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憧れるという感情



羨ましいという言葉は軽はずみに使わないようにしている。同様に憧れるという言葉も使わないようにしていたのだが、それでもやっぱり憧れを感じる瞬間はあるし、ポジティブに使うならいいのでは?とここ最近思うようになった。
そもそもなぜ"羨ましい、憧れる"というワードにこんなに過剰に反応してるんだ自分?と思い返していて、そのきっかけを朧げな記憶を辿って書いてみることにした。



高校生の時だった。

幼稚園、小学校、中学校と同じ時間を過ごしたものの、他校に進学した友人。美人で明るく賢い友人のNは、お父さんが知らぬ間に仕事を辞めて借金を背負い、親は離婚し、家庭環境はボロボロになっていた。
なんとなく様子は知っていたものの、気が強く、プライドの高い彼女はあまり多くを語らなかった。


中学時代とは変わり、派手な交友関係を持つようになった彼女は、毎日大学生の彼氏と遊び、バイトに明け暮れていた。
私の平凡な生活に比べると、彼女の生活はキラキラした高校生活に見えた。高校生にとっての大学生の彼氏というものは、本当に大人に見えたし、私の知らない世界を彼女は経験しているように感じた。
家が近く、時々彼女と会うものの、メインの話は彼氏やバイトのこと。たまに家庭の話をしても時間はごく僅かで、その時は、会話の節々に同情してくれるなという気配を張り巡らしていた。


そんな彼女を見るとどうしていいか分からなかった。家庭の話をしたいのか、したくないのかも、当時は分からなかった。話を聞き出す力もない私に、彼女を救うことなんて出来るわけがなかった。
幼い私がたったひとつ、出来たことは同情しないこと。彼女のプライドを壊さないように必死だった。深刻ぶらず、あくまで軽く彼女の話を聞くことで、深く悩む必要はないよと示したかったのだ。




そんな折、彼女の家の事情を知らない同級生達は、急に派手になった彼女の生活に驚いていた。高校生ならば興味があって当然なのだが、急にメイクを始め、バイトを始めた彼女は田舎社会では目立ちすぎた。
人が変わると、変わっていない側の人間は不安を覚える。高校デビューだなんて陰で言いながらも、皆彼女を羨んでいるようだった。


中には、陰口を言いながらも好奇心を抑えれない人もいて、友達になりたいとアピールをし始めた。だが、彼女は全く相手にしなかった。

元々仲が良かった私は、その様子を傍から見ていて、憧れる、羨むという感情は必ずしもプラスに働くわけではないんだな、と思ったのだった。




憧れる、羨むという時点で、その人の片側の面しか見えてないなと感じた。複雑な家庭事情も加味して、憧れると大声で言えた人は当時はいなかっただろうから。


彼女に憧れや羨みを感じている人の中に、私と友達になれそうな人はいなかった。屈折した憧れが嫉妬に変わって陰口を叩いたり、憧れの彼女といれば自分の生活も引き上げてもらえるのではとおこぼれを狙っていたり、そんな人しかいなかったから。人に憧れを抱くというのは醜いものだなと思った。こうはなりたくないと思った。



そもそも、当時、彼女に対して、羨ましいという気持ちはきっとあったのだ。行動力があるところも、度胸があるところも、気力が強いところも、私にはないものだったし。自分にないものを持つ人にたいして、そうゆう気持ちになるのは自然なことだ。
ただ、あまりにも憧れや羨みの感情にまとわりつく、汚い付属品を眼にしすぎて、気付けば「簡単に憧れるとか羨ましいなんて言わないようにしよう。その人がどう思うかも分からないし、実際見えてるものが全てじゃないし。」なんて考えを持つようになってしまった。



若い時の経験は根深いもので、きっかけなんて全く思い出さないくせに、「憧れや羨みは悪いものだ」と脳内に長年刷り込み続けていた。

ここ最近、自分にないものを持つ人に出会って(それはもちろん社会的立場とか金銭面とか容姿ではなく、考え方や性格に関してなんだけれど)、こんな風に生きたいなとふと思った。
思ったと同時に、後ろめたさがあった。そんな気持ちに蓋をするように、私は彼とは違うからそんな生き方はできないよなと言い訳を作って逃げ出した。
これは逃げ癖を発揮しているのか?それとも、自分の性格を肯定することが大切と深層心理で感じているのか?とどこかで思いながら。


そんなこんなで、行ったり来たりしながら、そもそもこの後ろめたさって何だ?と、後ろめたさの正体に気付き、その正体を探っていると、高校時代の経験にたどり着いたわけだ。


確かに、人の片側だけを見て羨んだり憧れたりするのは今も好きではない。ただ、良いところは良いところとして認めて、自分にないものだと認めて、憧れを勝手に感じる分には何の問題もないではないか。
悪いところは悪い、嫌いなところは嫌い、憧れるところは憧れる、全部含めて好きですよ。これでいいじゃないか。とふと思ったって書きたかっただけなのに、めちゃくちゃ長くなって疲れた。


周りの気持ちを汲み取り、盛り上げて、空気を変えてくれるJさんとK部長、私はあなた達に憧れに近いものを感じています。

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