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旅で乗った鉄路が思い出になった時
2023年3月31日。人生で初めて、「乗車した路線が廃止される日」を迎えた。留萌本線の留萌~石狩沼田間の廃線である。ある種の虚しさと共に、経営上やむなしという冷静さが同居したかのような感覚である。
留萌の町を観光するため、そして近い将来廃止される路線の風景を目に焼き付けるために昨年の9月に留萌本線を利用した。以前もまとめたが、軽く振り返ろう。
当日は函館本線の遅延によって、深川駅での発車番線がいつもと違っていた。そのホームは鄙びた雰囲気を醸し出しており、まさに廃止間近の路線という感とぴったり合う光景であった。普通列車でありながら、北秩父別と真布は通過。そういう列車があるのは知っていたが、この経験は初めてであった
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留萌へ行く途上での恵比島駅の風情豊かな駅舎も記憶に新しい。それにあの駅は「明日萌駅」。本来の駅名よりも、ドラマ撮影時の駅名の方が掲げられている、よくよく思えば不思議な駅であった。
留萌へ降り立った時、多くの人が駅舎や列車を撮影してから改札を抜け、そこで北の大地の入場券を買っていた。私も当然のように購入した。もう、ここへ鉄道で来ることはないことはわかっていた。だからこそ、買わないという考えはなかった。
その人たちの大半が乗ってきた列車で折り返したのを目にしたとき、いかに他の地域から人が来ないところであるかを実感させられた。乗客の目的は留萌本線に乗ること、そして、留萌駅で切符を買うことでしかない。留萌の町へ出ていった人がわずかであり、日常利用する人々もほとんどいない以上、人の移動手段としての鉄道という考えは、どうやっても無理がある。廃線半年前に訪れた光景そのものが、町の現状、厳しさを如実に示していた。
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留萌にいたのはたった1日でしかない。それでも、当日は様々な思い出で満たされている。朝ごはん替わりの駅そば(といっても、ホテルで軽く朝食を食べてはいたが)、具材がたっぷり入ったスープカレー、道の駅で買って食べたお菓子、どれもおいしいものであった。
また、レンタサイクルで千望台へ駆け上がったこと(どう考えても、ちゃちなレンタサイクルで登る場所ではない)、黄金岬から望む晴れ渡る日本海を眺めたこと、そして、夕方に再度訪れ日本海へ沈む夕陽を眺めたこと、それらは今でも鮮明に残っている。
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当日、私をはじめとする観光客を乗せて夕暮れの留萌の街並みを後にした列車がもう走ることはない。その感覚が不思議でならない。
次に北海道へ行くとき、留萌へ行ける時間が取れるようであれば行ってみよう。昨年との変化を見に、そして、再び黄金岬から日本海へ沈む夕陽を眺めに。