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『化鳥(けちょう)』(泉鏡花)

 

けれども木だの、草だのよりも、人間が立ち優った、立派なものであるということは、いかな、あなたにでも分りましょう、まずそれを基礎にして、お談話をしようからって、聞きました。
 分らない、私そうは思わなかった。
「あのウ母様(だって、先生、先生より花の方がうつくしゅうございます)ッてそう謂つたの。僕、ほんとうにそう思ったの、お庭にね、ちょうど菊の花の咲いてるのが見えたから。」
(本文より)

子供が語る、子供の視界から見えた物語・・・といえば中勘助の『銀の匙』を思い出しますが、大きく違う点が一つあります。それは、この子供がよくしゃべること。お母様(おっかさん)に、あーだったこーだったと実際に見たお話も、空想で練り上げたお話もいっしょくたに語り上げ、お母様は縫い物の手は止めずに「はいはい」と返事をします。そういえば自分の娘がまだ小さかった時、同じようによくしゃべりました、本当にあった出来事も空想もごちゃまぜにして。そしてその境界線が、いつもよくわからず何度も聞き直したりしていました(今思えば大変野暮なことだったのだと思います)。

「あれ、だってもね、そんなこと人の前でいうのではありません。お前と、母様のほかには、こんないいこと知ってるものはないのだから。分らない人にそんなこというと、怒られますよ。(中略)それでも先生が恐い顔をしておいでなら、そんなものは見ていないで、今お前がいった、そのうつくしい菊の花を見ていたら可いでしょう」

先生に「わからない」とはっきり物申す子に、母もしっかり答えます。現実と空想をすべて包み込んでくれて、なおかつ現実との接点を繋いでくれようとする母の答えには、少し切なくなるものがあります。

『化鳥』は、泉鏡花初の口語体での小説なのだそうです。有名な冒頭文、
愉快(おもしろ)いな、愉快いな、お天気が悪くって外へ出て遊べなくっても可いや、笠を着て、蓑を着て、雨の降るなかをびしょびしょ濡れながら、橋の上を渡って行くのは猪だー
歌うようなリズムで全編を疾走していく、その小気味良さを口に出して読んでみたら、一気に泉鏡花の映像の中へ入り込めそうです。

3月のオンライン文学コースは、泉鏡花の『化鳥』です。
日頃は賢治コースの方のちょっと寄り道も、お待ちしております。
3月のスケジュール

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