みこたんの火事

私が21歳の時、家が全焼した。
父が自殺しようとして火をつけたのだ。
でも怖くなったみたいで逃げ出したので、ひどい火傷を負ったけど命は助かった。

私は大学で講義が終わった後、用事があって帰りが遅かったのだけど、自宅の最寄りの駅に着いたら近所の知り合いのおじさんが車で待っていた。

え?なに?!と思った。とにかく車に乗せられて、車の中で起こったことを聞いた。
ああ、ついに、やっぱり、と思った。数日前から、父親の目がなんか怪しい感じで、これは何か起こすんじゃないか…と直感的に感じていたのだ。

精神的ショックを与えないように自宅には向かわず、近くの親戚の家に運ばれた。
そこには母と姉がすでに避難していた。
姉は泣いた様子で、かなりショックを受けて気がおかしくなるんじゃないかという印象さえあった。

私は予感があったこともあり、不思議とあまりショックを受けなかった。涙も出なかった。

そこからさらに、少し離れた親戚の家に連れて行ってもらった。母の実家だ。
そしてそこで7ヶ月かな?お世話になって暮らした。

大学に通うのもかなり遠くなって、車の教習所も遠くなり、かなりきつかったのを覚えている。

実家の裏にある、小さなプレハブみたいな家で暮らした。私は汲み取り式トイレの横にある、じめじめとした3畳の部屋を独占することができた。姉はそんな汚らしい場所で過ごすことなど思いもよらないような人だから。

あとは、6畳の部屋と、小さなキッチンがあるだけだった。
お風呂が大変だった。実家のほうと、近くにあるいとこの家のお風呂を借りて順番に入った。
とても肩身が狭かった。

大学の教材や、洋服など、どうしたのかなぜか全く覚えていない。

放火はれっきとした犯罪なので、父は留置所?にいれられた。
母は暑い中、頻繁に裁判に通わなければならなかった。
駅へ向かう後ろ姿が私の脳裏に鮮明に刻まれている。

別れて欲しかった。もう限界だと思った。でも親戚の中に父を引き取ってくれる家もなく、仕方なくというか、なんとなく、新たに住み始めていた狭いマンションに父は帰ってきた。
そこから7年近くまた一緒に暮らしたのである。

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