フィルム上映会準備note6: 上映作品『営倉』とはどんな映画なのか?
10月12日に横須賀の上映会で写す映画、ジョナス・メカス『営倉』(英題:The Brig)について今日は少し書いていきます。メカス映画のなかでも異色と位置付けされる理由と、以降の映像に共通する部分などを紹介できればと思います。*後半はネタバレを含みますので途中で注意報を入れます。
映画『営倉』とは?
『営倉』とは英語でいうところのThe Brigで、アメリカの兵隊矯正施設の名称です。軍人が過ちを犯した際に入れられる、兵隊用の監獄、拘置所のような施設をさします。映画『営倉』では懲罰や訓練と称し、そこで行われる暴力と服従を描きます。68分の間、密室の中で繰り広げられるそれらの行為をメカスの俊敏なカメラが捉えます。
スタンリー・キューブリック監督の『フルメタルジャケット』をご覧になりましたでしょうか?ベトナム戦争時のアメリカを舞台に、新兵を鍛え上げる鬼教官と新兵との、虐待ともとれる過酷な訓練が描かれる映画です。兵隊たちは人格など存在しないかのように屈強に育て上げられ、ベトナム戦争の現場へと駆り出されていきます。しかし屈強な彼らがそこでみた戦争の現実とは、、という物語です。
キューブリック監督がこの『フルメタルジャケット』の前半で描いた、暴力と矯正の密室シーンを思い起こさせる映画が『営倉』です。
*この先は少しネタバレを含む内容になりますので、まっさらな気持ちで映画を見たい方はご注意ください。
ジョナス・メカスが途中退室してまで捉えたかったもの
『営倉』はジョナス・メカスが撮影した作品ですが、元々はオフ・ブロードウェイで行われていた演劇です。リビングシアターという団体がニューヨークで公演している舞台を撮影した作品なのです。
とはいえ、この映画が特殊なのはドキュメンタリーとしての側面も併せ持つことでしょうか。メカスはこの映画を撮ろうと決めたときに、劇場でこの演劇をみていたわけですが、すぐさま退出して続きをみることはなかったそうです。その理由は、新兵が肌で感じたようなフレッシュな気持ちで、初めて見るもの、初めて体験する出来事として映像に収めたかったからです。
当日、メカスはカメラを担ぎ、舞台上へ上がり込んで演劇を撮影することにしました。つまり、実際にどんなことがおこなわれるのか知らないまま、監獄での行為を追い続ける目としてカメラを回し始めたわけです。
事前にカット割を含めた撮影台本が用意されるわけではないこの方法は、臨場感を持った監獄の生々しさを伝えることに大きな役割を果たします。通常の映画では役者はカメラのフレーム外では演技をしていませんが、これは演劇であるので、カメラの外でも役者たちは演技をつづけています。つまり、ある意味これは演劇を中から撮影したドキュメンタリーでもあるわけです。
メカスのカメラワーク
この映画をご覧になった方は、未見の舞台演劇という予測不能な動きのなかで、メカスの俊敏で即応性にあふれたカメラワークに驚かれると思います。このカメラと意識の即応性というものは、以後のメカス映画の成り立ちにも十分に寄与した技術であり思考であると考えます。
美しい人間たちの讃歌を生涯捉え続けたメカスが、暴力や演技を主たる対象として撮影することは『営倉』以後ほとんどありませんでした。後のメカスが画面を激しく揺らしてまで収めようとした”ここにある楽園”としての世界。その一瞬を捉える目線の、思考的技術的土台を、この『営倉』という初期映画の中に窺い知ることができます。
ジョナス・メカス映像の中でも映写にかかる機会の少ないフィルムです。状態の良い美しいプリントで上映します。是非、ご予約の上ご覧ください。
概要と予約サイト>>
*参考元:JONAS MEKAS SCRAPBOOK OF THE SIXTIES WRITINGS 1954-2010 (SPECTOR BOOKS)
jonasmekas.com
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