初音ミクシンフォニー2024サントリーホール公演 感想戦!
去る2024年4月27日、初音ミクシンフォニー サントリーホール公演(昼夜)を鑑賞した。私個人としては2022年以来2度目のサントリーホール。今回はオーケストラが東京フィルから新日本フィルに変わっていたが、前回に勝るとも劣らぬ素晴らしいコンサートだった。
2年前に熱量だけで書きなぐったときから変わらずの拙文で恐縮だが、セトリを振り返りながら感想などを書き連ねたい。このnoteを介して、あの日の感動を遠く彼方のファン諸兄姉と共有できれば嬉しく思う。などと思っていたら1ヶ月が過ぎてしまった。遅筆ですまん……
念のため、以下ネタバレ注意!
前半
サイハテ
新日本フィルのメンバーと指揮者 栗田博文さんの登場を拍手で迎えての1曲目、オープニングに披露されたのは予想外のポップ・レクイエム。
今年はルカさん15周年を前面に出してくると踏んでいたこともあり、静謐なホールに響き始めたサイハテのイントロは衝撃的だった。楽団が変わっての初回冒頭に、いきなり鎮魂歌を持ってくるのは少々ラジカル過ぎないか?
とはいえサイハテはミクシンフォニーで聴けることを待望していた楽曲の1つ。いざ眼前で初演奏されるとなれば興奮が勝る。
イントロに乱された心が落ち着いてくるころ、聴こえていたのは軽快で心地よい弦楽器。原曲の歌詞に歌われる「たおやか」ってこんな感じなのかな、と知ったふうな顔で、明るさと優しさの相まった演奏にしばらく耳を傾けていた。
だが悲しいかなレクイエム。サビでは荘厳な管楽器が場を支配し、別れのときを告げる。決して引き留めることはできないのだと、強烈な説得力をもってホルンが迫る。もはや国葬レベルの「さよなら」だった。
テオ
続く2曲目も初演奏曲!(そしてミクさん曲)
良い意味でこれまでの型にとらわれず、新日本フィルの初音ミクシンフォニーをやるんだって強烈な決意が伝わってきた。
曲の冒頭、繊細なパーカッションに続いて、音が爆発してきらめいた。圧倒的な緩急で一気に引き込まれる。現地で聴いていない読者に伝わらない表現で恐縮だが、そうとしか形容できないくらいのインパクト。ぜひ本公演のCDが出たら誇張でないことを確かめてほしい。
そして最初からクライマックスのテオだが、終盤の疾走感もハンパなかった。Cメロで第1バイオリンが「静」を奏でたのに続いて、大サビの展開でトロンボーンらが「動」を響かせたら最後、勢いそのままテクニカルなアウトロまで一気に駆け抜けてフィニッシュ。気圧されるとはこのことか。
アカツキアライヴァル
曲紹介を挟んで前半3曲目。ついにルカさん(&ミクさん)曲!そして当然のように初演奏曲(すごい)
過去何度も演奏して磨きをかけた定番曲が無いからこそ、思い切りよく新曲を演れるのが新体制になった強みよね。
主役が多い!管弦のほぼ全楽器が、入れ替わり立ち替わり主旋律を回り持つ編曲で、原曲で競い合うネギトロ2人のライバル感は残しつつ、特盛スケールアップ。協奏より狂騒の字を充てたいくらいの激しさなのに、殺伐としたバトロワみたいな雰囲気は一切なし。各パートが高め合いながら、最後はオーケストラ一丸となって大サビに至るカッコよさよ。どの楽器も甲乙つけがたいけど、個人的推しはフルートでした。
恋は戦争
前半4曲目。もう初演奏ってだけでは驚かないぜって思っていたところに、古参大歓喜の名曲はズルい。
これは戦争。冒頭から鳴りはじめたドラムは、決して止むことなくビートを刻み続ける。勇猛なホルンの音がホールに響く。ただ前進あるのみ、歩みを止めることは許されないと思わされる緊張感。そしてラスサビ直前、金管楽器の「大好き」は覚悟を刻んだ決意表明。
これまで戦争だなんて大げさな……たかが恋愛でしょ?と思っていたのを猛省したい。彼女にとっての恋は人生の一大事、まさに戦争なんだとビリビリ伝わってきた。どうかご武運を。
Synchronicity三部作
Synchronicityがコンサートの目玉の1つであると事前告知で知った時点では、寡聞にして原曲を聴いたことも、同時展開された小説を読んだこともなかった。事前に予習していくか悩んだけれど、明確に言語化されている物語を、オーケストラの演奏で非言語的に初体験するのも一興かと思って、未履修のまま当日を迎えた。
して、以下は事前知識ゼロで鑑賞したファーストインプレッションが主になります。(後日ボカコレで音楽だけ→ニコ動でMVも視聴したのち、小説を読む形で答え合わせした追記をカッコ内に。)
超重低音からはじまった第1楽章。チェロの調べが導くのは、運命のいたずらで動き出す物語。続くパーカッションの時計、グラスの割れる音で一気に物語の中に引き込まれる。そこからはケルトっぽい曲調も手伝って、旅のはじまりやファンタジー感が出てきた。胸に秘めた決意も?
(原曲の半分くらいがインストとは思わなかった。冒頭のハープと鉄琴は原作再現凄かったんだな。運命のいたずらと言うより大人の都合、グラスではなくペンダントの落ちた音でした。)
第2楽章。「流転する物語、波乱万丈、激しい闘争、渇望」と、パッと受けた印象しかメモが残っていなかったので、演奏の詳細を思い出せないorz
(思いのほか当たっていて驚いた。事前知識ゼロの観客にここまで伝えてくるプロの技すげぇ。)
第3楽章冒頭は一転してフルートの静。一時の平穏を享受するが長くは続かない。そこからテンポを上げ、幾重にも音を重ね合いながら、クライマックスへ誘う。バイオリンの優しいソロから、再び時計&グラスの音。命尽きる間際の走馬灯か。再生。物語はフィナーレへ。全力で臨む楽団の中で、チェロの熱演が光る。虹の果てには?
(穏やかではあったけど、平和ではなかった。音の重ね合い、原曲ではリンレンの掛け合いだったのが胸を打つ。そして終局、大団円のハッピーエンドって感じがなく、浮かんだフレーズが「虹の果て」だったけど、最後の歌詞「光の底に、眠れ」が全てでした。)
後半
Afterglow
休憩を挟んでの後半1曲目。小編成コーナーあるかな?と待っていたら全員登場&2階にも人影が!パイプオルガン キタ━━━━(゚∀゚)━━━━!!
音楽鑑賞から逸れるようで恐縮だが、ことこの曲は視覚的な楽しみが多かった。ホール正面にそびえる巨大なメカが奏者に操られ、音を響かせる様はロマンの塊。かっけぇ。パイプが全部で何本あるとかいった話はあちこちの記事で読んだことがあったけど、いざ実物を目前にすると、スペック語りをするのがナンセンスに思えた。
そして視覚的な楽しみはオーケストラも。コンマスが見事なソロを披露するCメロが終わろうかという瞬間、一斉にスッと楽器を構える楽団員たち。来るぞ!と思うやいなや、圧巻の大サビ大合奏がはじまった。曲そのものの緩急とも相まってゾクゾクした。かっけぇ。
Just Be Friends ~ ダブルラリアット ~ ワールズエンド・ダンスホール
続いてルカさんメドレー。ルカさん15周年のエンジンかかってきた感。JBFとダブルラリアットは、ミクシンフォニー18‐19のルカさん10周年メドレーでも演奏されたよね。よみがえる懐かしさと苦い思い出。
JBF冒頭のピュ~~~音に、電子楽器じゃなくてもあんな音出るんや⁉️ってビビらされつつスタート。これまでの初演奏曲とは違って、過去の公演やCDで聴きこんだ3曲だったため、楽団による違いを聴き分けてみよう!と意気込んでみたけど無理でした。小難しく考えるのをやめるまで、音を楽しむより分析するような聴き方になってしまったのが悔やまれる……
このメドレーで一番ブッ刺さったのはパーカッション。ワールズエンド・ダンスホール2番Aメロのパァンがバチクソかっこいい。CDが出たら(ry
他にも回して鳴らすカラカラ音とか、トライアングルでビートを刻むところとか、手をかえ品をかえ魅力満点でした。
on the rocks
後半5曲目にして年長組!今日一番のおしゃ曲。
直前のワールズエンド・ダンスホールが迫力だとすれば、on the rocksは技巧よね。金管楽器が本領を発揮し、それを支えるパーカッションやコントラバスのベースが名脇役を務める。VOCAJAZZの名曲はフルオーケストラでも強かった。
せっかくのサントリーホール公演、休憩時間にドリンクコーナーで喉元を灼いておくのも良かったかも。
ジターバグ
後半6曲目、ずっとMEIKOさんのターン!って言いたいくらいの興奮。個人的にセトリ全体で1,2を争う好編曲だった。
ぴょんぴょん栗田さん。この日はじめて指揮者が跳ねた。それくらい熱が入っているのか、跳ばなきゃ振れないくらい難しいのか。何にせよオーケストラは呼応してスウィングする。
全体のレベルが高く、原曲のおしゃれさもカッコよさも十二分である中、ひときわ輝いていたのはトロンボーン。のびのびと自由に響くソロは必聴。CDが(ry
また先のon the rocksに続いて、コントラバスがいぶし銀の活躍をみせた。低音最高。パーカッションに起用されたタンバリンも良アクセント。
カンタレラ ~ サンドリヨン
後半7,8曲目。ミクシンフォニーでパイプオルガンといえばこの2曲、みたいなところあるよね。何度聴いても感動できる。
ここまでの感想で「静と動」と何度も書いてきたけど、この曲は無と動。
パイプオルガンが空間を震わせはじめる瞬間の妙。おどろおどろしくもある響きが、ダーティーな空気を醸し出す。その暗がりの中にあればこそ、ピアノの音の粒の綺麗さが、際立って聴こえてくる。悪役にも一抹の良心があるのだろうか。原曲のハモリも見事表現されていて、完成度の高さに舌を巻いた。
ヴィーナス
後半ラストは、待ちに待ったルカさん15周年オリジナル曲。ヴィーナスは、「ルカさんから生まれた、ルカさんを歌う曲を、ルカさんが歌っている」楽曲である。※
公演日の時点ではshort版のみが公開されていたため、オーケストラアレンジのインスト曲として初めてフル版を聴くことになったのだが、正直に言えば期待と不安が半々だった。だって歌詞がないんだもの。
言語で表現できることが、ボカロをボカロたらしめる重要な要素だと私は思っている。主体としてのルカさんが消え、客体としてのルカさんを非言語化されたとき、私はどこまで理解できるだろうか?どこまで楽しめるだろうか?
——と鑑賞前に考えていた不安に関しては杞憂だった。
ナナホシ管弦楽団さんが精製し、辻さんが置換し、栗田さんと新日本フィルが表現した「巡音ルカ」は純度100%。高度に抽象化されているようでいて、聴けばルカさんの根源から生まれた音だと分かった。これを私の語彙で無理に喩えると、ママではない、母だ。みたいな怪文になってしまうのでご容赦されたい。CD(ry
フルオーケストラによるヴィーナスは、short版でも感じていたカッコよさや壮大さに輪をかけて、確固たる芯の強さを感じる曲になっていた。弦楽器、木管楽器、金管楽器はもちろん、パイプオルガンといった編入楽器が、それぞれの音色で主旋律を奏でる様は、まさに美しきルカさん七色の歌声。
それでいて迫力で押してくる感じはなく、聴き疲れない心地よさがあったのだから不思議だ。演奏の緩急はもとより、日向に陰に打楽器が活躍するおかげだろうか。
時に厳しく、時に優しく、慈愛をもって奏でられたヴィーナス。最後はパイプオルガンのソロから一気に盛り上がり、楽団の総力でフィナーレを飾って優勝。ブラボー!
※「ルカさんから生まれた、ルカさんを歌う曲を、ルカさんが歌っている」の補足説明です。適宜読み飛ばしてください。
公式パンフレットのインタビュー記事にて、ナナホシ管弦楽団さんが楽曲ヴィーナス制作を振り返って、次のように仰っていた。
ナナホシ管弦楽団さんの言う『懐の広さ、母性のような感覚』とは、おそらく「海」のイメージであろう。これは事前に公開されたshort版に、海を思わせる歌詞や効果音が含まれていることから推察される。
また、愛と美の女神ヴィーナス(ギリシア神話のアプロディーテー)は、海の泡で生まれ成長したらしい。
これを踏まえれば、楽曲ヴィーナスを生んだ「海」がルカさんであることは論を待たない。『巡音ルカという存在から感じるもの、彼女を象徴するかのような曲』
原曲のボーカルはルカさんである。
アンコール
抜錨
昼公演アンコール1曲目。過去に演奏された曲とはいえ、昼夜入れ替えのアンコール枠にするには惜しすぎる……
酸いも甘いも噛み分けた女性が踏ん切りをつけて前に進もうとする心情を、言葉巧みに歌う原曲のイメージに反して、私が受けた印象は、母なる星からの抜錨。安寧を離れ、荒波はおろか壮大なフロンティアへ漕ぎ出していく勇ましさ。サビの迫力はもちろんなんだけど、その直前、歌詞でいう「抜錨」とか「熱病」の2音にたぎる決意に震えた。
直前のヴィーナスにむちゃくちゃ引っ張られた感想になったのは自覚しているけど、セトリの流れから影響を受けるのもきっと鑑賞体験の一つ(自己正当化)。
それがあなたの幸せとしても
夜公演アンコール1曲目。入れ替え枠に名曲が多い(血涙)
昼の抜錨がヴィーナスの懐を離れて旅立つのとは対照的に、こちらは優しさと慈愛に抱かれて海をたゆたう感じがした。浮き輪のような安心感。今年のミクシンフォニーは激しく訴える演奏の曲が多かったぶん、一段と優しさが沁みたよね。
ACUTE
昼・夜公演共通のアンコール2曲目。調べてみたら2009年の曲だったので15周年で選曲されたのかな。アンコール曲はパンフレットに記載されていなかったけど、不意打ちでACUTE演る破壊力よ。全く予想してませんでした。
不意打ちのインパクトに加え、昼と夜どちらの1曲目に続いて聴いたかで印象が変わるだろうこの曲。私は昼の抜錨に続く形が初聴だったので、原曲に増してラジカルで泥沼さたっぷりの3人が目に浮かびました()
ここで大変恐れながら、この頃には情緒ぐっちゃぐちゃで聴いていたので、演奏の細部が記憶から抜け落ちていて、これ以上感想らしい感想が書けません……
ここまで読んでくださったミクシンフォニーのファン諸兄姉で、(ACUTEに限らず)感想を書いていただけると、私が泣いて喜んで拝読しますので何卒。
ハジメテノオト
昼公演アンコール3曲目。確定演出の曲フリ「初めての音は なんでしたか?」
会場のみんなで合唱したい衝動に駆られた。もちろんダメだけど。
パイプオルガンのソロは教会音楽を思わせる綺麗さ。昼はアンコール1,2曲目が激しかったから、なおのこと音色が沁み入った。
「ハジメテノオトのまま…」を一音ずつ金管楽器が吹き上げるのも、まっすぐなミクさんを感じられて好き。
メルト
夜公演アンコール3曲目。藤田さんの曲フリ「想いよ届け 君に」を聞いた瞬間はメルトが出てこなくて、SPiCaか?って思ってました……
これは完全に好みとか思想の話なんですが、ミクシンフォニーのメルトは、東京フィルの積み重ねで進化を続け、パイプオルガンを迎えてのサントリーホール版をもって「完成された」ものと考えています(16年アンコール版、17年メドレー版、20年の5th Anniversary版とサントリーホール版)。
それゆえ、この先(東京フィル含め)どの楽団がメルトを演奏したとしても、サントリーホール版の初聴時を超えて感動することはない気がしています。
でも今回聴いたメルトが、過去のメルトより劣っていたとは思いませんでした(そもそも比べるものでもない)。
今年はじめてサントリーホールのミクシンフォニーに来場して、はじめてメルトを聴いた人にとって、これが人生最良のメルトの1つになっていると良いな、と思います。
余談
司会の藤田咲さんが、昼公演サイハテ/テオ後の曲紹介とかで台本をちょくちょく噛んでたのが可愛らしかった。中盤以降はミスなく、ご自身の言葉で会場を盛り上げるのが上手かった。「ルカちゃん、15周年おめでとう!」前の呼びかけとか。さすがプロ。
第1バイオリン2列2行(2プルト裏?)の奏者さん、昼公演前半は固そうな雰囲気だったけど、休憩で後ろの奏者さんと談笑されたようで、後半は笑点の大喜利で落語家がでてくるくらいの柔らかい登場になったのが良かった。
弦を指ではじく奏法が、コントラバスの専売特許じゃないことをカンタレラ ~ サンドリヨンで知りました。
指揮栗田さんの靴裏、消音に貼られたフェルトが赤でおしゃれ。
特にブッ刺さって唸らされた楽曲の編曲者を調べてみたところ、なんと全曲が辻峰拓さんのお仕事だった。図らずも推し編曲者が見つかったセレンディピティ。
Rellaさんによるキービジュアルと、オマージュ元の「ヴィーナスの誕生」(ボッティチェッリ画)を比べると、中央に佇むヴィーナス(ルカさん)の重心バランスが安定化している。
ルカさんを透明感ある美しさや、可愛さ、あどけなさで魅せながらも、きちんと自立させているのだ。
もしかすると芯の通ったこの立ち姿が、楽曲ヴィーナスに感じられる芯の強さの呼び水になったのでは?……と妄想したり。
ワーナーミュージック・ジャパンさんCD出してくださいお願いします!