人のみな能面に似て寒の月 神吉拓郎

喜怒哀楽の情が躍動するとき、臆することなく表情に表れる。内面と外面が一致する。歌舞伎は誇張して演じられる。それに比して能は、内面を悟られぬようひた隠しに隠し、静止画像のような表情や動きになる。その内面は冴え冴えとして、徹頭徹尾張り巡らされた神経が五感を刺激して鋭敏である。つるりとして甘い能面の裏は、生き生きと研ぎ澄まされている。凍りつく寒気を透徹する月の光が煌々と照り輝き、電光石火脳幹を貫く。