キミは今もきっと笑っている
7月某日 マクドナルド藍住店
A「とうとうこの日がきたね。」
B「王子が行ってしまった。」
A「徳島の生え抜き10番が海外に移籍する。これは凄い事だよ。ある意味でJ1昇格したことより価値があるかも。」
B「分かってる。分かってるけどさ、感情は別物なんだよね。王子との別れが悲しいことにしか思えない。もう鳴門であの姿が見れないと思うと喪失感が半端ない。」
A「そうだね。彼が歩んできた軌跡はちょうどクラブの成長と重なってて、憲さんよりも象徴だったかもしれない。辛いよね。」
B「王子がルーキーで入ってきて、そこからヴォルティスのサッカーが変わって、クラブにスペインの風が吹いて、サポーターの戦術眼が肥えて、プレーオフに出て、昇格して。彼とクラブとサポーターが同じ歩幅でステップアップしてきたって思うんだ。半身を削られた気分だよ。」
A「毎年オファーが来ても、徳島から世界へ行くという強い意志、大きくなるサポーターの期待値を上回り続ける努力。並大抵の胆力で出来ることじゃない。不安だったと思うよ、だってJ1行ったほうが世界へ行く可能性上がるし、そもそも徳島から世界へ行った実績ないんだから。」
B「それでも徳島にこだわり続けたのは、それだけ徳島を好きでいてくれたからなんだよね。その気持ちが伝わるだけに別れが本当に辛い。」
A「ここで一旦離れることになるけど、なんとなく彼とはまた道が交わるときが来ると思うんだよね。根拠も何もない、ただの予感だけど。」
B「その予感は現実であってほしい。」
A「最近の王子の動きを見てても、かなり徳島に愛着あるのは間違いないし、縁は切れないよ。ただ、この移籍で王子はクラブにもサポーターにも大きな宿題残していったよね。」
B「どういうこと?」
A「縁が切れなくても、どれだけ王子が帰ってきたいと思っても、ヨーロッパで価値を高めた彼を迎えるだけのクラブになってなくてはいけないんだよ。彼が価値を高める間にこっちも価値を高めてないと、戻ってくるタイミングで受け入れるだけの器になってなければ、戻っては来れない。彼に負けないようにしないとね。」
B「本当ね、彼には感謝しかないんだ。クラブとして道なき道を切り開いてくれた。トップチームから海外一部へのステップアップ。ヴォルティスで誰も成し遂げられなかった事をやってのけた。」
A「そうそう、静岡学園の10番が徳島の10番になり、世界に羽ばたく。この事例を最初に作るのは並大抵のことじゃない。だってノウハウないんだから。その中でクラブが育て、選手が応えた。二人三脚で試行錯誤しながら頑張ってきた成果なんだから、喜ぼうよ。」
B「今凄い泣きそうなんだけど、でも王子はきっといつもみたいに笑ってるんだよね。」
A「そうだよ、ポルトガルでも今と変わらない。削られても、ふっ飛ばされても、王子スマイル浮かべながらディフェンスラインをドリブルで切り裂くよ。」
B「簡単に帰ってきてほしくないな。そして、もしも縁があればまた会える日まで。それを楽しみにするよ。」
A「徳島に在籍した期間と同じだけは海外で活躍して欲しいね、徳島発ポルトガル経由スペイン行き、実現してほしい。」
B「ありがとう、渡井理己。貴方は最高の10番でした。」