【小石原焼】翁明窯元の魅力と、日々変化するうつわづくりについて。
2022年2月28日。
春のぽかぽか陽気となったこの日、福岡県東峰村にある『翁明窯元』さんを訪ねました。
今回は、私が感じた翁明窯元の魅力と、日々変化するうつわ作りについて。
昨年とは少し違う質感になったうつわ達をbefore after付きでご紹介しています。
『日本の棚田100選』に選ばれた東峰村へ
そこは福岡県と大分県の県境。
福岡県東峰村への道のりは、古くから受け継がれてきたであろう"石積みの棚田"がずらりと続き、まるで昔の世界にタイムスリップしたかのよう。
現在は2017年の豪雨被害による道路や山の補装工事中?なのか、視界に入るものは人工物が多めでした。本来は自然豊かで綺麗な土地なのでしょうね。(なので写真は撮ってなく。すいません。)
標高約500mの山里に約50件程の窯元があり、その土地で作られる焼き物は『小石原焼』と呼ばれています。
その中で最も心を奪われたのが翁明窯元さんでした。
訪れるのは今回で2回目。
伝統の良さを残しつつ、『ほっこり可愛い』エッセンスがプラスされたうつわ
1983年、鬼丸翁明さんによって開かれた翁明窯元。
現在は二代目の鬼丸尚幸さんも加わり、親子二代で作陶されています。
小石原焼というと、飛鉋(とびかんな)や刷毛目といった技法を用いて作られるうつわが多く、個人的には『渋さ』が魅力なのかなと思います。
しかし翁明窯元で作られる小石原焼の魅力は、ほっこりと心あたたまる『可愛さ』のエッセンスが入ったそのデザイン。
フェルトのようにふわっとした質感に見えるマットな釉薬や、コロンとしたシルエットのうつわ、ドット柄のうつわが数多く並んでいます。
『伝統的な技法』×『可愛さ』がなんともたまらないのです。
そんな翁明窯元さんのうつわの魅力に惹かれる人は多く、民陶祭ではお客様が入りきれないほどだとか。
また、スターバックスやピエトロなど、大手企業とのオリジナル商品制作もされているそう。
うつわ屋enでも翁明窯元さんのうつわをお取り扱いさせて頂いてますが、土モノが好きな方は必ずと言っていいほど翁明窯元さんをご存じで、その人気ぶりが伺えます。
開業前の当時の私はそんな事とはつゆ知らず。
自分の『好き』センサーに従い、ふら〜っと引き寄せられ、窯元を訪ねたことからお取り扱いが始まりました。
ほっこり癒されるギャラリー
木の温もりを感じる建物と、バランスよく配置された植物。訪れるだけで癒される空間です。
翁明窯元のギャラリーは尚幸さんの奥様が切り盛りされているのですが、『おっとり』という言葉がぴったりなお人柄で、いつも優しく出迎えてくださいます。
ロクロで成形されている物が多いですが、中にはタタラ作りのうつわもいくつかあり、こちらはたくさん作れないため店舗限定なのだそう。
工房を見せてもらった
今回、ギャラリーに隣接された工房を見せて頂きました。
こちらは成形、乾燥させた後に飛鉋や化粧土をかけるための作業場。
化粧土をつける工程を見せて頂きました。
お次は飛鉋↓
写真なので伝わりにくいですが、ロクロで回転させながらのうつわ一周の速さと言ったらまぁ一瞬で。
タイミングよくずらしていかなければ装飾がダブってしまいますし、力を入れすぎると目が飛んでしまう。
見るからに難しそう...。職人技に感服です。
ガス窯、電気窯、登り窯、いろいろあるけど...
翁明窯元さんにある窯はガス窯、電気窯、登り窯といろんな窯がある。
現在は主にガス窯を使われているそう。釉薬との相性が1番いいのだそうです。
以前登り窯でも焼いたことがあるが、釉薬の色が変になってしまったとのこと。同じ釉薬でも窯が変わるだけで、まったく違うものができるらしい。
窯によって熱の伝わり方が違うため、釉薬を変えたり、配置を変えたり、試行錯誤しないといけないのだとか。
陶芸家にとって窯を変えるということは『全て一からやり直し』に匹敵するほどなのだろうなと感じました。
長いことうつわを作っていらっしゃいますが、時には窯出しすると7割ほど割れてしまうこともあるそうで...。
ガス窯は空気の流れやその日の温度など外的要因に左右されやすく、『開けてみないとわからない』ワクワク感もある反面、時には失敗もある。
(完成直前のうつわが7割割れてしまうって、すごいメンタル削られそう...。)
おそらく割れないようにする方法はあるのでしょうが、"思い描いたうつわ"を形にするためには、そんな苦労と向き合う必要もあるのでしょうね。
翁明窯元さんのうつわは丈夫って本当?
うつわ屋enに来られたお客様から、『翁明窯元さんのうつわは全然割れないし、丈夫よ!』と聞いたことがある。
恐らく、何度か『あ!割れたかも!』と思う瞬間があったけど、割れずにホッとされたご経験があったのでしょう。
丈夫とか割れやすいとか、どんな風に決まるのか尚幸さんに教えてもらいました。
いろいろな要因はあるけれど、まずは厚みがあること。
小石原焼はその昔、分厚く重いうつわで『落としても割れない』というのが売り文句だったそう。現在の小石原焼は半分以下くらいの厚みになっているらしい。
私個人的には、厚みに関しては他の陶器とさほど変わりないように感じます。恐らく、"薄く作られた陶器に比べると"のお話なのかな?(数ミリ単位で強度が上がる可能性も捨てきれないけど。)
もう一つは、うつわは焼き締めるほど硬くなるが、締めすぎると少しの衝撃で欠けやすくなるので、適度に弾力を持たせるようにしているそう。
どんなうつわを作りたいかによって、選択する道が分かれるんですね。
『でも磁器ほどの強度はないですよ!笑』と笑う尚幸さん。
それにしてもお忙しい中いろいろと教えてくださり、尚幸さんや奥様のお人柄にも魅力を感じます。
日々変化するうつわ作り
前回訪れたのは2021年の9月末ごろ。
その時に仕入れさせて頂いたうつわと、今回見たうつわでは質感が変わっていた。
以前よりもサラッとした質感だったので、『釉薬を変えられましたか?』とお尋ねしたところ、またしても陶芸の奥深さを感じる回答が返ってきた。
尚幸さんによると、釉薬は変えていないとのこと。
しかし、色味の表現を重視していた昨年に比べ、今年は質感を重視しており、サラッとした質感を出すため焼成温度を10℃くらい上げたのだとか。
窯の温度をたった10℃変えるだけで、こんなにも質感が変わるのかとビックリしました。
尚幸さんご夫婦には『よく気付きましたね、すごい。』と言われたのですが、みんなは気づかないものなのだろうか?
(いや、たぶんファンなら気づいてるはず。)
これはこれでまた、可愛いというか、大人っぽくなったというか。上品さが加わりました。
今回翁明窯元さんを訪れてみて、作り手側の価値観や『表現したいこと』も日々の生活で変わり、それに伴いうつわの表情もまた変わるものなのだと感じました。
同じ商品のようで、同じではない。
その時しか出会えないものなんですね。
作り手の想いを知ると、より一層うつわの事が好きになれたりする。
うつわ屋enではそんなうつわとの出会いを作っていけたらと思っています。
次回の営業日よりうつわ屋enでも翁明窯元さんのうつわ達が店頭に並びます。お楽しみに。
また、とても素敵なギャラリーなので、コロナが落ち着いたらぜひみなさんも翁明窯元さんへ行ってみてください!
ではまた。
「地元には働きたい会社がない」という理由で地元を離れてしまう若者たち。そんな田舎で、「働きたい会社がないなら自分で作ってみよう」と思いうつわ屋さんを始めました。いつかは地元の「就職先」問題を解決するメディアを作りたく、サポート資金はそのメディア運営用の資金に貯金します!