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『若菜集』より「春の歌」(島崎藤村)

たれかおもはん鶯の
涙もこほる冬の日に
若き命は春の夜の
花にうつろふ夢の間と
あゝよしさらば美酒(うまざけ)に
うたひあかさん春の夜を

詩集『若菜集』は島崎藤村の最初の詩集です。明治29年頃、24歳だった東村は仙台へ行き、古い静かな都会で過ごしながら宿舎で書いた詩稿を毎月東京へ送り、雑誌に掲載していたものを一冊に集めて翌年に出版しました。東北の遅い春を迎えながら書かれたという状況を想像したり、詩集と言いながら七五調で書かれた文体が軽やかで甘く、声にするのがただただ楽しく、桜に翻弄されるこの季節にぜひとも読んでみたいと思いました。

島崎藤村は私が卒業した大学のOBで、一期生にあたります。『桜の実の熟する時』という小説には、当時の学校の図書館(なんと2024年現在もその建物は存在します!)や高輪台の坂が描かれていて親しみを覚えます。作家本人のスキャンダルや『破戒』の重々しさも気になりますが、それらはこの『若菜集』のずっと後になります。

後に出版された抄本の前書きでは、こんなことを書いています。
思えば私が『若菜集』を出したのは、今から31年も前にあたる。この古い落ち葉のような詩が今日まで読まれて来たということにすら、私には意外である。頭髪既に白い私がこれを編むのは、自分の青春自体を編むようなものである。この抄本をつくるにつけても、今昔の感が深い。
昭和2年5月  麻布板倉にて      著者

31年どころか130年近い時が経っても尚読まれていて、その頃の感性となんら変わりなく人々は春を迎えています。

春はきぬ
 春はきぬ
初音(はつね)やさしきうぐいすよ
こぞに別離(わかれ)を告げよかし

七五調で書かれ、別れの季節でもある「春」という言葉がたくさん散りばめられたこれらの詩に、人は心に思い当たるところを得ます。

2024年4月のブンガクコース(Online)は、島崎藤村の「春」(『若菜集』より)です。個人レッスン(豊洲教室)でもご受講いただけます。

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Onlineスケジュール http://utukusiki.com/202404-online/

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