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社会の最小単位

 それぞれ得意なことや手近にできる仕事があって、それらの仕事を交換するための、道具として「お金」が生まれたはずが、今はお金自体が目的になっちゃっている気がします。生きるための活動はお金を稼ぐことの下にあって、そこから得られる喜びや楽しみは、今や「贅沢」なんて呼ばれたりして。

 生活の方をあとまわしにして、心身を病みながら働いたりするのはおかしい。労働交換のレートがおかしい。不条理を作ってまた埋める仕事ばかり増えているのが、本当にどうかしている。こういう、仕事まわりの疑問を、一旦全部棚卸しして、違和感を飼いならしたりせずに、どうにかやっていく方法がないのか、そういうのを試してみたくて、山にたどり着きました。

 この生き方の実験みたいな、不確かなものに飛び込み、獣道を蛇行しながらようやく今の場所にいるのですが、この先はたぶん、私個人や、ひとつの店舗で何かするではなく、小さなコミュニティを、これまでとは少し違う座標に作っていく必要があるのだと気づいていながら、自分はいまだにその最小単位さえ作れずにいます。わかっているのに、正面からそれに向き合うのが自分にとってはしんどくて、蓋をしたまま足踏みをしてしまいました。

 家族という関係性が恋愛からしかはじまらないのなら、それは自分には無理かもしれない、と思ってます。ちょっと嫌な雰囲気になるとすぐに退却してしまうし、踏み込まれると不快になるので、すぐシャッターを閉じてしまいます。そしてこちらからも一定以上の距離に踏み込めない。そもそも、その方面で戦う自信がまったくないまま、気づけば50代目前で、たとえば子どもを産んで育てたりするには無理のある年齢になってしまいました。

 協同生活者(あえて伴侶とはいいません)との関係に望むのは、お互いを人間的に尊重しつつ、協力して生活していくことで、他の生き物の気配にちょっと安心して、時々一緒に食事をする。みたいなことですが、はたしてそのぐらいという塩梅が一番難しいのかもしんないのです。

 これまで通り、諸々曖昧なままにしておくと、今後、思い描いていたムーミン谷みたいなものの形成に至るはずもなく、スナフキンみたいでもなく、谷に定住したい住民としては、せめて協同生活者をぼしゅうちゅうであると、宣言しておかねばなりません。

 山ノ口貘みたいに新聞広告を出すのがいいのかもしれませんが、そこまでする根性はありませんので、せいぜいここでこっそりと。もはや男女を問わぬどころか人間じゃなくてもいいです。妖怪でも宇宙人でも、仲間としてやっていけそうならいいんです。(むしろ人間じゃない方がいい?)ただこれまで、男はつらいよの寅さんと風の谷のナウシカハイブリッドみたいなキャラクターを標榜してきてしまった自分としては、依然としてまったく自信がないんですが。

 困ったときは助け合ういちばん身近な生き物。ぐらいの存在として、旅の仲間として、誰かいた方が良いのでしょうが、そんなことさえ、素直に表明できない人は、私に限らず、わりといっぱいいるはずです。拒絶されて傷つくのはしんどいですし。みんな優しくて、わがままなんだとは思いますが。


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