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この世には不思議な事など何もないのだよ

こんにちは、デザイナーのキムラダイゴです。
今回は十数年ぶりに届いた、ある招待状について書いてみようと思います。

Prologue

弊社ではとある時期に、ほぼ三ヶ月おきに四件の結婚式が一年以上に渡り行われるという、一大婚姻ブームがありました。
しかしその盛り上がりも、思い起こせば長くは続かず、その後は十数年の時を、一件の契約解除もありながら、なんの音沙汰もなく無音で過ごしてきてしまいました。

歓喜に湧いたあの頃の思い出が、セピアを通り越してモノクロームになりかけ、昨日と同じ明日、先月と同じ来月、去年と同じ来年を静かに向かえようとしていた惰性の日々。

その静寂を破るかのように鳴り響いた澄み渡る鐘の音。
振り返ると彼方まで続く正装の参列者が、始まりを告げる讃美歌を合唱しています。忘れかけていたあの時の感情が心の内側から湧き上がり、吹き抜ける風と共に一度だけ頷く。
すでになくなってしまったのではないかとも思い始めていた、古の儀式が再び行われようとしています。

しかしながら、漂うように移り変わる多様性を言質とする時代に、それがすべてではないし、ゴールでもないし、娯楽、享楽、悦楽が溢れる奈落の極楽で至楽を追い求めんとすることも叶わないわけではないので、それだけが選択肢の限りではないということに敬意を払い、配慮をしつつ、素直に率直にお祝いを申し上げたいと思います。

そんなお祝いの席に、不埒、不躾、不届を不用意に体現する自分ではありますが、右ポケットかはさておき、お招きいただけるようで、式への招待状をいただきました。

肌触りのよい真っ白な封筒に「INVITATION」と書かれた金色の封印。
失われかけていた品性が蘇るようです。

Beginning

さて、その招待状には新郎新婦の住所と名前が書かれており、一見するとなんということもないわけでありますが、新郎の名前は、姓が二文字、名が一文字で、新婦の名が三文字となっています。
日頃デザインする中でも、文字組みをすることは多々あるので、名前の文字数に差があると、少しレイアウトのバランスをとるのが難しくなるよね、と思ったのが今回のことの発端であります。

以下は、いただいた招待状の住所と名前を仮のものに変更していますが、文字数はすべて合わせて再現したものです。
新郎は「関口 太」新婦は「保素実」旧姓は「一柳」となっています。

いただきました招待状 ❤️


この招待状は式場が用意したものだそうで、おそらく何かしらのテンプレートがあり、そのルールに則って作られているのだと思いますが、パッと見たところで、全体的にどのようなルールで文字組み、レイアウトがされているのかがわからず、不思議に思ったので少し解析してみようと思います。

はじめに名前の文字数の差に難しさを感じたわけですが、その他にも新郎の姓名が全角スペースを挟んで、均等に表記されているのも少し気になります。一般的な名前の表記であれば、姓と名の間はスペースなしか、全角、半角のスペースが入っていることが多いと思います。新郎個人が単体で表記されるのであれば、これはこれでよいのかもしれませんが、新婦と併記されていると、違和感を感じるように思います。
新郎の名前が二文字の場合は、姓の全角スペースは詰めるのかな?と思いましたが、テンプレートという観点からも、担当者が独自にスペースを開けたり、詰めたりしているとは考えにくいのなかと思いました。

などと考えているうちに、おそらくこれは姓と名で最も多いと思われる一文字から三文字に最適化されているのではないかという風に思い始めました。
そもそも、今回は新郎の名が一文字であるためと、新婦の名が三文字であり、やや文字数に差があり、名の先頭を揃えたためにこのような形となっているのかと。
もし、新郎の名が二文字であれば以下のようになり、バランスも気にならなくなるのではないでしょうか。
その他、姓も名も三文字であれば、間に入れるということなのだと思います。そう考えると、非常によくできたテンプレートな気がしてきましたね。


こういうことですね


名前ブロックのルールは、ほぼ見えたように思いますが、住所を含めた全体を見ると、まだ謎は解明されていないように思います。
左肩にある住所は、改行は右揃えで、名前に対して左に揃うでもなく漠然と置かれているように見えます。
住所と名前のブロックにも、どこかで揃えるなどの、基準となるような関係性が見えてきません。

揃っているところ

現状、揃って見えているのは、住所が右揃え、名前の先頭揃え、新婦の旧姓のカッコ書きが右揃えということになっています。

そもそも、住所と宛名を含めた全体は中央に配置されているようですが、その基準となるものが見えてきませんでした。


しばし眺めていて気づいたのは、この住所と宛名を含めた全体エリアに横幅(ワイド)が決められているのではないかということですが、その横幅を決める基準は何なのかということで、全体エリアを定規で測ってみました。
すると全体エリアは「65mm」、そして両脇の余白も65mm。封筒を3分割した中央が、レイアウトエリアになっているようです。
ちなみに姓名の一文字は5mmの正方形に収まるようになっていました。

そのレイアウトエリアに対して、住所は左揃え、宛名は右揃えとなっているようです。

均等に3分割


ここまでくると、気になるのは住所のレイアウトは全体に対して左揃えなのに、建物名での改行は右揃え、ということになります。もちろんすべてがその限りではありませんが、あまり見かけない文字組みであると思います。

これに関しては同封されていたハガキにヒントがあるように思いました。
参加の可否を問う、返送用のハガキに書かれた住所は縦書きで、こちらもハガキの縦幅に対して上限と下限がレイアウトエリアとして決められていて、住所は上揃え、建物名は下揃えとなっているようなので、封筒のほうも同様に住所ブロックは、建物名での改行と文末揃え(右揃え)がルールとして適用されているのではないかと思われます。

異論、反論、疑問もまだあるかもしれませんが、少しモヤモヤとしていたものも晴れやかとなりましたね。

Epilogue

はじめに見たときはやや不思議に見えたレイアウトでしたが、結婚式という特性もあり、二人の門出を祝す意味でも、偏りのないバランス、調和というものを意識しているのかもしれないと考えると、だんだん趣が出てきたように感じます。
「謎とは知らないこと。不思議とは誤った認識。この世には不思議な事など何もないのだよ、関口君」とは京極夏彦の作中の言葉でありますが、まさにその通りですね。

古き良き昭和の伝統も踏襲しつつ、新しい令和の道をともに切り開いて、すべてが融和する世の中になると、とてもいいですね。

キムラダイゴ

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