委員長のお仕事
中高6年間、部活に入ったことがない。それゆえ「暇だろ?」とみなされることが多く、6年間いろんな雑用を押し付けられてきた。その中でも思い出深いのが会計委員長だ。
高2の時、友達が生徒会長になった。もはや皆が着ていた、指定セーター以外の着用を公に認めるよう迫る公約で人気を博し当選。早速内閣作りに取り掛かった。書記や副委員長などほぼ実務がないものはすぐにほかのやつに決まった。そして、残っていた唯一実務のある会計委員長が俺にあてがわれ、ここにお友達内閣が誕生した。
生徒会というとなんだか真面目な集団のように感じるかもしれない。しかし実態はそんなことなく、生徒会室を隠れ蓑に早弁するやつ、本来は生徒会費を入れておく金庫にマンガを入れておき放課後楽しむやつ、その生徒会費で放課後おやつパーティをするやつ、そんなんばっかりだった。また逆に学園ものマンガのようにすごい権力があるわけでもない。会計委員長だからと言ってお金の力で学校を陰で操る権力者だというわけでもなし、金庫のカギを一人で持ってるわけでもなし。
結局、会計委員長の実務と言ってもたいしたことではない。各部が部費の使用用途を書いた紙を提出してくるので、それをPCで打ち直すだけの作業だ。それを見てOKを出すのは結局生徒指導部の先生たちだった。部活に入ったこともないやつに部活の生殺与奪を決められるのも癪だろう。そんなわけはない。絶対スポコン漫画で敵で出てくる役回りだそれ。廃部寸前の部員の熱い思いに打たれて改心するやつだ。
5月、皆がワイワイやっているお昼の後、俺だけ生徒会室に向かい提出を待つ。弁当後、かつ空調のよく効く小さな生徒会室でうつらうつらしながら待っていると同級生たちが申請書を持ってくる。それに、捺印されているか等一通りチェックをして受け付ける。そして、それを入力していく。2週間くらいで全部活のものがそろい、生徒指導部に提出した。
マリオ。生徒指導部のちょび髭をはやした先生のあだ名だ。マリオがその申請書の担当で、データを見せに行った。座っていたマリオに印刷したデータを手渡す。するとマリオに昇竜拳された。いや、コインを取る動きだったのかもしれない。まぁともかく、その紙を持ったままこちらへ勢いよく突き返された。なぜか。「,(カンマ)」の位置が4桁ごとだったからだ。
説明させてほしい。
百万円。漢数字だとすぐわかるが、アラビア数字を使うと1000000円という表記だ。そしてこれだと0が何個あるか数えないといけないからすぐ百万円だとわからない。だから往々にして1,000,000円という表記になる。英語でいうミリオン、ビリオンの単位に合わせて3桁ずつカンマが振られていく。
だがちょっと待ってくれ。
一、十、百、千、
一万、十万、百万、千万、
一億、十億、百億、千億・・・
漢数字においては4桁ごとに区切られているのだ。ということは百万円も100,0000円と表記した方が直感的にわからないか?間違いなくそっちの方が簡単だろう。1,0000,0000で一億。10,000,000で一億より絶対わかりやすい。
我ながら天才だ。以前から温めていたこの考えを使って、手書きで提出された数値を4桁区切りでカンマを打って入力した。3桁区切りでカンマを打って提出してきた部もいたが、「手がかかるなぁ」と思いながら4桁に直して入力した。
で、割と「どうです?わかりやすいでしょ」とエッヘンぐらいのテンションでマリオに提出したが、そんな思いもむなしく「何だこれ!直せ!」の一言だった。そんなわけで、会計委員長の一番の仕事はカンマを何百個も動かすことだった。ハンマーカンマー(めでたしめでたしくらいの気持ちで)。
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