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加賀屋のPurposeを勝手に提案してみる

「プロが選ぶ日本のホテル・旅館100選」
総合首位のおもてなし

泊ったことはなくても一度は聞いたことのある「加賀屋」。そして、加賀屋といえばおもてなしの宿。旅行新聞新社が毎年発表する「プロが選ぶ日本のホテル・旅館100選」の総合部門で、過去46回中少なくとも40回首位を獲得している加賀屋は、間違いなく日本を代表する宿の一つでしょう。

と、なると知りたいのは、、、
加賀屋の何がそんなにすごいのか?

この度、機会を得て、2015年10月に開業した加賀屋のオールインクルーシブの大人向け業態「加賀屋別邸松乃碧」に連泊し、サービスの現場でその秘密を探ってまいりました!

宿泊客の目線の先をともに見る

到着時に、ロビーラウンジでお茶とお菓子のおもてなしを受けていると、フロント係さんに、「今回のご旅行は何かのお祝い事ですか?」と、さりげなく旅の目的を聞かれます。ここで宿泊客の滞在の目的をサービススタッフが共有し、滞在がより豊かな時間になるよう、宿泊客の立場に立って考える仕組みです。
私の場合は、「宿におこもりして、友人と非日常をゆったり過ごしたい」というものでした。
残念ながら昼食は館内で提供していないとのことでしたが、フロント係の方は周辺マップを広げながら、「どういうものがお好みですか?」と、会話を楽しみながら私達の好みにあいそうな飲食店を一緒に考えてくださいました。
近隣のスイーツショップに関心を示すと、「スイーツを購入されたら、こちらのロビーでお茶とともにお召し上がりいただけるので、ぜひどうぞ^^」と、おこもり中の楽しみ方積極的にご提案くださいます。
また、松乃碧の敷地内には七尾湾を臨む茶室もあり、お部屋に向かう道すがら、美しいお点前で一服のお茶を頂ける呈茶についてもご案内いただきました。
頭に叩き込んだ様々な引出しの中から、宿泊客の旅の目的や好みに応じて、一人一人の顧客に最適な提案をされているのでしょう。

お食事の時間にも、量を飲めない私たちに合わせて、様々な種類の地酒をお猪口で少しづつ提供してくださったり、お酒のスピードが落ちた頃には、「プレミアム茶の飲み比べをしてみませんか」と、お酒に弱い私たちに合わせた楽しみ方を積極的にご提案くださる等、常に宿泊客の立場に立った気の利いたサービスが続きます。

加賀屋のおもてなし経営の秘密

加賀屋の経営姿勢は、加賀屋のホームページに掲載されている経営理念や、加賀屋社長・小田與之彦 氏のインタビュー「俺たちは天下の加賀屋”に危機感 初心に帰り日本一返り咲き」(日経ビジネス電子版2021年11月4日)などからうかがい知ることができます。「笑顔で気働き」のモットーやインターナルマーケティングの実践、アンケートによるフィードバックをすぐに現場に反映させる仕組みづくりなど、業界で画期的な経営手法をとっている、というよりも、サービス業の経営として当たり前にやるべきことを、トップ自ら本気でやっている、と感じます。

加賀屋に限らず、少し気の利いた宿であれば、「お客様満足」や「おもてなし」は必ず従業員教育で注力しているところです。その中でも加賀屋はなぜ、ベテラン社員から20代半ばの従業員まで、全員が顧客満足度の高いサービスを実践することができるのでしょうか

おもいやりの連鎖が究極のサービスをつくる

現場で私が見つけたのは、社内にある「おもいやり」です。
加賀屋の心地よいサービスは、サービススタッフが一人の人間として宿泊客と関わり、「宿泊客がより豊かな旅の時間を過ごせるように」という「おもいやり」から生まれるものです。
この、あたたかい「おもいやり」の気持ちは、自分が他者から受けた「おもいやり」の気持ちから生まれます。もし殺伐として自分が思いやってもらえない社内なら、お客様に「おもいやり」を発揮するのは不可能でしょう。「おもいやり」の源を仕事中に与えられていないのですから。

帰り道、60代と思しき男性従業員さんに和倉温泉駅まで送っていただく道すがら、旅行の話になった時のこと、「いろんなところを旅行されているなんて、うらやましいなぁ。仕事柄、旅行シーズンに連休を取るのは難しいんです。機会をみて、交代で連休を取るのですが、そういう機会はなるべく若い者に譲るので、私はなかなか旅行を楽しむ機会がありません(笑)」と、笑顔で話していらっしゃいました

なんと美しい話でしょうか。

前述の小田與之彦社長のインタビューには、従業員の長時間労働を改善しながら顧客満足を維持するための、情報共有や多能工の仕組みづくりも言及されています。加賀屋の社内には、他者をおもいやる発想がしっかりと根付いているのです。
従業員が「おもいやり」をもって宿泊客の豊かな旅の時間づくりを積極的に提案できるような、互いを思いやる社内文化の醸成こそ、加賀屋の経営の強さの本質だと感じます。

加賀屋のパーパスは、
「おもいやりの連鎖で、世界をあたたかい感情で満たす」こと

ようやくタイトルとつながりました。

加賀屋の経営理念には、顧客にとっての存在意義であるミッションや、それを実現するために加賀屋が大切にする考え方、行動指針が整理されていましたが、社会における存在意義、パーパスは見当たりませんでした。

しかし、私自身が宿泊客としてサービスの現場を体験し、加賀屋は確かな社会的存在意義を持っている、と感じます。それは、「おもいやりの連鎖で、世界をあたたかい感情で満たす」というもの。
私自身、接客サービスの一環であることをすっかり忘れ、加賀屋の皆さんのおもいやりのある対応に感謝し、滞在中とてもあたたかい気持ちで過ごすことができました。

現代社会、特に都会では、仕事で神経を張り詰めながら生活し、自由な創意工夫や人間らしい豊かな感情よりも効率性と正確性を求められます。そんな日常の束の間の休息の場である旅先で、加賀屋はあたたかい「おもいやり」の心で接し、宿泊客は受け取ったあたたかい「おもいやり」を糧に、家庭で、仕事で、社会で、自分もまた誰かに「おもいやり」をもって接することができるのです。

再び海外からの旅行客を迎えられるようになれば、加賀屋のサービススタッフのあたたかい「おもいやり」は、旅行客の帰国とともに各国に持ち帰られ、各々の国で「おもいやり」の連鎖につながっていくかもしれません。

サービスの現場で見つけた加賀谷のパーパス、
小田社長、いかがでしょうか⁉

まとめ

今日のコラムは事例中心でいつもの視点とは少し異なりますが、この事例から経営者の皆さんに得ていただきたい普遍的なインサイトは、①当たり前にやるべきことを、本気でやりぬく経営が強い、という点、そして、②企業の強さの本質は、模倣不可能な企業文化の中にある、という2点です。

加賀屋の経営から積極的に学び、自社の成長の糧とされてください!

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