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幾多のカルチャーを生み出した渋谷。「渋谷区流」スポーツとの付き合い方とは。:『スポーツの価値再考』#009【後編】

2020年、『スラムダンク勝利学』の著者・辻秀一とラクロス協会理事・安西渉が、各界のゲストとともにスポーツと社会の関係を掘り下げていく全10回の対談。スポーツは本当に不要不急か――この問いから、「スポーツの価値再考」プロジェクトは始まりました。

第9回の対談相手は、渋谷区長の長谷部健さん。行政のトップとしてスポーツの新しいあり方を構築してきた長谷部さんは、スポーツの価値をどう語るのか。渋谷はスポーツとどう付き合っていくのか。第9回、完結編です。


「渋谷区流」ソシオの形成

辻:大学生のときに取り組まれていたオージーボールは今でもプレイされているんですか?

長谷部:社会人になってからはなかなかプレイする機会がないですね、残念ながら。競技人口も少ないし、広大なフィールドが必要なので気軽にはなかなかできなくて。ただ、今でもオージーボールにならってスポーツのあり方やまちづくりを考えることはありますね。

辻:というと?

長谷部:オージーボールはオーストラリアですごく人気のラグビーのようなスポーツなのですが、現地では子どもから大人まで一緒になってやっているんですね。各地域に1つチームがあって、毎週末の試合後はみんなで集まってバーベキューをしたり、オージーボールが地域コミュニティのハブになってます。それを渋谷でも再現できないかなと思って

辻:先ほどの学校施設のあり方とも通じますね。

長谷部:現地だとプレイするのはもちろん地域の住民ですが、運営やイベントの費用も全て自分たちで負担するんですね。みんな責任感を持って運営しているわけです。練習に参加したりお金を出したりしないと次の試合できないよ、って。でも、それって嫌な責任感ではなくて、日本でもサッカーチームのファンクラブが自費でイベント開催するのと同じように、好きでやっているんですよね。

辻:ソシオ的な発想ですね。

■ソシオ
会員の会費により運営を支えている組織の事。サッカークラブのファンクラブなどの事を呼ぶ(スペイン語)。(Wikipediaより引用)

長谷部:まさにです。渋谷もソシオみたいなコミュニティにしたいというのが私の野望で。学校の施設をオープンにして、学生だけでなく大人たちも施設を用いることができるようにすると人と人との繋がりが生まれますし、施設を維持するための活動も自分たちでやるようになると責任感も生まれます。

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辻:学校だけでなく、もともとあるスポーツ施設も地域コミュニティのハブになりますね。

長谷部:その通りです。最近、区のスポーツ施設を民間のスポーツ企業と連携して運営する指定管理者制度を導入にしました。そうすると長年スポーツビジネスに関わってきた企業のノウハウも取り入れられるようになったんですね。プロのトレーナーさんが開催する講習会を開いたり、施設のレイアウトや設備を改善してくれたり。地域コミュニティのハブになるスポーツ施設がより良いものに進化して、地域の方々の満足度も上がるし、ビジネスモデルとしても素敵な繋がりが生まれると。

安西:「小さな政府」って考え方ですね。学校やスポーツ施設といったプラットフォームを行政が提供して、住民や民間企業が活動しやすい環境を整えるという。

長谷部:行政が1から10まですべてやるのではなく、住民の方々や企業の方々と有機的に連携をすることでさらに良いものを作ることができると思っています。施設の提供や住民アンケートといったことは行政だからこそできることですし、マーケティング的な観点で施設の運営をするのは民間企業が得意。そういったお互いの得意を活かし合う関係性を作っていこうと思います。

ただ楽しいから、やる。「デポルターレ」という考え方。

安西:スポーツの世界ってビジネス化できている組織とできていない組織の二極化していると思っています。スポーツの世界にビジネスが関わって、それが行き過ぎるとスポーツのあり方ってどうなっちゃうんだろうという疑問があるのですが、長谷部さんはどうお考えでしょう?

長谷部:スポーツで生計を立てられる人が増えたら良いなと思います。スポーツ選手でも生計を立てられている方はごく僅かだし、引退した後のキャリアも見通しが立てられないというのが現状ですよね。スポーツを通して様々な経験を培ったアスリートの方々が、その素養を役立てられるような社会の仕組みが必要だと思います。

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辻:スポーツに対する寛容さが大切ですよね。特に現役のスポーツ選手はものすごいプレッシャーのもと試合をして、勝たなければ評価されないという過酷さがあります。

長谷部:たしかに過剰な厳しさがありますね、社会がスポーツに向ける視線には。これはプロのスポーツ選手だけでなく、一般の方がスポーツをすることに対しても同じように厳しい視線が向けられていると思います。ゴルフ等は特に顕著ですが、「スポーツ」ではなく「接待・会食」の類にされてしまっていると感じます。

辻:スポーツは社会にとって大切な構成要素ですが、ステレオタイプな価値観がいまだに強く残っているのも事実です。

長谷部:とても単純なことですが、ゴルフもランニングも、リフレッシュになるし健康にも良く、生涯楽しめるスポーツですからね。僕は「デポルターレ」という言葉を大切にしていて、スポーツそれ自体が楽しくて気晴らしになるなら、それで良いという考えです。

辻:なにか意味があるから、なにか目的があるからやるんじゃないと。すること自体が楽しいからやるんだ、ということですね。

安西:本能的なものですよね。「スポーツの意味・目的はこれです」とひとつに定義するのではなくて、誰しもがその人なりの楽しみ方ができると良いですよね。

スポーツから見る、ストリートカルチャーの代名詞「渋谷」のこれから。

辻:スポーツの観点で、今後どんなまちづくりをしていきたいですか?

長谷部:スポーツって健康とも深く関わっているものなので、健康な方がスポーツを楽しめる環境を整えるとともに、不安を抱えている方がスポーツを通して健康増進を図れるような場も作ろうと思っています。今は新型コロナウイルスが落ち着いたら、いろんな世代の方達が参加できるイベントを開催したいですね。フットサルなども良いですが、楽しみながら健康対策ができるという意味では例えばカラオケなどもスポーツと言えるかも知れません。

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辻:なるほど。カラオケも身体を使いますし、リフレッシュにもなりますからね。

長谷部:あと、渋谷のブランディングをして、渋谷を愛してくれる人たちに恩返ししたいとも思います。渋谷にはオリジナルのカルチャーがあって、そのカルチャーを受け入れる場もあり、とてもカルチャーとの親和性が高い街なんですね。

辻:ストリートカルチャーの代名詞とも言えますもんね、渋谷は。宮下公園のスケートボード施設(スケート場)が印象的です。

長谷部:都内の多くの場所ではスケートボードは禁止なんですよね。騒音とか歩行者の安全性など、もちろん課題はあります。ですが、スケートボードも一つのスポーツでありカルチャーなので、受け入れる場所として宮下公園に再整備したという側面もあります。

安西:いまやオリンピック競技ですからね。

長谷部:東京でオリンピック、パラリンピックを開催するにあたって、そのレガシーを渋谷に残したいなと構想しています。車いすラグビーなどいくつかの競技を渋谷区内の施設で開催するので、それらを成功させて、渋谷の文化として残していきたいです。

プロフィール

長谷部健(はせべ けん)
渋谷区長
1972年東京都(渋谷区)生まれ。
渋谷区立の小学校、中学校を卒業し、大学在籍中にはオージーボール日本代表に選出。株式会社博報堂退職後、ゴミ問題に取り組むNPO法人green birdを設立。2003年、渋谷区議会議員に初当選し、2015年まで務める。2015年に渋谷区長選挙に立候補し当選し、現在2期目。「ちがいを ちからに 変える街。渋谷区」を未来像として掲げ、さまざまな政策に取り組む。
・HP:長谷部健公式サイト
・HP:渋谷区公式サイト「区長の部屋」
辻秀一(つじ しゅういち)
スポーツドクター/スポーツコンセプター
北大医学部卒、慶應病院内科研修、慶大スポーツ医学研究センターを経て独立。志は「ご機嫌ジャパン」と「スポーツは文化と言えるNippon」づくり。テーマは「QOLのため」。専門は応用スポーツ心理学に基づくフロー理論とスポーツ文化論。クライアントはビジネス、スポーツ、教育、音楽界など老若男女の個人や組織。一般社団法人Di-Sports研究所代表理事。著書に「スラムダンク勝利学」「プレイライフ・プレイスポーツ」など、発行は累計70万冊。
・HP:スポーツドクター 辻 秀一 公式サイト
・YouTube:スポーツドクター辻秀一
・Instagram:@shuichi_tsuji
・Twitter:@sportsdrtsuji
安西渉(あんざい わたる)
一般社団法人日本ラクロス協会理事/CSO(最高戦略責任者)
資本主義に埋もれないスポーツの価値と役割を追求し、様々なマーケティングプランを実行。大学から始めたラクロスを社会人含めて15年間プレーし、現在は大学ラクロス部のGM/コーチを10年間務める。
1979年生まれ。東京大学文学部にて哲学を専攻。在学中の2002年よりIT&モバイル系の学生ベンチャーに加わり、2014年からITサービスの開発会社の副社長を務める。
・note:@wataru_anzai
・Instagram:@wats009
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