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対戦テトリスを抽象的に捉えてみよう(火力編)

対戦テトリス、知ってますか? 対戦テトリスってなんぞやって人に説明すると、テトリスの中でも、それを使ってほかの人と対戦することができるゲームのことを言います。『ぷよぷよテトリス2』とか『テトリス99』とかがそうです。大体の対戦テトリスは、消し方に応じて相手にお邪魔を送ることができて、ゲームオーバーになったほうが負け、みたいなルールになってます。 このゲームも勿論ガチ勢がいるんですが、今回はどっちかといえばガチ勢向けの話です。知らない人ごめん。ちょっとYoutube見てどんなのか調べてきて。でもこの記事見てる人は多分結構知ってる人だと思う
暇なら世界大会あるから見てみて

さて、対戦テトリスをするにあたって結構大事になってくる要素の一つとして、攻撃手段にあたる「火力」と防御手段である「掘り」がどれだけ上手いか、がよく挙げられたりします。すごーく上手くなりたい人は火力の出し方とか、掘りの探し方とかを座学や実践で体に叩きつけるように覚えてるんですけど、この内の座学について今回は話していきたいんです。

対戦テトリスに関する記事とか動画を色々漁っても、火力や掘りに関しては「こう組んでみると良いよ」とか「こうやって考えるのがコツ」みたいな具体的なものばかりだと思います。これらの内容になっている理由は上達のためのものだからであり、とても理にかなっていることだということは大前提としておきます。 でも僕はこう思うのです。もっと骨組みのところから考えてみたいと。上記の具体的な指南は対戦テトリスの中でも、それぞれのゲームの特性も加味した上でのものであり、全部をひっくるめた指南、というか考え方自体があんまりされてないんです(特に意味がないからですが)。

ここまでの前書きを踏まえた上で、対戦テトリスをもっと広く、抽象的な概念で捉えていくというステップを見てる人にしてもらいなあという試みです。今回は内容を絞って、火力に関することのみを考えていきます。かなり細かく書いていくつもりですが、気持ちはついてこいって感じです。


「火力指数」を考えてみよう

火力を構成する要素

まず「火力」とはどのようなものなんでしょうか。ここでは抽象化を行う前に、ひとまずは「火力」にできること(火力を出すこと)を具体的に挙げてみます。うーん・・・

  • なんかT-Spinとかテトリスとかして相手の盤面をバーンって押し上げるみたいな感じ

…と、とりあえず浮かんできたとします。擬音とか出てるけど大丈夫なんこれと考える人もいると思いますが、このくらい大雑把で構わないです。ここから、この文章の中にある「要素」を抽出していきます。
相手の盤面をバーンって押し上げるみたいな感じは火力という攻撃手段は相手にお邪魔を送りつけるという対戦テトリスの基本的なルールについてのことなので、要素として挙げるものではないので、無視してOK。
T-Spinとかテトリスとかしてがすごく大事そうですね。ただ、このままじゃまだよく分からないので、もっと深掘りするために、「T-Spinとかテトリスとか」できることをさらに具体的に挙げてみましょう。例えば・・・

  • 積み込んでTミノIミノあたりを上手くブチ込むことで、上手く組めるかが大事

って感じですかね。下にイメージに合うような動画を貼っておきます。

TミノIミノあたりを上手くブチ込むことはT-Spinやテトリスの打ち方の説明だから要素じゃないので無視して、
積み込んで上手く組めるかが大事辺りが良さそうですね。それぞれを考察してみましょう。
積み込んでとは勿論地形を積み上げていく積み込みのことですが、「積み込み」できること、とは何でしょう。ここまで絞ってくれば、ミスなく速く消さずに置いていくことくらいと同じような意味合いの考えが出てくるんじゃないでしょうか。
消さずに置いていくことは積み込みの定義より無視。速くがそのまま速度にあたるもので、ミスなくとは置きミスがないことでしょう。置きミスせずに速度出してラインを消さないように置いていけば、それが積み込みということだということがここまでではっきりしたと思います。

次に上手く組めるかが大事とは、いわゆる積みの効率(火力効率)のことなんじゃないかと考えています。ガタガタの地形よりもどんなミノ順にも対応できる地形のほうが良いでしょうし、同じT-Spinを組むまでの過程も、10個ミノ使って組むより5個使って同じものが組めたほうが例外はありますがまあ良いですよね。(大体は妥当な考えだとは思っているんですが、僕自身は上手く組めるかが大事の気持ちを効率と捉えるのにはもしかしたら抜けがあるかもと考えています。今回は上記の考察から進めていくことにします)
これによって「T-Spinとかテトリスとか」できることは、

  • ミスなく速く消さずに置いていってTミノIミノあたりを上手くブチ込むこで、積みの効率が大事

と言い換えられて、そのさらに大元の「火力」ができることとは、

  • 積みの効率を意識しつつミスなく速く消さずに置いていってTミノIミノあたりを上手くブチ込むこんでいって、相手の盤面をバーンって押し上げるみたいな感じ

と長々と書き表せます。ここまででよく分からなかった言葉を、意味を考えた後に展開する、というステップを踏んだことで、「火力」というものは、

  • ミスがないか

  • 速度が出てるか

  • 積みの効率が良いか

の3要素で構成されていると分かりました。やったー!こんなに長々と語りやがって!これで昼も眠れるぜとなるのも分かりますが、ちょっと待ってください。ミスがないか積みの効率が良いかって似てませんか?

上手く組めるか、の代弁が積みの効率なわけで、ミスがないと積みは崩れなくて、逆にミスがあれば地形は崩れます。置きミスは火力だ!だから地形なんか悪くなってない!と思った上級者の方の気持ちもまあ分かりますが、別の視点として相対的に考えてみれば、ミスしたときは、ないときよりは崩れています。ここから、「積みの効率が良い」の要素の中に、「ミスがないか」が入ってると言えるとしていいでしょう。すると、

  • 速度が出てるか

  • 積みの効率が良いか

のたった2つの要素で火力が構成されていると分かります。少なくね?と思ったそこの君、そうです。火力は大枠がとっても単純なものなんです。

火力指数を表す式を作ってみよう

理系ホイホイ文系バイバイということで、ながーく書いてきた結果見えてきた2要素を使って火力指数、すなわちどれだけ「火力」ができているかの指標を簡単な式(単純な積)に表してみます。
積みの効率をefficiencyのeとしましょう。単位は送った火力量の単位としてAttackを用いて、それをどれくらい置くことで出せたかを示す要素なので、積みの量Piecesで割ってe[A/p]と表せます。次に速度は、便利なことにPPS(Pieces Per Second)という速度の単位というものが非公式用語としてあるので、ここではSecondをMinutesに置き換えてv[p/m]とでもしておきます。これより火力指数Aは、

$$
火力指数A = ev [A/m]
$$

という式が書けました。マジで特に意味のないことをさせられた気分だとは思いますが、単位に注目してみると、pが打ち消しあってA/mとなっていて、これはAPM(Attack Per Minutes)という火力量を表す有名な単位です。火力の要素を挙げていって、それを単純に掛け合わせたものが有名な単位になった、ということに納得感もあるでしょうし、逆にAPMという単位は火力指数になり得る割としっかりとした理由を示せたということでもあります

これでほぼ「火力」という概念を抽象化できました。右も左も分からない初心者の頃は火力に関しての膨大な情報があれよあれよと飛んでくるわけで、めっちゃ複雑に感じてた「火力」が、全体を見ればたった二つの根っこからできてて、そこから枝分かれしたものをみんなは説明していたんだ、という気持ちになってくれてたら嬉しいですね。

でも・・・?

ここで少し現代の対戦テトリスガチ勢についての話なんですが、最近は実力のインフレが凄まじく、特に速度に関しては、ある程度のラインを境目に相手との速度差がほとんどなくなっていきます。この背景を踏まえると、対戦において相手との火力指数に差をつけるとなると、

$$
火力指数A = ev [A/m]
$$

より、積みの効率の良し悪しでしか差が付かないということになります。
火力指数で差が付けばより多く相手を攻撃できてるんだから勝ちじゃない?と思えば、積みの効率が良いと相手に勝てるということになります。
積みの効率が良ければいいってことは、止まらず火力を送り続ける機械みたいな動きが最強ってこと?というアイデアは正しい発想ですが、この機械みたいな動きは実際にはそんなに強くないことが実戦で分かってしまいます。

えー?結局合ってないじゃん・・・とガッカリさせたかもしれませんが、何が違うかって言ったら元々の仮定の「火力指数が高ければ勝ち」という話です。一体何がどう違うかを次からは見ていきましょう。

「実質火力」という考え方

「火力指数」は勝敗を分ける指数じゃない

ここでもう一度、火力を構成する要素を挙げます。

速度が出てるか
積みの効率がいいか

何か気づきませんか?
よーく考えてみると、これらの要素は全て相手が必要じゃないんです。
速度も積みの効率も、自分の盤面の状況だけ見ていれば計測が出来て、相手に依存するものではないために、火力という攻撃手段そのものは対人を考えていないものだと分かります。
ここから言える火力指数が高くても勝てない理由は、

  • 相手が防御(掘り)しているから

  • 実質火力が比較的出せていないから

辺りが挙げられるんですが、まあどっちもよく分かんないかもしれないです。ただ今回は前者の相手が防御(掘り)しているからについての話は省かせてください。ざっくり言うと火力を受けた以上にお邪魔を消しているということなんですが、細かい話をするとまたとんでもない長さになるのでないかもしれない次回に持ち越しにします。
実質火力が比較的出せていないからについて考えてみましょう。実質火力ってなんやねんって話なんで、ここから見ていきます。

相手にお邪魔を送った量を示す指数を考える

実質火力とは、自分が出した火力の中でも、実際に相手に送った火力のことです。
対戦テトリスにおいて、相手よりも自分が先に火力を送ることを「先打ち」、逆に後に送ったものを「後打ち」といい、実質火力は先打ちした火力のみに絞ったということです。
後打ちはいわゆる相殺をしたということになるんですが、先打ちは相手に単に送っただけなので、相手がどうするかを選ばせる行動になります。

これは相手の行動に依存したものなので、対人戦ではこちらのほうが重視されることが多いです。これがどれだけできているかを表す指針である実質火力指数は先手攻撃の割合を示すものになっており、これが高ければ相手により多くのお邪魔を送っているため、より有利に試合を運べるかもというわけです。次にこれを表す式を作ってみましょう。
とはいってもやることは単純で、全体の火力量のうち、先打ちの火力量の割合を火力指数にかけてやれば良いってだけです。

$$
火力指数A = ev [A/m]
$$

に上記の割合、ここではratioのrとでもおいて、これの単位は先打ち火力の単位を仮にforestalling Attackのfとしてr[f/A]とすると、0≦r≦1で、

$$
実質火力指数R = r・ev = r・A [f/m]
$$

という感じで表せます。このrの値が相手の体感での火力指数を大きく左右させることになるわけです。試しにあるパターンを考えてみます。

仮にKさんの火力指数を A1 = 100 [A/m]、
実質火力指数を R1 = (1/3)・A1 ≒ 33 [f/m] とし、
Tさんの火力指数を A2 = 75 [A/m]、
実質火力指数を R2 = (4/9)・A2 ≒ 33 [f/m] = R1 としてみます。

この場合KさんとTさんの実質火力量はほとんど変わらないわけですが、火力指数に注目してみると、TさんはKさんの75%程度の火力量しか出ていないと分かります。しかしTさんはKさんの約1.3倍相手に送った火力の割合が高いために、結果として同じ量相手にお邪魔を送ったということになっています。また実際の対戦を考えて、二人とも同じ速度を出しているとするなら、積みの効率の差は相手により多く受けさせるという立ち回りの工夫で補うことが可能ということがいえるわけです。
最近になって上位勢が相手の攻撃に相殺を合わせるか、それともあえて受けるかという試合内での判断にあたる「相殺管理」という言葉をよく使うようになったと感じるんですが、その理由の一つが上記の話です。

実質火力と勝敗決定にある関係

ここまで実質火力について考えてきたわけですが、次にこれが勝敗に関係あるのかを考えてみます。今回は攻撃手段について考えているので、勝利条件との関係を考えてみます。対戦テトリスにおいて勝利に必要な要素ってなんでしょう。改めてまた考えてみるわけですが、勝利条件を考えてみると「自分より先に相手がゲームオーバーになる」というルールがあるわけで、ここでまたゲームオーバーになることが何かを考えることになります。まあ、

  • 送られたお邪魔で窒息する

みたいな結論が出てくるとは思います。実際の試合を見ると、ほぼ全ての試合がこれに合う形で勝敗が決定しているので、例外は一旦無視します。
実質火力は送った火力量なわけなので、相手にとって送られたお邪魔に該当し、勝利に必要な要素(十分条件)であることは分かると思います。しかし、逆に実質火力が高いとすなわち勝利する(必要条件)、とはならないです。

窒息するという要素がまだあって、ここには防御手段である掘りも関わってきます。つまり掘りが間に合わないだけ相手がお邪魔を受けるという意味を持っているんですが、実質火力が高いだけではこの条件を満たすには足りないので、実質火力高い=勝ちにはならないってことになります。

おまけの話

「ぷよぷよテトリス」における火力についての歴史

今回の話はここまでで、ここからはコラムです。
実は対戦テトリス、特にぷよぷよテトリスにおいての実際の対戦テトリスの環境を振り返ってみると、見事にこれまでの当記事の流れに沿っていってる所があるんですよね。話長いんで飛ばしてくれても構わないです。
該当するのが最上位プレイヤーのKazuが台頭してきた頃のことです。当時他の追随を許さないほど最強だったあめみやたいようとほとんど互角にわたりあったことから、いわゆる「火力戦国時代」に突入していきます。

Kazuが界隈で超有名プレイヤーとなった決定的な試合

以前主流だった掘りや積み込みRENを重視する防御スタイルから一変して、T-Spinやテトリスを可能な限りねじ込んでいく攻撃特化のスタイルを取るプレイヤーが爆増し、「火力が高いやつが勝つ」という価値観が一気に浸透していくことになりました。
積みの効率(火力効率)を上げるために、少し速度を下げてでもドネイトと呼ばれる火力増強テクニックなどを活用していくなど、上位勢の火力への飢えともいえる執念は凄まじいものだったと記憶しています。

ここから少し経った頃には全員の積みの効率が段々と並び始めてきました。勝つためには火力をより出さないといけない。でも効率ではお互いにほとんど同じになってきた、という事情があったり、同じく最上位プレイヤーであり、そのスタイルが高速でミノを置いて高火力で刺しきる、というものだったふれあがあめみやたいよう並みの上位勢と広く認知され始めたということもあったりして、上位勢の平均の速度が大幅に上昇するということが起きました。

当時のふれあの試合

これによって当記事でいう火力指数の高いプレイが理想ということにほとんどの上位勢が賛同していたわけなんですが、これとは違う道を歩んでいるあめみやたいようといざ試合をすると、何故か中々勝てないんですよね。
理想を体現しているといえるKazuですらあめみやたいようには一度勝つだけでも約1年かかり、例え勝った試合であっても本数にはほとんど差がなかったんです。
当時は負けた試合はKazuが不調だったとかで終わらせていた所もあったんですが、この関係が覆るタイミングがあります。「獣道4」の開催です。

獣道4はプロ格闘ゲーマーのウメハラ主催のイベントだったんですが、試合のタイトルの一つにぷよぷよテトリスが選ばれました。あめみやたいようとKazuがガチでぶつかり合うという内容だったんですが、この試合に向けたKazuは自身のスタイルを大きく変えていくことになります。

獣道4での実際の試合

攻撃重視から掘りを多分に絡める防御重視のスタイルに。送る火力も相殺外しを何度もすることによって有効打、つまりは実質火力を増やすようにし、かつお邪魔を常にもったことで次の掘りのルートを予測しやすくしただけでなく、試合開始時に組む「開幕テンプレ」も当時主流だったDT砲や開幕TSDを捨て、相殺外しがしやすいかつあめみやたいようがよくやってくる開幕RENへの対策としてはちみつ砲や山岳積み二号などのTDテンプレと呼ばれるものを採用。このスタイルの変更はKazuのプレイを大幅に成長させることになりました。

練習試合としてあめみやたいようと試合を行うと、ダブルスコアでの勝利を連発。もっとも差が開いたときにはトリプルスコアにまで抑えるという、互角とはお世辞にも言えないほどに圧倒的な実力を見せつけます。
本番でも勝利を収め、上位勢だけでなくそれを見たプレイヤーがこぞってTDテンプレを組みだすようになり、上位勢のスタイルも攻撃重視からKazuのものに似た防御重視のものが主流になっていったと記憶しています。

ここから現状最強のプレイヤーであるしゃけごはんが相殺外しの手段をより豊富なものとし、またも攻撃重視が環境に返り咲いたりもしたんですが、ここまでの流れは全部この記事でやった、火力指数を考え、その後にもっと対人で有効な実質火力を考えるというものと一緒なんですね。
これは実際に抽象化して考えたってわけじゃなくて、強い動きを考えたら偶然そうなったってだけなんですが、すごく面白いなって思いませんか?
大枠を考えてみると、意外なことが見えてくるかもねという話でした。

さいごに

この記事では火力と実質火力についてより抽象的に捉えていくことをしていったわけですが、一旦まとめていきます。

  1. 火力の要素は積みの効率(火力効率)と速度の2つに分けられる

  2. 火力をどれだけ出したかの指標である火力指数は、APMという火力量の単位に一致する

  3. 火力のうち、相手に送った火力を実質火力という

  4. 勝利条件には火力指数ではなく、実質火力指数が高いことが含まれる

大事なのはここらへんです。今回の話では抽象化の方法として、具体的なイメージを挙げてから、そのイメージから細かく要素を抽出していくということをしていきました。色んな複雑な事象にこの方法から大枠を見ていくというのは、案外内容の整理に役に立ちます。必要かどうかは分かりませんが、他の対戦ゲームでもこういう視点に立ってみるのもいいかもしれませんね。
続きの掘り編があればよろしくお願いします。ではまた。


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