アホウドリの潜在能力
アホウドリの潜在能力
潜在能力といっても、繁殖能力や身体的能力のことではない。
鳥島や小笠原諸島などに繁殖するアホウドリは、かつて羽毛のための乱獲などによって、一時絶滅の危機に陥ったことがある。それに対し、最近では、通常の保全活動やモニタリングなどだけでなく、新たな繁殖地への移送といったプロジェクトも実施されているそうである。
アホウドリの生活空間の中には、昔からヒトがいた。ヒトもアホウドリにとっては生活空間の構成要素に過ぎないのである。事の善し悪しは別にして、アホウドリはヒトを選択する。この場合、ヒトがアホウドリに害悪を加えようとしているのか、あるいは助けようとしているのかという意図は、選択に関して相関性があるわけではない。ヒトの意思の問題は無関係と思った方がいいのかもしれない。一方、個体としての一羽一羽のアホウドリがヒトとどのように接するかの判断は、種としてのアホウドリ社会の選択につながっている。罠やエサなのか、デコイや音なのか、個々のアホウドリにとっての誘因は異なるかもしれないが、結果的に住み慣れた繁殖地から移り住むことを選び、ヒトに捕獲されることを選んだ。ヒトに捕獲されるという個体の選択による何らかの機能は、今も個体の選択による機能となっているはずである。種としてのアホウドリ社会の今は、そうした機能を選択している個体たちに支えられている。
個体とヒトとの関係を基礎付けてきた「機能」がどのようなものかは明確にはわからないが、それは、アホウドリの個体の選択から発生するものであると同時に、選択がヒトの意図に基づく行動と結びついた場合に、発現すると言える。こうして発現する機能をどのように呼べばいいのだろうか。
現状のヒトとアホウドリとの間の関係には、さらに漁業における混獲や洋上発電などとの関係で生ずる、従来の関係とは異なると思われるものもあるそうである。アホウドリの評価が気になる。保護や保全、あるいは共生といった言葉では語りつくせない関係をヒトは他覚できているのであろうか。
ヒトもアホウドリの潜在能力である。
注 この記事は、調査研究事業のレポートとは性質を異にしますが、6月18日に東京港野鳥公園ネイチャーセンター(対面&オンライン)で開催された世界アルバトロスデー&シーバードウィーク講演会における講演内容を参考にしています。世界アルバトロスデー&シーバードウィークについては、下記などを参照ください。