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マンション総合調査結果から読み解く滞納問題

マンション総合調査

 平成最後の年となりました平成31年4月26日に、国土交通省が5年ごとにマンション(集合住宅)に対して調査した最新版の結果が公表されました。

 調査項目には、「管理費等の滞納戸数割合」「管理費等の滞納戸数割合完成年次別」という、皆様に執ってはあまり聞きなれない項目が多数あるのですが、弊社にとっては、注目し深く検討しなければならない項目が多数あり、毎回データの発表に固唾を飲んで待っているデータです。

管理費等の滞納戸数割合完成年次別

 「管理費等の滞納戸数割合完成年次別」の項目において、昭和54年以前に完成した建物の場合では、36 %もの滞納戸数が存在していることになっています。これだけ聞けば、単純に完成年次が古ければ、当然、滞納の発生が多くなると判断しそうですが、平成22年以降に完成した建物の場合でも、12.9 %も管理費等の滞納が存在していることになっています。

 完成年次が古くても新しくても、管理費の滞納は発生すると言えます。弊社にご相談頂く管理組合様も、築年年数の新旧の違いはありませんので、滞納問題はどこにでも発生すると言えるのではないでしょうか?。
 完成から10年くらいしか経過していない建物でさえ、管理費の滞納が発生しているという事は、建物自体の老朽化が原因で管理費が滞納されている訳ではなく、管理組合自体の運営に問題があるようにも思えません。それ以外の何らかの要因により、管理費の滞納が発生しているのではないかと、弊社としては思えてなりません。

 平成22年以降に完成した建物の場合でも、12.9 %も管理費の滞納が存在しているデータから推察すると、購入後、 10年程度で返済計画に支障を来して、破綻しそうな区分所有者が発生したと言えます。
 
 一般的に、分譲マンションの購入に際しては、金融機関からの借り入れにより購入する場合が多いと思います。金融機関を利用して購入を目指している方々としては、毎月の返済ができる範囲で、物件をしっかり検討していると思われるのですが、現実的には、計画通りに返済が行えず、管理費の滞納に陥ってしまう区分所有者が存在しているのは、健全な運営を目指している管理組合に執っては残念な事です。このようなデータから推察すると、分譲マンションは完成年度や規模等に関係なく管理費の滞納事案を抱えていると言えるのではないでしようか?

 弊社の管理費等支払保証でも、平成30年度マンション総合調査結果と同様の状況で、完成年次が古くても新しくても管理費等の滞納は発生しており、弊社の管理費等支払保証のご依頼を頂いている次第です。
 滞納の原因は、古いから管理費の滞納があるのではなく、完成年次が新しくても滞納は発生していると、分譲マンションを購入される方々はじめ、管理組合理事の方々は押さえておく必要があると言えるのではないでしようか。

管理費等の滞納戸数割合

 国土交通省発表の平成30年度マンション総合調査結果に、「管理費等の滞納戸数割合」というデータがあります。
 
 このデータを注視してみると、管理費の滞納がないと言うマンションが62.7%存在しており、その反面、管理費の滞納が 10 %以下だと回答したマンションが24.4 %存在しているとされています。

 管理費の滞納が発生していないことは、マンションに執って良い状況であり良い結果と言えますが、管理費の滞納が 10 %以上あると答えたマンションがある一定数存在すると言うのは、弊社としては想定内でしたが、皆さんに執っては驚きだったのではないでしようか?
 管理費の滞納が10 %以上発生・存在するということは、仮に20区分のマンションで、2区分以上の管理費等が収納されないと言う事になります。小規模マンションにおいて、外壁等の修繕費用や屋上防水工事等への資金計画を見直さないといけないくらいの比率ではないかと思います。
 

管理費等必要性

 単に管理費と言っても、日常運営を賄うための管理費と、建物自体の修繕を行うための修繕積立金が、管理費として収納されており、マンション運営に欠かせない金銭項目となります。
 その管理費は、マンションの総区分所有者が管理組合へ収納する決まりになっており、収納額や期間を勘案して、修繕工事をいつ行うのか、どれくらいの予算が良いのかなどを計画する基礎となっています。その計画が管理費の滞納により予定通りに収納されなくなると、工事自体を行う資金が足りなくなり、工事を行う時期を逸する事にもなります。総区分数が少ないマンションでは、1区分でも管理費の滞納が発生すると、修繕計画の修正が日々発生する傾向にあります。
 東京都内のマンションの平均区分数は30区分前後と言われており、小規模なマンションが多く点在しています。(全国平均区分数は57区分と言われいます。)

 建物自体の維持が儘ならない状況に陥ると、建物自体の価値も下落することは予想でき、区分所有者全体に悪影響を及ぼす事になります。仮に管理費の滞納に依って不足した管理費を、管理費等の値上げに拠り補う事を管理組合が決めた場合、健全な区分所有者の方々が、管理費の滞納分を引き受けることになり兼ねず、不公平感が助長されることとなります。

 そのようにならないためにも、早急に、管理費の滞納を解消する活動が必要であり、発生から時間を置かずに対応することが肝要と言えます。事実、弊社へ依頼される管理組合では、管理費の滞納が長期に亘り蓄積され、すぐには滞納自体が解消される可能性が少ない事例が多数存在します。

神奈川県にある自主管理マンションの例

 神奈川県にある竣工から40年以上経過した総区分9区分の小さなマンション管理組合から、管理費と駐車場利用料の滞納を解消したいとの依頼に基づき対応した、実際の事例をお知らせします。

 当該マンションは鉄道の最寄駅からバスに10分程度乗車して、下車した停留所から高台に向けて徒歩で3分程度のところにあるマンションです。非常に小さな区分数のマンションですが、ほぼ9区分が広めの3LDK以上の眺めの良いマンションなのですが、幾分、竣工から40年以上も経過しており、4階建てと言うことでエレベーターも設置されていないマンションでした。
面談させて頂いた理事長は、竣工当時にご自身で購入して、実際、その区分に居住されている方です。
 理事長からは、9区分しかないマンションなので、全区分の状況はある程度把握はしているつもりだが、管理費の滞納を引き起こしている区分は、最近、ゴタゴタ続きのようだと俯きながらに説明して頂きました。
 こちらとしてもゴタゴタ続きとはどんな事なのかと、不思議に思い問い質してみたところ、理事長から、現在の所有している人物と居住している人物は兄弟で、その兄弟の父親であろう人物が、月に数度、様子を見に来ているようだと呟かれました。
 聴取した内容を整理してみると、以下の通りとなります。

 ①現在の所有している人物と居住している人物は、双子の兄弟
 ②区分所有しているのは双子の兄
 ③居住しているのが双子の弟
 ④以前、弟は妻と子供1名の家族で居住していたが、5 ~ 6前に離婚して独居状態になった
 ⑤独居になったころから、駐車場にある自家用車も放置し出した。車検が切れている状態
 ⑥理事長は、以前数回に亘り、弟へ管理費の滞納に対する督促を行った
 ⑦兄弟の父親であろう人物の面識はあるが、会話したことがない 
 ⑧弟自身は、仕事には就いているようで、定期的に朝早くから自転車に乗って出かけている
 ⑨電気や水道も止められてないようなので、支払はされているようだ
 ⑩当該管理組合の管理規約には、駐車場の項目は存在しておらす、利用料の掲載もない
 ⑩竣工時から管理規約の修正は行っていない
 ⑩理事長は、持ち回り制で運営している
 ⑩理事長個人の思いとして、滞納している区分所有者には出て行って欲しいと思っている

 滞納が始まったころは、理事長はじめ理事会の方々もあまり深くは考えていなかったし、督促さえしたら払ってくれるだろうと淡い思いで動いていたと思われますが、管理費の滞納が長期化してくると、滞納している区分が抱える聞きたくない事や見たくない事が入ってくるようになり、理事会はじめ個々の理事としても、肉体的・精神的に重い負担になってしまい、督促行為自体が滞ってしまい、弊社に依頼することになってしまったのかも知れません。

 この事案では、長期に亘り管理費の滞納がなされており、民間の一企業が滞納された管理費を回収するのは難しいとの判断に至り、顧問弁護士と相談してうえで、顧問弁護士と当該管理組合との間で、訴訟等の委任契約を直接締結して貰い、弁護士案件として対応することになりました。
 現在、顧問弁護士により、未納となっている管理費に対する債権を確定する訴訟と、駐車場を占有している車両の撤去並びに利用料の支払いを求めるべく、裁判所と協議を進めています。

 実際、自動車の駐車場として利用できる場所があるにも関わらず、管理規約が修正されていないことにより、駐車場利用に関しての記載がないため、車両が駐車できる場所に関する利用の差し止めと、占有している車両の移動を求める訴えを行うという遠回りするような行為を行う必要があり、余分な時間と費用を要することになってしまっています。
 竣工当時は、このようなことが発生するとは誰も思っていないかったと思います。また、管理費の滞納が発生しても、すぐ解消してくれると性善説に立った思いが優先してしまい、管理規約を確認することや、督促に対する対応方法などの取り決めが後手に回ってしまったのではないかと推測されます。
 管理費の滞納を解消すると言うことは、非常に肉体的にも精神的にも辛い対応なのは確かです。

 起きてしまうのは間違いないので、起きてしまった場合にどのように対応するのか、いつまでに完了させるのか、最終的にどうするのかを、管理組合として決めて実行してゆく心構えが必要ではないでしようか

国土交通省平成30年度マンション総合調査結果(平成31年4月26日公表)
平成30年度マンション総合調査結果からみたマンション居住と管理の現状 ( PDF )
http://www.mlit.g0.jp.com/on/001287570.pdf