【短編】椎の木の下には
タイムカプセルを埋めようと言ってくれたのはタカシだったかナオだったか。俺、タカシ、ナオ、ユウイチ、アイカの五人は小学校の卒業式の日、ユウイチのじいちゃんが持ってる山にある大きな椎の木の根元にタイムカプセルを埋めた。
タイムカプセルのお題は「自分が大切にしていた物」。何を埋めたかは出てきた時のお楽しみにするため、ほかの人が埋めるときはそっぽを向くというルールも作った。全員がカプセルを埋めたら、最後に椎の木の幹に目印である赤い札のようなものを釘で打ち付けた。
「10年後の今日、もう一度あの山に集まってタイムカプセルを開けよう」
俺たちはそれを合言葉にし、その日の帰路についた。
10年たった今になっては、何を埋めたのかはもう覚えていない。でも開ける日の約束だけは皆覚えていた。しかし、俺はその日どうしても外せない仕事があったため、仕事帰りに遅れて合流することにした。
俺はユウイチに「今会社の最寄から電車乗った。一時間ぐらいで着く」と連絡をいれ、電車で山の近くまで向っていた。
しばらくしてユウイチからメッセージが来た。
「おい、リョウヘイ」
「早く読んでくれ」
「ヤバい」
いつも落ち着いているはずのユウイチがいつになく焦っている。びっくりした俺は、電車内にほかに誰もいないのをいいことに、そのまま通話を繋ぐことにした。
「おいユウイチ、大丈夫か!?」
「ヤバいリョウヘイ…マズいことになった…。」
後ろからはナオがすすり泣く声とそれをなだめるアイカ、タカシの声が聞こえる。
「どうしたんだよ!?説明してくれよ!」
「ほ、骨が…骨が…」
「なんだよ?誰か怪我でもしたのか?」
「…地面から…人の骨が出てきた…。」
「え?」
「どうしようリョウヘイ!俺達捕まっちゃうのかな?」
完全にユウイチはパニックになっている。
「待て、一旦落ち着けユウイチ! 落ち着くんだ!」
その時だ。誰かがユウイチから電話をもぎ取るように奪った。
「おい、リョウヘイ聞こえるか? 俺だ。タカシだ。人骨が出たってのはマジだ。頭蓋骨とアバラ、あと多分大腿骨が出てきた。」
「おお、タカシ。お前は大丈夫なのか?」
「そんなことより、だ。リョウヘイ。タイムカプセル埋めたあの時のこと覚えてるか?」
「え?」
「あの時、タイムカプセルの中身を秘密にするために、一人が埋めるときに残りの全員が後ろを向く、ってルール作ったよな?」
「ああ。」
「ってことは、もし仮にあの時誰かが人骨を埋めてたとしても分からないってわけだ。」
「……え?」
「つまるところ、この五人の中に人骨を埋めたやつがいるかもしれない。」
サッと顔から血の気が引くのを感じた。電話で話しているタカシの向こうで、他の三人がパニックになっているのがわかる。
俺は思わず叫んだ。
「おい、タカシ!冗談でも言っていいことと悪いことがあるぞ!」
しかし、タカシは冷静に続けた。
「でも実際タイムカプセルを埋めた位置から骨が出てるんだ…。こんなところにモノを埋めたのは俺らくらいだろう。
そして、この骨が出てくるまでに土の中から出てきたものは何もなかった。ってことはあの日最後にタイムカプセルを埋めたやつが犯人、と考えて間違いないよな?」
それまでパニックに陥っていた全員がシーンと静まり返った。
全員、その日タイムカプセルを埋めた順番を覚えていたのだ。
あの日、最後にカプセルを埋めたのは…ナオだった。
「ナオ…どうしてこんなことを…?」
タカシが諭すようにそう言ったのに対して、ナオは半狂乱で叫ぶ。
「違う!違う!私じゃない!私やってない!」
そんな中、ユウイチがナオに優しく話しかけるのが聞こえた。
「落ち着けナオ、俺はあの日のことを鮮明に覚えてる。お前がカプセルを埋めるとき、目印を付けたこの椎の木にもたれかかって向こうの景色を見ていたんだ…
…あれ…ここってこんな景色だったっけ…確か鉄塔はもう少し遠くに見えたはず…
…あれ…てかこの椎の木、目印の木じゃなくない?あの赤いの目印じゃなくない?」
「え、場所間違えてたの?」
「あ、あの木だよ!見て!上の方!目印に赤い印釘で打ってある!」
「あー10年も経ったから木が育って目印の位置が変わってたのか!」
「ごめん皆!俺が場所間違えてただけだった。」
「ちょっともーユウイチしっかりしてよ!!びっくりしたじゃん!」
「ごめんごめん!」
「悪い!ユウイチが場所間違えてたみたいだ!リョウヘイ!心配かけたな!」
「あ!タイムカプセルでてきたよー!」
「お、今度こそナオのやつだ!名前も書いてある!」
どうやら四人はタイムカプセルを埋めた場所を間違えていたらしい。
殺人犯捜しの雰囲気は一転し、四人は非常に和やかにタイムカプセルの発掘を始めている。気づけば俺も山への最寄り駅までたどり着いていた。
そんな中、俺は思った。