健康・医療分野、ヘルスケア分野等の定義・領域を考える

 新たなヘルスケア分野の産学連携・産業支援のあり方を考える前に言葉の定義をきっちりと整理しておく必要があります。10数年以上前から健康・医療・福祉分野、ヘルスケア分野、eヘルスケア分野、医療・介護分野、健康・医療分野、メディカル・ヘルスケア分野等々さまざまな言葉によって当産業分野が呼ばれてきましたが、各種マスコミやコンサルティングファーム、シンクタンクでさえ明確な定義をせずにレポートをしているのが多い場合が実状です。

 例えば、最近、デジタルヘルス・スタートアップ・グローバルランキングといったようなものが発表されたのを見ましたが、そのTOP10に入るスタートアップはほとんどが医療分野です。医師が起業されるケースも増えてきました。日本でもそうなのですが、ヘルスケア・スタートアップでうまくいっているのは多くが医療分野にフォーカスしている企業とも言える状況です。医療から距離のある健康分野で成功している(順調に成長している)スタートアップは非常に少ないと思います。

 一方、健康維持・増進・管理といった領域のスタートアップは、十数年以上も前から死屍累々の状態で、大きく飛躍できた企業はほとんど見たことがありません。なので、これからヘルスケア分野が有望とか、フロンティア市場とか言われても私としては、安易にうなずくことはできません。2000年前後から当該市場で新規事業創出支援やプロジェクト企画推進等に携わってきた自身としても何か責任を感じてしまう気もしますが。

 支援したスタートアップについては、大きく飛躍した、現在も事業を継続している企業は少なく、ほとんどは廃業や業態変換という結末で終わってしまっています。(たぶん、私の支援サーポートの方法が間違っていたのかもしれませんが。)

 これらについては、現在のような情報通信環境の不整備や利用費用のコスト高といった事もあり、事業化展開するには早すぎたのかもしれません。現在のスタートアップが展開している企業のビジネスアイデア(モデル)の多くが、2000年頃当初にはアイデアとして見知ったものが多く含まれています。かつては、ビジネスモデル特許という知財戦略がもてはやされ、多くの大企業が「とりあえずビジネスモデル特許だけでも沢山だしておこう」という風潮も強かった記憶があります。私もかなりのモデル構築をお手伝いさせていただきました。

 なので、この章以降、正確に市場を分析し、戦略を検討・構築していく上でも言葉をきっちりと丁寧に再整理しておくことが必要であると思っています。

(1)健康・医療

 内閣府や厚生労働省、経済産業省など、主に行政系の文書(各種予算企画書やロードマップ等)で使用されることが多いワードです。創薬・医療機器開発、バイオや再生医療ほか非常にベクトルが広く捉えられています。国の主要なセクターや諮問会議系は、多くがこの健康・医療という言葉を使用しているようですが、その捉える範囲は幅広く下記であげるヘルスケアにほぼ近いと思います。

(2)ヘルスケア

  一般的にビジネスマーケティングなどの世界で使われていることが多いようです。健康・医療の使い方とほとんど同じですが、行政系では極力カタカナは使用しない傾向があるので、意味合い的にはほぼ同じです。私の文章では、以降、ヘルスケア分野で統一して使っていきたいと思います。特に、ヘルスケア分野という単語を使う時、「健康・医療・看護・介護・福祉」すべてが包含された分野であり、密接に連携・関係しながら人々の健康寿命延伸に役立つことのできるモノ&コトを創り供給する(提供する)産業分野をヘルスケア分野と定義したいと思います。

(3)メディカル

 まさに医療ですね。創薬や医療機器開発を中心に、医療分野そのものをさして使われます。言い換えると医療保険対象分野ということにもなります。その中心となるキーパーソンは当然医師です。なお、最近では看護師の活躍も目立ってきていますね。ベンチャーも医師や看護師等が起業するケースが増えてきています。

(4)eヘルスケア

 現在はほとんど使用されなくなっています。2000年頃でしょうか、インターネットビジネスの急速な拡大に伴い、ヘルスケア分野にも変革が到来しましたが、当時は主にWebからの情報提供や個人の健康に関する情報を自己管理するサイト的なものが中心でした。言うならば、現在のデジタルヘルスの前哨戦といったところでしょうか。現在のデジタルヘルスの多くのアイデアが既にこの当時から提案されていました。まだ、iPhoneなどのスマートフォンが登場してなかった頃でもあり、新たなデバイスと結合したようなモデルはほとんどなかったと思います。(その頃は、まだドコモのiモードが全盛期でしたが、最近ではiモードという言葉をしらない若者も多いのは少し寂しいですね。)

(5)デジタルヘルス

 まさに、現在のIoTやAI、ロボティクスやバイオを複合化・融合化したモデルの登場です。eヘルスケアの当時と大きく異なるのは、デバイス自体が非常に進化したものであり、多くの技術が登場してきたこと、そして、AIの登場です。かつてはデータマイニングというAIの初歩的な概念みたいなものが注目されていましたが、ヘルスケア分野ではほとんど見向かれることはありませんでした。データ駆動型のヘルスケアビジネスモデルという言葉が似つかわしいかもしれません。ヘルスケア分野の1つの領域にデジタルヘルスが位置付けられるという感じでしょうか。

(6)ヘルステック

 どちらかというと、デバイスやネットワーク技術の視点からヘルスケア分野に参入する企業さんが多く使用している感じがします。デジタルヘルスと同じ意味で使われている場面も見ますが、どちらかというと新たな技術(ハード、ソフト、システム等)のヘルスケア分野への応用展開の意味合いが強い感じがします。

(7)データヘルス

 データヘルスについては、厚生労働省のホームページに以下のように記載されています。「近年、健診やレセプトなどの健康医療情報は、平成20年の特定健診制度の導入やレセプトの電子化にともない、その電子的管理が進んでいます。これにより、従来は困難だった電子的に保有された健康医療情報を活用した分析が可能となってきました。データヘルスとは、医療保険者がこうした分析を行った上で行う、加入者の健康状態に即したより効果的・効率的な保健事業を指します。」これが、データヘルスのもともとの定義、基本的な考えでしたが、最近ではもっとベクトルを広く捉え、データ駆動型のヘルスケア支援モデル(サービス)をデータヘルスとして使っているケースも多く見受けられるようになってきています。

(8)公的保険外サービス

 公的保険外という言葉を使用する時、公的医療保険外、公的介護保険外の2つの視点から考えることになりますが、医療保険外サービスのあり方に関しては、混合診療や自由診療、代替医療等との混同使用の点などを医師会等から指摘されたこともあり、現在は、主に公的介護保険外サービスを中心に捉えられています。(経済産業層が発刊している保険外サービスガイドブックなども公的介護保険外の視点から作成されています)。なので、公的介護保険外サービスという言葉を使っているレポートも多いようです。このワードの使用は、医師会等の職能団体も非常に敏感にもなるので、現在ではあまり使われていないようです。


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