新しいイノベーションの形
政府は、急成長企業(スタートアップ)や起業家を育成する強化策を固めました。目玉は二つ。客員起業家制度(EIR)の導入と、大企業からスタートアップへの出向支援です。岸田首相は、「スタートアップの育成」を成長戦略の柱としています。ここでは、EIRを取り上げて、これからのイノベーションのあり方について考えてみたいと思います。
EIRは米国で広がっています。企業を目指す人が、自ら計画する事業に近い分野の大企業で働き、販路開拓や量産化の知見を学びつつ、企業側からの将来的な資金調達につなげる仕組みです。政府(経産省)は、雇用協力した企業に必要経費を補助します。現在、企業価値が10億ドル(役1150億円)を超える未上場の新興企業「ユニコーン」は、米国424社、中国165社に対して、日本はわずか6社。EIR等の施策で、起業家の育成を加速したい狙いです。
EIRの起業家側のメリットはわかりやすいですね。企業から給与が支給され、安定した生活基盤を持った状態で新規事業の立ち上げを行うことで、経済的なリスクを軽減できます。さらに立ち上げ段階で企業のリソースを活用でき、ノウハウも学べる。信用構築、資金調達、販路開拓で有利です。事業成功後も、子会社として事業拡大するか、独立してスピンオフするかという選択肢を持てる。起業家側のメリットは非常に大きいです。一方、企業側にメリットはあるのか? それがオープンイノベーションの考え方です。新規事業創出は重要課題ですが、内作するのは簡単ではない。新しい分野のノウハウ・スキルを持っていません。だから社外投資する。スタートアップやベンチャーへの投資です。しかしその打率が悪い。良い投資先が見つからない。そこでEIRの活用。企業の中にいて、コミットメントも高いので打率が上がるわけです。
今回のEIRは経費補助というだけでなく、企業カルチャー改革という意味でも積極活用する価値は大きいと思います。ゼロから内作で多角化する時代ではありません。事業も、R&Dもオープンイノベーションをいかに上手に活用するかにかかっています。ニーズとシーズのマッチング、内部と外部の掛け算、コーディネート力、新たなバリューチェーン設計、プロジェクトマネジメント・・・。イノベーション=発明ではありません。新しいイノベーションの形を大きな視点で考えたいですね。
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