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小説VS漫画 リレー作品:第8話 癌口(小説)

 どことなくペンギンに似ているようにも見えるが、ペンギンとは程遠いともいえる。ペンギンはあんなに醜悪ではない。頼りなく見える細長い足を素早く器用に動かして、上半身をグネグネと揺らしながら醜悪ペンギンは逃げていく。体が揺れるたびにクチバシがかっぱかっぱと開き、その隙間から唾液が絡まったホイッスルのような濁った甲高い鳴き声を発している。その様子は壊れた幼児用の玩具のようであり、あやしい宗教の人形のようでもある。
 デカい肉の山が見えた。文字通り山ほどの大きさの肉塊だ。中腹から止めどなく流れる赤黒い液体がふもとまで落ちて川のようになっている。見ると周りには、毛むくじゃらのボールが裂けた口から舌を出して液体を舐めすくっていた。
「あれはペットだね」
 後ろを付いてきていた男が俺と同じようにボールを見ながら言った。
「君、あれに見覚えがない?いやきっとあるはずだよね?」
 殺人の記憶が蘇る。
「あの時だ。あの時、目覚めた俺の周りにいた……」
 舐められた感触が蘇る。
「あは! じゃあその時だ! その時に盗まれたんだ!」
 恐怖……ではない。ハット男の言葉を聞いて湧き上がったのは単純な怒りであった。あのボールが無防備だった俺の脳味噌を盗んだのだと思うと、目の前の醜悪ペンギンを放って今すぐボールを蹴りあげに行きたくなる。しかしハット男が言葉を続ける。
「あれを殺しても意味ないよ。怨むなら目の前の逃げる主人だね。あいつらは脳味噌を収集して色々と楽しい事をするのが好きなんだけど、自分達では盗めないからペットに盗ませてるんだ」
 視線を目の前を逃げ続ける醜悪ペンギンに戻す。どいつが悪いだとかはもう煮え立った足りない脳味噌ではどうでもよい。今はとにかく殺したい。
「殺してやる」
「理性が足りてないねぇ」


 醜悪ペンギンが逃げていく先には空洞があった。山のような肉塊には抉ったような穴があいていて、その中に逃げていく。奥からは生暖かい空気が流れてきている。
 さすがに疲れてきて入口で一度足を止めた。
「はぁ、この先は?」
「あいつらの巣だよ。きっと君の脳味噌も丁寧に保存されてると思うけど、運が悪ければ形をとどめてないね」
「運が悪ければってどうなってるというんだ?」
「さあ? 用途は様々だね。僕が知っているものだとアレかな?」
 そういってハット男が指したのは、コロコロと転がっているボールの化け物だった。
「ほら、主人の簡単な命令を理解する脳味噌は必要だろう」
 ボールはニタァった笑ったように口を開いた。俺は咄嗟に身構えてしまう。
「大丈夫、君はもう盗まれたんだからこれ以上は盗られないよ。一部例外を除いてだけど、もし全部必要なら一回目で盗られてたさ」
 ハット男の言う通りボールはポンポンと跳ねるように遠くへ行ってしまった。
「脳を盗んであんなのを造る理由はなんだ?」
「それはあいつらが科学者だからね。造ること自体が楽しいんだよ。それ以上の理由はなかったんだけどね」
「なかった?」
「今は何か理由がある。何となく予想はつくけどまだわかんない」
「理由があるって何で分かるんだ?」
「……さあね」
 そう言ってハット男はスタスタべちゃべちゃと空洞の奥へ歩き始めた。
「さあ、君の脳味噌を取り戻しにいこう!」
 表情は分からないが、一瞬、ほんの一瞬だが、苛ついているように感じた。この世界もそうだが、この男も大概ナゾに満ちている。


 奥に進んでいくと徐々に生物じみた空間に機械のようなものが混じり始めた。足元もカツカツと音が響くようになり、単調な直線の多い空間になる。これも科学者という醜悪ペンギンの技術だろうか。耳を澄ますと電子的な音や、ファンのような風が流れる音もする。天井には豆電球を人の頭程度にした大きさの照明がついている。おかげで歩きやすい。
「へえーやっぱり少しずつ進化してるんだねえ」
「ここを知ってるのか?」
「知ってるけれども前とは少し違うね。だからといって道案内はできないよ。僕も全部知ってる訳じゃないし」
 その言葉に落胆しつつ脳味噌を探すために奥へ奥へと進んでいく。中は入り組んでいて細い廊下がいくつにもわかれ、左右には扉が並んでいる。しらみつぶしに全ての部屋を開けようと提案したが、一つ目の扉をまず開けようとして、開け方が分からず諦めた。扉はSFの洋画なんかで見る縦長の楕円形で、困ったことにボタンがいくつもついていた。横へスライドするのか上下に動くのかも分からない。試しにボタンを全部順に押してみたが反応はなかった。
「内側からロックしてると思うよ」
「ということは中にあいつらがいるのか?」
「多分びっくりするくらいいるね」
 扉の奥を想像してちょっと鳥肌がたった。
 その時、突然廊下を照らしていた照明が音もなく全て消えた。前触れもなく訪れた暗闇に身体を固くする。だがそれも虚しく激しい衝撃が身体全体を襲い、意識そのものまで暗闇へと堕ちていった――。

―――
追記:PC壊れて遅くなっちゃいました申し訳ねえです
   スマホと併用しながらようやく書きました。仕事場で書いて消えたりして何回も心折れましたわ……
背景なんとかうまいことお願いします。

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