『狼森と笊森、盗森(オイノもりとざるもり、ぬすともり』(宮沢賢治)
そこで四人の男たちは、てんでにすきな方へ向いて、声を揃へて叫びました
「こゝへ畑起してもいゝかあ。」
「いゝぞお。」森が一斉にこたへました。
みんなは又叫びました。
「こゝに家建てゝもいゝかあ。」
「ようし。」森は一ぺんにこたへました。
みんなはまた声をそろへてたづねました。
「こゝで火たいてもいいかあ。」
「いゝぞお。」森は一ぺんにこたへました。
みんなはまた叫びました。
「すこし木きい貰もらつてもいゝかあ。」
「ようし。」森は一斉にこたへました。
小岩井農場の北方、黒い松の森が並ぶ山に4人の男が入植します。入植にあたって、上述の通り森にお伺いをたてます。自然に礼儀をつくし、人間の方が「お邪魔する」という立場であることが明確で、かつ森と「対話」ができていた時代。そしてこれらの森がどうして「狼森、笊森、盗森」という奇妙な名前がついたのかを、いちばん初めからしっているという巨大な巌(いわ)が、語り聞かせる物語です。
この序章だけでもとても魅力的ですが、入植後にちょっとした不思議な出来事が起こります。3つの森が、それぞれ小さないたずらをし、子供や農具や食料が少しづつなくなり、人間達は森の奥深くへ探しに出かけます。なくしものはほどなく見つかりますが、その都度人と森が会話をし、疑いをかけ疑いをはらし、あやまったりゆるしたり、そうやって人と森のつきあいが強く濃くなっていきます。
この物語を読み終えて、自分が地方へ旅した際などに森へ入る時のことを思い出すと、森への少し恐怖を思い出します。夏の緑が青々として虫だらけの森も、冬の寒い薄暗い森も、入ったらそのあと「どうなるかわからない」から、頭の片隅に恐怖を意識しながら森に居続けることになります。そんな時、「森と対話をしよう」などという気が起こったことはありません。でも、こんなふうに対話をするという手段があると知っていたなら、森を有機物として意識することができたなら、頭の片隅の恐怖が違う形へ(おそらく好奇心へ)変わっていたのかもしれない、と思いました。
この童話は、童話集『注文の多い料理店』に収録されているもので、掲載順も『どんぐりと山猫』に続く2番目と早いものです。森からの呼びかけによりお話が始まる物語が多く収録されているのだということも、この童話を読んで気づきました。(それが何を意味するのかは、童話集の「序」に書かれているので今更言うまでもないことかもしれません)
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