寒卵割つてもわつても祖母の貌     玉田憲子

卵を割ったら条件反射のように祖母の顔が思い浮かぶ。寒卵にまつわる祖母の記憶が蘇ってくるのだ。寒さの厳しい朝に、風邪をひかぬよう卵を割って食べさせてくれた祖母だった。湯気の立つ温かいご飯に割り入れてくれたときの、深い皴の刻まれた顔がありありと思い出される。質素でありながら豊かな時間が流れ、そのときの祖母の愛情が、長い歳月を経てもしみじみと伝わってくる。心の隙間を埋めてくれるありがたい存在であった。