朗読テキストを考える 番外編
朗読教室でご紹介しているミキハウス 宮沢賢治の絵本。
賢治さんの童話一話につき一冊、すべて画家を変えての贅沢なシリーズです。
その中の『銀河鉄道の夜』は、金井一郎さんの“翳り絵(かげりえ)”という手法で作られたもので、2枚のラシャ紙にそれぞれ針で穴を開け、重ね合わせて後ろから光を当てたもの。光の強弱や精密な点から光の粒がゆらゆら漂っているように見えてきます。ページの一枚一枚がとても美しく、けれども私は実際の制作物をこれまで拝見したことはありませんでした。
先週末、吉祥寺美術館で開催されている「金井一郎 陰り絵」展へ、2日間行ってきました。光を当てて眺める作品がどのように展示されているのか知りたかったのと、この絵本を編集されている松田素子さん(編集者・作家)と、賢治さんの弟清六さんのお孫さん宮沢和樹さんの講演会が、2日に渡って行われたからです。
松田素子さんの回では、金井さんが実際に陰り絵を制作されている映像を見せていただきました。暗闇で、ごく普通の木綿針で下書きなしにただただ穴を開けてゆく作業は修行や祈りの姿にも見えました。
また、絵本のいくつかは解説ページに
“「誰」のルビを「たれ」としているのは、宮沢賢治の直筆原稿が一貫して「たれ」なので、賢治語法の特徴的なものとして生かしましたが、通例通り「だれ」と呼んでも賢治さんはとくに怒らないでしょう。”
とあり、私はこの解説が大好きなのですが、この文を書かれたのが天沢退二郎先生だということも教えていただきました。
この解説が大好きなのは、つい「正解」を探しがちな自分の思考を、ふっと緩めてくれるからです。朗読教室で先生をしていると、そっちではないと思っていてもつい「正しい」ことを探してしまおうとし、わかっていることはそれでよいのだけれども、わからないことまで「正しい」を探してしまうと、世界が小さく、自分の想像を超えたことを全て否定してしまうのです。
学生の頃、芸術学科に進みたいと思ったけれども、絵も音楽もやらない私が芸術を学ぶことができるのかなと迷った時、手にしたのが天沢退二郎先生の「セップ」という詩でした。詩の中では、主人公がどたばたいろんなことがあった末、本来の目的とは違う結果になって、でも「僕らはただもうにこにこするばかりだった」で終わる詩で、なんだかふっと楽になって、「これでいいんだと思う。こういうのだったらわかるし、自信を持って素敵だと思う」と力をもらえたのでした。
翌日の宮沢和樹さんの講演会も、言葉の端々から「自由であること、解(ほど)けていること」を感じました。賢治さんの世界は奥が深く、背景を知れば知るほど面白く、けれどもそれをただ追求するのではなくて、それを心に留めながら、賢治さんの言葉で遊んでいく、自分の人生を楽しいものにしていく。そうして、さらに一段深くいろいろなことに気づいていく。
そういうことが、朗読教室でもお伝えしていけたらいいなと思います。
展覧会は11月までですが、のんびりしてるとあっという間に終わっちゃいますのでぜひ積極的に足をお運びくださいね。
最後に、この展覧会のことを教えていただいたK様、本当にありがとうございました。
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金井一郎 翳り絵展 -「銀河鉄道の夜」を巡る旅-
会期 2024年9月21日(土曜)~11月4日(月曜・振休)
会場 武蔵野市吉祥寺美術館
https://www.musashino.or.jp/museum/1002006/1003349/1007164.html ———————————————————
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