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『東洋の第一日目』(小泉八雲)

*2022年5月朗読教室テキスト②アドバンスコース
*著者 小泉八雲

「日本の第一印象は、できるだけ早く書き残しておきなさい」。来日後まもなくお会いすることのできたある親切な英国人の教授は、私にこう助言してくれた。
「第一印象というのは、しだいに消えてゆくものです。そしていったん薄れてしまうと、もう戻ってきません。この国で、どんな不思議な感動をこれから受けようとも、初めての印象ほど、心が動かされることはないでしょう」

ー本文「東洋の第一日目」(『新編 日本の面影』所収)よりー

* * *
渦中にあって、心が揺れているのを体いっぱい感じていたのに、今はもうあんなに生々しくは思い出せない、上に書かれている通り消えてしまったということがあります。

一時期、暗い湖の底を漂っていたかのような期間があって、普段とは違う体の感覚でもって世界を感じていました。自分のいる場所も風景もそれまでとまったく変わらないのに、自分の五感がその感度を高めて、水も空気も匂いもそれまでの百倍くらいの勢いで身に降りかかってくるかのように感じ、そしてそれらを受け止めることを心地よく思いながら、ゆっくりと浮上していきました。

しばらくして、心身ともに元気になると、「あれ?」。
 
風の匂いも、空気の重さも、プールに潜って感じる水圧の心地よさも、光の圧力も、空の青みも、それまで心地よく感じていたことがまったくピンとこなくなったのです。確かにその感覚はあったはずなのに、そしてそれを友人に伝えたりしていたので「そこに在った」ことは間違いないのに、あの鋭い感覚を再現することができないのです。その時に、「あぁ、言葉にしておけばよかったなぁ」と、この親切な英国人の言う通りのことを私も感じたのでした。

小泉八雲も後から振り返って、日本の第一印象が「香水のごとく移ろいやす」いもので、自分は果たして自分の受け取った「感動を言葉に移」すことができるだろうかと疑問を抱いています。けれどもその言葉のすぐ後に始まる日本の描写では、明治時代の市井の風景-小さな木造家屋の描写や幟に書かれた日本語の美しさ、着物姿の小柄な売り子・・などなどーを、くっきりとした言葉で立ち上げていき、その周辺には、往来で翻る濃紺ののれんや人々の法被、遠景に雪を頂く富士に彩られた青みを帯びた透明感を漂わせて、読み手に瑞々しく伝わってきます。

まるで、色のついた8ミリフィルムを眺めているよう・・・。本から溢れ出る日本の魅力や色合いに、心が躍ります。自分はそんな境地にはなかなかたどり着けないなと思うのですが、教室ではこれらの活き活きとした言葉をなぞりながら、明治の横浜を味わえたらと思います。

5月のアドバンスコースは、小泉八雲の『東洋の第一日目』です。
お申し込みをお待ちしております。
5月のスケジュール

*上の序文を読んでピンと来られた方は、下記にて全文を読むことができます。
底本:MUJIBOOKS『人と物13  小泉八雲』無印良品

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