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好きなウイスキーをまったり飲むこと以上に幸せなことはない

今回は村上春樹さんの『もし僕らのことばがウィスキーであったなら』という本を読みました。ウイスキー好きにはたまらない本だと思うのでぜひ手に取ってみてください。


きっかけ

読み始めたきっかけは、僕がウイスキー好きだと知っている会社の先輩から「こういう本あるんだけど読んでみる?」と紹介されたことでした。

恥ずかしながら村上春樹さんの本で、僕が過去読んだことがあるのは『ノルウェイの森』だけ、その中で描かれていた世界観があまり好みではなかったこともあり、他の作品に手を出そうと思えていなかったんですが、その村上春樹さんがウイスキーについて本を書かれているということで気になって読んでみました。

ざっとみても100ページほどで写真を使ったエッセイのような本でサクッと読めそうかなと思っていましたが、読んでみると「あ〜こういう体験もいいなぁ」「スコットランド行きたいなぁ」と空想にふけりながら読んでしまって結局数日かけて読む羽目になりました笑

感想

アイラ島は美しい

この文章・世界観に、最初は「ブルジョワかよ!」と言いたくなったものの、こういう丁寧な暮らしには実は憧れていたりするのでめちゃくちゃ心地いい文章でした。

そんな悪い季節にもわざわざこの辺鄙な島に足を運んでくる人々は少なからず存在する。彼らはひとりで島にやってきて、何週間か小さなコテージを借り、誰に邪魔されることもなくしずかに本を読む。暖炉によい香りのする泥炭(ピート)をくべ、小さな音でヴィヴァルディーのテープをかける。上等なウィスキーとグラスをひとつテーブルの上に載せ、電話の線を抜いてしまう。文字を追うのに疲れると、ときおり本を閉じて膝に置き、顔をあげて、暗い窓の外の波や雨や風の音に耳を澄ませる。つまり悪い季節をそのまま受け入れて楽しんでしまう。

本の中で紹介されている蒸留所の製造工程のなかで、技術を駆使して製造する蒸留所もあるいっぽうで、フロアモルティングのような伝統的な方法を用いていたり、1つ1つの工程を非効率ながらも手作業でやっていたり。

そういう伝統的な、職人の育成などを考えるといつまで続くかわからないような方法にこだわっている蒸留所もあって、そういう光景が「美しい」と思える

東京のせかせかした世界ではストレスにしかならないであろうその光景に、そう思わせてくれるほどの世界が、時間がアイラ島には流れているのだと思うとより一層行きたい欲が増す。そんな文章でした。

何かを捨てないものには、何もとれない

アイラ島では小さな島ながらに、各蒸溜所が個性的な「棲み分け」をしているようです。シングルモルト自体、各蒸溜所が表現したいことが香り・味に表れるタイプのお酒でもあるので、ブレンデッドとは異なり個性的なお酒が多いです。

どのお酒にもそれぞれの生き方、哲学があって、安直に、横並びに考えたりはしないというのがウイスキーの特徴であり面白み、楽しむ1つの方法なのだと思うといろんなウイスキーに出会いたくなりますね。

そう思うと、それぞれの蒸留所に行ったときの視点として、ここはこういうところにこだわっているからこの味・香りなんだなとか、思えるようになるとよりウイスキーを楽しめそうですね。

もちろんベーシックなウイスキー作りの流れ自体を抑えておかないと、何がどう違うのかがわからなくなるから、その辺りも学んだ上で行ってみたいなぁ。

生牡蠣にシングルモルトをかけて食べる

アイラ島周辺の生牡蠣は生臭さがなく、こぶりで、塩っぽいらしいです。これは是が非でもやってみたい食べ方なので日本で実食できる場所が見つかったらnoteに感想を書こうと思います。

「そこにシングル・モルトをかけて食べると美味いんだ」
「それがこの島独特の食べ方なんだ」

あと、この食レポの際の村上春樹さんの表現が秀逸だったので引用しておきます。

牡蠣の潮くささと、アイラ・ウイスキーのあの個性的な、海霧のような煙っぽさが、口の中でとろりと和合するのだ。どちらが寄るのでもなく、どちらが受けるのでもなく、そう、まるで伝説のトリスタンとイゾルデのように。

あれこれ言う前に、飲んでくれ。私たちがやろうとしていることは、飲めばわかるから。

作り手の言葉として印象的だったのがこの2つです。とにかくアツい。
お酒の楽しみ方、美味しいと感じるものは人それぞれで、気に入った飲み方・お酒を飲んで、その時間が幸せだと感じられたら、それ以上に幸せなことはないんだろうなと。

頭であれこれと考えちゃいけない。能書きもいらない。値段も関係ない。多くの人は年数の多いほどシングル・モルトはうまいと思いがちだ。でもそんなことはない。年月が得るものもあり、年月が失うものもある。エヴァポレーション(蒸発)が加えるものもあり、引くものもある。それはただ個性の違いに過ぎない。

みんなはアイラ・ウィスキーのとくべつな味について、あれこれと細かい分析をする。大麦の質がどうこう、水の味がどうこう、ピートの匂いがどうこう・・・・。たしかにこの島では上質の大麦がとれる。水も素晴らしい。ピートも潤沢で、よく匂う。それは確かだ。でもそれだけじゃ、ここのウイスキーの味は説明できないよね。その魅力は解明できない。いちばん大事なのはね、ムラカミさん、いちばん最後にくるのは、人間なんだ。ここに住んで、ここに暮らしている俺たちが、このウィスキーの味を造っているんだよ。人々のパーソナリティと暮らしぶりがこの味を造り上げている。それがいちばん大事なことなんだ。

まとめ

ページ数は少ないながらに、「ウイスキー飲んでみようかな」「アイラ島行きたいな」と思わせてくれる一冊でした。

こういう幸福感、美しさ、丁寧さが反映されているウイスキーとの出会いは一生ものになりそうなので、早めにアイラ島に行って肌で触れてきたいなと感じました。

気になる方はぜひ読んでみてください。ウイスキー沼にハマること間違いなしです。

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