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『女生徒』(太宰治)

あさ、眼をさますときの気持は、面白い。かくれんぼのとき、押入れの真っ暗い中に、じっと、しゃがんで隠れていて、突然、でこちゃんに、がらっと襖をあけられ、日の光がどっと来て、でこちゃんに、「見つけた!」と大声で言われて、まぶしさ、それから、へんな間の悪さ、それから、胸がどきどきして、着物のまえを合せたりして、ちょっと、てれくさく、押入れから出て来て、急にむかむか腹立たしく、あの感じ、いや、ちがう、あの感じでもない、なんだか、もっとやりきれない。 (本文より)

太宰治の作品を朗読教室で取り上げるのは2回目です。前回は3年前の2021年秋で、テキストは『お伽草紙』でした。太宰治が戦時中に防空壕で子供たちに読んで聞かせた、だけでなく創作も加えて語ったもので、「ムカシ ムカシノオ話ヨ」で始まる文体のリズムは今回の『女生徒』の1人語りとどこか似ている気がします。

人は起きている間、何を考えているのだろう?

というのを不思議に思ってまわりの人に聞いてみたことがあります。ほとんどのひとは「覚えていない」か、あるいは「目の前のことを考えていると思う」で、中には「言葉になってないからよくわからない(!)」という人も。浮かんでは消えていってしまうことやそもそも言語化されていないなんて想像もしていませんでした。それくらい、人の頭の中は未発見の領域です。それなのに、とある女生徒の1日が朝起きてから夜眠るまでの間に考えていることを、文章で読めるのがこの小説です。(なんだかすごいと思います)

朝布団から出て、忙しいお母さんがいて、ご飯を食べて学校へ。勉強をして、時々自分が嫌になって泣きたくなって、学校が終わり美容院へ。日常を営む傍らで、いろんな感情が湧き起こっては消え、落ち込んでは朗らかになり、そんなとりとめのない、なんてことのない一日。
例えば旅に出たり、冠婚葬祭があったりして何か特別な一日だったとしても、頭の中はきっといろんなことが浮かんでは消えとたゆたう時間。特別なことは本当は何もないと思う、自分の頭の中、心の中。

『女生徒』を読みながら、うつろっていく心の動きを追って、毎日はそれでいいと思っていただけたら。そして女生徒の口調を朗読するのを少しでも面白く感じていただけたら嬉しいです。

10月のOnlineブンガクコースは『女生徒』(太宰治)です。
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ご予約お待ちしております。

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