UXD プロトコルファンドの構造
UXD ProtocolのDiscordでよく尋ねられる質問の一つに
「UXP(ガバナンストークン)ホルダーがデルタニュートラルポジションによって生み出された収益を受け取る方法はどのようになっていますか」
というものがあります。
UXD Protocolは長い設計期間を通して様々な可能性を検討してきましたが、最近導入したveRevメカニズムを用いた「プロトコルファンド」の仕組みを提案する準備が今回ついに整いました。veRevメカニズムを含めたプロトコルファンドを構築するのにまだまだ時間がかかるため、本記事をお読みいただいた皆様からフィードバックを得たいと思います。
非常に長い記事になるため、要約が必要な場合は要約:プロトコルファンドの仕組みまで飛ばしてください。
UXDステークホルダー
当初、UXD Protocolは「デルタニュートラルポジションのファンディングレートは、プロトコルのステークホルダーに自動的に分配される」と記していました。
まずいくつかの定義・注意事項を説明します。
ファンディングレートとは、UXDの基礎となるデルタニュートラルポジションから発生する利回りを指し、Mango Marketsなどの取引所における無期限先物の価格により決定されます。この利回りは市場の状況によってプラスにもマイナスにもなりえます。
ファンディングレートは、それがプラスかマイナスかによって、UXD Protocolにとって資金源にもコストにもなり得るため、UXDは5700万ドル規模の保険ファンドを設けてマイナスファンディングレートの支払いが必要な場合に備えています。
UXD Protocolの「ステークホルダー」とは、UXPホルダー、UXD(ステーブルコイン)ホルダー、およびUXDの保険ファンドを指します。
保険ファンドはまた、資産運用戦略(ステーブルコインの流動性供給、レンディングなど)によっても収益を生み出しています。ファンディングレートと資産運用戦略による収益の組み合わせは、ここではプロトコル収益と呼びます。
これらを踏まえると、冒頭の質問は次のように言い換えることができます:
「デルタニュートラルポジションから生成される収益とステークホルダーの関係はどのような形になりますか?」
この問いに対する答えが、プロトコルファンドの仕組みなのです。
要約 プロトコルファンドの仕組み
プロトコルファンドは以下のように機能します。
UXPホルダーが①ガバナンスに参加し、②プロトコル収益の割当を受け取るためには、UXPをステーキングする必要があります。ステークされたUXPはveUXPとして記録され、ガバナンスのにおける発言力はロックの長さに依存します。
UXPステーカーは保険ファンドの裏付けとして機能します。保険金が枯渇した場合、ステークされたUXPトークンは、MakerDAOのオークションメカニズムと同様の方法でオークションにかけられます。
UXPステーカーのプロトコル収益の分配は、UXDプロトコルの健全度に依存します。健全度は①デルタニュートラルポジションの価値 ②保険ファンドの価値の合計を、UXDの合計供給量で割ったものです。
例えば、デルタニュートラルポジションが1億ドル、保険ファンドが5千万ドル、UXDの流通量が1億ドルである場合、健全度=(100+50)/(100)=150%となります。UXD Protoolは過去のデータから目標健全度を算出しました。プロトコル収益は、健全度=目標健全度のときUXPホルダーと保険ファンドの取り分が50:50になるように分配されます。健全度が目標健全度を上回るか下回るかで、分配の比率は増減します。
詳細は「付録:イールドスプリット」のセクションを参照してください。プロトコル収益は前回の記事で紹介したveRevモデルを使って配布されます。
UXPステーカーは、veRevメカニズムからの報酬に加え、veUXPでも追加のステーキング報酬を受け取ることができます。この排出量は時間の経過とともに減少するように設計されており、初期のステーカーに報酬を与える意図があります。
UXPステーカーに支払われるプロトコル収益は毎週末に計算されます(期間は変更される場合があります)。その週のプロトコル収益がプラスの場合、UXPステーカーはこの収益と上記のveUXPの分配を受けます。その週のプロトコル収益がマイナスの場合、UXPステーカーはステーキング報酬のveUXPのみを受け取ります。
veRev
veRevはステーカーを非ステーカーより優先するようにするだけでなく、新しい「半流動化」veTokenを作成し、ペーパーハンドをガバナンスシステムから退出させ、ステークされていないUXPに対する自然な需要ベクトルを生み出す新しいメカニズムです。その上veRevは有利な税制上の意味をも持つと思われます。このメカニズムの全容は前回の記事でご紹介しています。
コミュニティからのフィードバック
上記のデザインは提案であり、UXD ProtocolのDiscordではコミュニティからのフィードバックを推奨しています。ぜひ#protocol-fund-discussionチャンネルで行われている議論にお立ち寄りください。
プロトコルファンドのデザイン
以下では、UXD Protocolがプロトコルファンドのデザインに込めた想いを詳しくお伝えします。プロトコルファンドのような重大なパーツのデザインを選択する際は、決定した構造だけでなくその構造に至るまでの思考の道筋を共有することも重要です。
プロトコルファンド全体の構造を決定する上で選択すべき事項は以下のように階層化されています。
プロトコルファンドにおける各ステークホルダーの役割はどのようなものであるべきか?
ステークホルダーへの収益分配はどこからなされるべきか?
(デルタニュートラルポジションの収益や保険ファンドの収益など)各ステークホルダーはどれくらいの収益を受け取るべきか?
(ステークホルダー間での正式な収益配分)収益はどのような形で分配されるべきか?
(バイバック&バーン、直接的な配当割り当て など)
それぞれの質問に対して回答していきます。
プロトコルファンドにおける各ステークホルダーの役割はどのようなものであるべきか?
UXPホルダー、UXDホルダー、保険ファンドの関係性を以下のようにします。
UXPホルダー
UXPホルダーは、言うなればUXD Protocolの執事です。彼らのインセンティブはUXD Protocolの長期的な成功やUXDの安定性と一致させるべきです。UXPコミュニティは保険ファンドの資産運用に責任を持ち、その役割とリスク引き受けの見返りとして収益を受け取るようにすべきです。保険ファンドの資産運用戦略には、「何もしない」という選択肢が優先されることが望ましいでしょう(投機性の高い運用を防ぐため)。また、万一の場合に備えて少数の参加者は拒否権を保持しておくべきです。
UXPホルダーはプロトコルファンドの裏付けとして機能すべきであり、以前の記事で説明したようにUXPホルダーはプロトコルファンドにUXPをveUXPの形でステークすることが必要になります。(コミュニティはロック期間とガバナンスパワー係数を決定する上で力になるでしょう。) 保険ファンドが枯渇した場合、ステークされたUXPトークンはMakerDAOのオークションメカニズムと同様の方法でオークションにかけられます。
UXPホルダーは、プロトコル収益がプラスの時にはいくらかのプロトコル収益を受け取る一方、マイナスの時には(保険ファンドが枯渇していない限りは)プロトコル収益を支払う必要はないようにするのが好ましいでしょう。ただし既存資産を安全な戦略に基づいて運用することを奨励するため、保険ファンドの資産運用戦略の結果として収益がマイナスになった場合にはペナルティを課すことがあります。このようにUXPは、プロトコル収益に対するローリングコールオプション(訳注:ローリングとはオプションの権利行使日・価格を変更する取引を指します)のように動作します。インセンティブを調整するため(このコールオプションの性質上、UXPホルダーが保険ファンドの運用を誤らないようにするため)、UXPステーカーが受け取る収益の割合はプロトコル全体の健全性に依存します(後半の付録を参照)。
UXDステーブルコインホルダー
実際のところ、UXDホルダーはUXD Protocolに神経を使う必要はありません。USDCホルダーがCentreコンソーシアムの運営に関心を持つ必要がないのと同様に、UXDホルダーは分散型ガバナンスに参加する権利は与えられるものの、義務はないと言えます。
UXDとは分散化されたUSDCにUXPというインセンティブを加えたものだと表現できます。前述したように、UXDの利用にはUXPによるインセンティブ(手数料リベート、流動性マイニング、レンディング金利の補助)が付与されます。これらのインセンティブは、ユーザーにUXD Protocolの分散型ガバナンスに参加するという選択肢を与えるための手段です。
UXDは純粋なステーブルコインであり、収益を受け取るべきではありません。UXDの目標は投機的なものでなく、ただ通貨商品として機能することです。これにより、プラットフォームの統合が大幅に簡素化され(リベースやエアドロップなどが不要)、十分な流動性が確保される(利回りのためにUXDをステークする必要がない)ほか、投機的な利回り追求の防止にも役立ちます。
UXD 保険ファンド
UXDの保険ファンドはUXDホルダーのために存在し、ステーブルコインの安定性を維持するために利用されます。ファンドは低リスクの資産運用戦略を展開し、ファンドが取っているポジションを通じて持続的な収益を生み出すことが求められます。ファンドの意思決定はこの原則に従うべきです。
UXPステーカーのコミュニティによって決定される資産管理戦略がプロトコルとUXDホルダー双方の利益に適うように、適切なセーフガードを導入する必要があります。戦略は低リスクで、思慮深いものでなくてはなりません。リスクの高い戦略は拒否可能であるべきで、マイナスの利回り戦略は何らかのペナルティを伴うことが想定されます。
2.ステークホルダーへの収益分配はどこからなされるべきか?
UXD Protocolの執事として、UXPステーカーはデルタニュートラルポジションと保険ファンドの利回り戦略の両方から収益を受け取れるようにすべきです。前者はコミュニティによる運営を継続するための「運営費」、後者は「資産管理費」と解釈することができます。長期的には、UXPステーカーは他のサービス(例:貸付型AMOなど)を通じて収益を増加させられるかもしれません。
3. 各ステークホルダーはどれくらいの収益を受け取るべきか?
UXD ProtocolはUXDホルダーの利益のために存在しており、そのためステーブルコインの安定性と堅牢性を確保することが優先されるべきです。そして、収益はこの哲学に沿った形でステークホルダー間で分配されるのが適切であると考えられます。
理想としては、保険ファンドとUXPステーカーとの間の収益分配を決定する原則的な方法があって、「健全な」プロトコル(UXDステーブルコインのホルダーが安心できる状態)に対してUXPステーカーが報われるようにすることが望ましいでしょう。それに比べれば完璧な方法とは言えないものの、UXD Protocolはプロトコルが「健全」かどうかを判断するために、従来型の金融から「バリュー・アット・リスク(VaR)」の概念を取り入れています(詳細については付録を参照)。一言で言えば、UXDの保険ファンドが「健全な状態」であるとは、保険ファンドが枯渇する確率が10%以下であることを過去のデータと仮定を用いた試算で保証するのに十分な規模に達しているということです。
加えて、UXDは収益分配のためのある関数形式(プロトコルの「目標健全度」を中心としたプロトコル健全度のロジスティック関数)を決定しました。この関数の主要なパラメータはガバナンスによって変更可能です。
4.収益はどのような形で分配されるべきか?
最近、UXDはveRevと命名した収益分配モデルを共有しました。他のプロトコルが望めばそのメカニズムを採用できるように一般公開されましたが、本来このモデルはUXPステーカーに収益を分配する目的で設計されています。
このモデルを要約すると、以下のようになります。UXD Protocolは定期的に(隔週、つまり2週間ごとを予定)、その期間中にプロトコルが獲得したすべてのプロトコル収益を合計します。この金額がプラスであれば、追加のveUXPという形でveUXPのステーカーに報酬として付与されます。その後、UXD Protocolは逆ダッチオークションを開始し、ステーカーからveUXPを買い戻そうとします。余剰分のキャッシュフロー(オークションが満杯にならなかった場合)は、公開市場でUXPを買い戻すために使用される場合があります。より詳細な説明については、veRevの記事を参照してください。
veRevは以下の特徴を持つ新しいメカニズムです。
ステーカーを非ステーカーより優先する
より長期間のロックにインセンティブを与える「半流動」veトークン
ペーパーハンドをガバナンスシステムから退出させる
税制上の利点
ステークされていないトークンに自然な形で需要ベクトルを発生させる
上記をまとめると以下のようになります。
UXPステーカーは保険ファンドを含むUXD Protocol全体の執事のような存在です。保険ファンドはUXDホルダーの利益のために存在するパーツであるため、UXPホルダーはUXDホルダーに奉仕する立場にあるとも言えます。
UXPステーカーは保険ファンドの管理だけでなく、リスクを最終的に負担する役回りについても報酬を受け取れるようにすべきです。
UXPステーカーが保険ファンドの運用に関して受け取れるプロトコル収益の額はUXD Protocolの健全度、つまりUXDホルダーがポジションを保有する際の安心感(を定量化したもの)に対応すべきです。
UXPステーカーはveUXPのためにUXPをステークし、veRev収益分配モデルにもとづいて収益を受け取ります。
ここまで読んで頂きありがとうございました。
開示:全ての分散型ステーブルコインはその用途・価格安定性に関してリスクを抱えています。潜在的なリスクについてはUXDのドキュメント内の「リスク」セクションを参照してください。この記事で示した全ての設計は未確定で、変更される可能性があります。
付録:テクニカル仕様
プロトコル利益(r)は、資産運用戦略の利益(r_I)とデルタニュートラルからの利益(r_DN)の組み合わせとなります。
UXPステーカーに比例配分される利益と保険ファンドは、ある時点におけるプロトコル全体の健全度を示す関数であり、時間tにおける健全度比率として知られています。
プロトコルの健全度(Health)は、過去nブロックの健全度比率の移動平均として算出されます。
過去のデータを使用すれば「バリュー・アット・リスク」健全度を計算することができます。この数値は、UXD Protocolを過去のランダムな日付でスタートさせたとき、90%以上の確率でプロトコルが支払能力を維持できる(破産する確率が10%以下である)健全度ということになります。これはあくまで初期設定のパラメータであり、変更される可能性があることに注意してください。
この値を呼び出します
UXPホルダーと保険ファンドで分配される収益はロジスティック関数で与えられます。
(r)はプロトコルで生成された総収益、 (k) はガバナンスで選択できるパラメータですが、これは規定の範囲内に収まっていなくてはなりません。
と
を比べてみましょう。
つまり (k) は、Health_t = 1.05Health* (現在の健全度が目標健全度より5%高い)の場合、UXPホルダーは最も早く75%の収益を得ることができ、Health_t = 1.50Health*((現在の健全度が目標健全度より50%高い)の場合、UXPホルダーは75%の収益を得られるのが最も遅くなるように設定されていることを意味しています。
実際、パラメータ(k)は健全度のロジスティック関数が持つ急勾配に深く関与しています。(したがってkが高いほどリスクも報酬も高く、kが低いほどリスクも報酬も低いことになります)
例えば、以下はHealth* = 1、kが上記の範囲にあるロジスティック関数群です。この考え方はつまり、プロトコルが良好な状態(Health_tがHealth*以上)であればkを大きくすることは有益であるが、プロトコルが不調な状態(Health_tがHealth*以下)であれば収益がすぐにゼロになるため非常に不利になる、ということです。2つの赤い曲線は、曲線群の境界(kがln(9)と20ln(3)の終点値に設定されている)を意味しています。
なお、収益分配は、Health*の最適値では常に50%であり、そこから様々な傾斜で増加します。
「k "は四半期に一度(この期間は変更される可能性があります)に限って変更できるようにし、ガバナンスシステムが乱用されるリスクを排除します。
なお最終的な関数形においては、健全度が100%以下の場合(プロトコル全体が担保不足に陥った状態)、分配される収益が非連続的に減少していずれゼロになります。
ここまでお読みいただきありがとうございました。以下のリンク先のサイトでは、UXD Protocolに関するより詳細な情報を掲載しております。
公式ウェブサイト:http://uxd.fi/
Twitterアカウント:https://twitter.com/UXDProtocol_JPN
Discordサーバー:https://discord.com/invite/BHfpYmjsBM
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