長編小説 VaioStera ~転生先で推し変しかけてる~ 2章#6「イグニッションをかけるソングバトルな回」
「フィンって人、心配性なのですか?」
まさかフィンから心配性という言葉が出るとは、思ってなかった創田。どっちかというと、『我儘』とか『執着心が強い』とか、そういうイメージが強かった。あと、フェニを嫌っていたからそういう言葉が出るとは思ってなかった。
フェニ以外に、なんだろうか。
フィンが心配性というのは、何かそういう事だと思わせる切っ掛けがあるのだろうか。
「そう。といっても最初の事なんだけどね。まだ、Virtual Battle Royaleをやると決める前の出来事があってね。まあ一度元の世界に戻って色んな事やってたのよ。ここはまぁ詳細は今度言うとして」
「ちょっと待ってください。一度元の世界に戻って、とはなんですか? もしかして、一度バーチャルの星海に来て、その後に元の世界に戻ったという事ですか?」
今までの話の流れからして、そういう事だと感じとった創田。創田も「何かしらが切っ掛けでバーチャルの星海に来てる」とは察していたが、その後に戻ったという話は初めて聞いた。
ここで、「戻った事は、そこまで重要じゃないのよ」と、None Lose Dayから訂正が入る。
「まあ私達がバーチャルの星海に来て、確かにもどるにはもどった。蘇ったなら自分達のVstar文化をどうにかできるかと思って。けど、結局何もできなくて。その時、色々と助けてくれたのがフィンなのよ。あの子も、本当は自分の世界があるのに私達の世界を助けるのを優先してくれて。そこからね、私達の世界のメンバーとフィンが仲良くなったのは」
「助ける、ってイメージがあまりつかないでですね、フィンさんに」
まあそれは分かる、とNone Lose Day。
「最初会った時は、おどおどしてたのよ、今見たく。だけど、今まで何回か皆を助けてたりしてるから、案外世話焼きなのよね。喧嘩腰には見えるけど、実は思ったより私達は仲が良いと思ってるの」
「まあその人焼かれてますけどね」
「まああの子頑丈だし」
「いやそういう問題ですかね?」
そこはさておき、なるほどと思う創田。
ここで、Connect Channelの事を思い出す。
創田のスマホにも入っている連絡ツール、「Connect Channel」、通称「こねちゃん」に
は、グループという、その名の通り、集団で連絡しあうグループを作る事ができる機能がある。
そこでは、Virtual Battle Royalに出場するメンバー全員が登録されている。
そこで一度驚いていたのが、フェニとフィンが普通にやり取りをしているという事だ。
「フィンちゃん、今日のライブめっちゃいいじゃん」
「まあねー。アンタもさっさと派手に行きなさいよ、フェニ」
と、自然なやり取りが行われている。フィンがフェニの事を『フェニカス』と呼ばず、フェニと呼んでいるのを見て、創田は多少違和感を覚えていた。
仲が悪そうに見えて、意外と仲が良いのか? と、そこでは思った。
ただ、実はフィンが表では仲良さげに見えて裏では……ともやってないとも言い切れないのが、今の創田の所感である。
だが、そこで創田の中では、ますます「じゃあなんで仲が良いのにVirtual Battle Royalをするんだ?」という考えが生まれてくる。
もっと皆で協力していれば、世界を沢山救う事ができたのではないか、とも考えた。
だが、冷静になって考えてみると、(世界を救うってなんだ? 文化を救うってなんだ?)と気づく。
そもそも、創田から見て、バーチャルの星海に来た人達が、凄い科学者とか、偉い政治家には見えない。
世界を救うにしても、もっと色々と何かが必要になるのだろう。だが、足りなくてできなくなったのではないか、とそう察する。
(なるほど、よっぽどの事が起きた。世界が滅ぶ以外にも。だから、得たいの知れない『コロニー』に縋る程追い詰められているのか)
かなりの邪推ではあるとは思うが、創田はそう考える事にした。
「そういや、創田君もねおんわーるどの皆とはちゃんと仲良くしてるの?」
「はい……。皆さん、凄く積極的ですね。まるで、明日へ希望を持って進むかのように」
「そういう感じに言うのは嫌いじゃないね。ねおんわーるどは創田君が来るまで結構苦労していた印象はあるけど、創田君が来てからは皆明るくなってる。親方も、前より明るくなった感じだと思う」
「前より、明るくなった?」
創田は問う。
「まあ、なんていうか。創田君が来るまでは、親方1人で回していたからね。企画とか、運営とか、宣伝とか。だから、肩の荷が降りて1人のVstarとして積極的にやれる事に、喜びを感じていると思うよ」
そうなんですか、と答える創田。
「だから、私が、……相対するチームが言うのもあれなんだけど、ちゃんと仲良くしてあげてね。それが、彼女(?)達が最も喜ぶ事だから」
〇ー〇ー〇
「休憩も終わったし、フィンちゃん、ソングバトル行こうか!!」
「上等よフェニカス!! ここで差は既に決まっていると、頭に刻み込んでやるわよ!!」
スタジオ側では、シューティングゲームが終了していた。
結果では、ねおんわーるどとCat Flying Galaxyの2対1で、ねおんわーるどが勝利を得ていた。
最初の戦いでは、ねおんわーるど側が勝利をしたが、二番目の戦いではCat Flying Galaxy側がおでゅーを中心に1人ずつ集中攻撃するという手段を取り、連携の強さを見せてねおんわーるどに打ち勝った。
3戦目は、1対1となったフィンとフェニだった。この時のねおんわーるどの勝因は、フェニが、カウンターを狙い、フィンへ当てた事により、勝利へ繋げたというものだった。
その後は、お互い披露が溜まっていた為、休憩に入っていた。
休憩時間では、フィンがかなりのエネルギーチャージをし、次のフェニとのソングバトルまで備えていた。
だが、フェニもソングバトルに備えて、エネルギーを貯めていた。
エネルギーを溜めるというのは、平たく言うとまあ食事である。
スタジオのスタッフであるアバターから、フェニ達用に合わせた食事が提供される。
ここの全員はアバターから食事を用意されて食べた事があり、「普通に美味しい」と舌鼓を打っている。
沢山食べるフェニの姿を見たXesyが「良く食べるね~。太っちゃうよ?」と言ったら、「うるせーデカπ!!」と、胸をはたかれてしまう。
「セクハラ! 女性からバ美肉へのセクハラ!」と本人はアピールするも、フェニからは無視された。
前説明が長くなったが本題に入ろう。
スタジオがレンとおでゅーの手でライブスタジオに変形。そこでは、それぞれ向かい合ってフェニとフィンが立っていた。
「げふー……。フェニカス……アンタにはここでぼっこぼこになってもらうわ。ファーストロイヤルでの最初の相手ではないけど、先に潰せるってものよね」
「言ってくれるねフィンちゃん。言っとくけど、アタシはフェニックスだよ? たとえカス塵同然になっても、蘇るのがアタシなんだから!」
「ハッ! 砂かけて消し炭よ!」
「悪口とは関係ないけど、どんどん行っちゃうからね!!」
フィンとフェニの背後に現れる、二つの巨体。
フェニの背後には、炎を纏った不死鳥が。
フィンの背後には、とげとげしい形状の体をした女神が。
仮の戦いとはいえ、お互いの精神は本番と同じように、高ぶっていた。
「先に先行をいただく……いくわよ!!!」
先行は、フィンだった。
「ようマッチ女! 燃えるのにマッチングしないこのマッチ! 火の粉でヒヨコなフェニックスなんてザコ!! 炎上どころか冷えてますよー? ブラウザバック即安定!!」
フィンのリリックに合わせて、針の女神が次々に鋭い棘を出していく。
フィンのフィールドからの結晶の浸食が、フェニのフィールドを襲っていく。
「流石に手ごわい……! だけど、配信だけど負けてられない!」
フェニもマイクを構え、返しのヴァースを放っていく。
「マッチなら燃えるよキャンプファイヤー!! フェスティバルエクスプロードインパーリー! ジョイナス ミスフィン To The Bomb!」
フェニの不死鳥が、フィンの針の女神へ向けて炎を放つ。
炎に包まれる、フィンの針の女神。だが難なく炎を振り払う。
「あまいあまいあまいね~~~フェニカスううううううう!!」
フィンは、なんともないように、次のリリックを放つ。
「鎮火するまでもないマジで火の粉。ひよこの不死鳥、視聴者、失調マジ失笑100パー!
火のない所に煙は立たねぇ、この意味分かるう? つまりお前はシケり火!!」
針の女神は針を束ね、それを大きな棘にする。その大きな棘は、フィンの炎の不死鳥へ向けて突き進み、フェニの不死鳥を貫く。
「くううううううううう!!」
「アハハハハハハ! どうしたのよフェニカスうう? ホントにしけってんのおお?」
「まだまだ! ここでやられてちゃ、ファーストロイヤルは突破できない!!」
フェニの気合により、炎の不死鳥は更に燃え上がる。ここで、フェニからの返しのリリックが放たれる。
「0視聴? だけど超ジりZERO! 上がるしかないLIVEロード! Skil Load! テンションLord! ついでに盛り上げMAX on the Lord! ミリオンライブ to ロード!! このライブライフ、突き進む王道!!」
フェニの不死鳥は瞬く前にスタジオを全体を包み込む程燃え上がり、針の女神を覆う程燃えていく。
「ぐううううううう!! 熱い!!」
「どうしたのフィンちゃん! こんなもんじゃないでしょ!!」
「敵に油をおくるな! 刺したくなるでしょ!! おらあああああ!!」
フィンとフェニのライブ対決は、続いていった。
〇ー〇ー〇
「ソングバトル、凄いですね。お互い物凄く張り切ってる」
「あそこは、最早姉妹よね。顔も似てるし」
「なんででしょうね。」
「何か地球から何億光年か離れた地球があって、そこだと地球ではAの役割があったけどそこだとBの役割になってた、というSFの話思い出すわね」
「確か、国民的アニメかなんかで聞いた事ありますね」
「そう? アタシSNSでチラッと見ただけかな」
もしかしたら、SFあるあるとか異世界を超えても案外あるのではないかと、創田は思った。
「まぁお互い悪いメンツはいないんだし、例えどうなっても仲良くしてね、というのはあるわね」
「そうですね。僕もねおんわーるどの皆さんには、凄い仲良くさせていただいていますので。大事にしていきたいです」
大事にする。自分の中から、ゆいたんや家族以外に対して、そういう言葉が出るとは思わなかった創田。
今までは、「ゆいたん」が自分の中の大事の基準だったのが、創田の中にはあった。
だが、短い付き合いだが、ねおんわーるどと交流するうちに、そういう気持ちが芽生えつつある。
(不思議だ。でも、この気持ちは捨てたくない)
創田の中で、そう決心する。
「例え私達の世界が滅んでも、仲良くしてね」
None Lose Dayからのその言葉に、はいと、力強く創田は答えた。
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