Chim↑Pom「日本のアートは10年おくれている」と、胸の奥深くにしまった答え[2008・6〜7]
6月×日
パルコファクトリー(渋谷)のナンシー関『大ハンコ展』へ。平日の夕方だというのに、入口には長蛇の列、中はたくさんの老若男女でぎゅうぎゅう。ナンシー関のハンコやエッセイにたっぷり込められた毒舌や、ビックリハウサー魂をこれだけの人たちがほんとうに理解しているのか? きっと理解してるんだろうな。それは観客たちの展示物への食い入るような瞳を見ればよくわかった。業界人ばかりでなく、ほんとうにたくさんの人々に愛されていたんだな〜。逆版なのに狂わないデッサンと細かい技に感動、そして合掌。全体の展示デザインも良かった。かまわぬとコラボした手ぬぐいを購入。ひとつひとつハンコで押した消しゴム版画や、沢山の著書も販売されていた。
6月×日
北村範史さんと進めている仕事の打ち合わせ後、表参道近辺の展示をいくつか一緒に。HP Galleryの南椌椌個展『愉しみの黒い絵』。墨をベースにしたガラス絵。帰りがけに椌椌さんが関わるチベットのイベントのチラシをいただく。COWBOOKS南青山の「リトルプレスフェア」2回目。初日には間に合わなかったという山本ムーグさんの作品、すでにソールドアウトで残念……。ギャラリー360°ではスージー甘金さんの展示『Pop Jack』。可愛さと毒々しさが表裏一体の80年代的ワールド。
6月×日
ハナレグミのフリーライブの前にどうしても寄っておきたかった、Take Ninagawa(麻布十番)の大竹伸朗展「貼」。過去の作品からピックアップしてシリーズ的に展示を行っていくらしい。六本木などの都心を離れて、馬喰町や清澄白河などに新旧のギャラリーが移転していくさまは面白い。大竹伸朗の作品は相変わらず元気をくれる。蛍光色で彩られたフレームもきれい。
7月×日
十条のリトルコで伊藤絵里子さんの個展『夜行性』を。ようやく地図がなくても行けるようになったが、それにしても近いようで遠い場所、十条。タイトルの通り、夜にしか行動しない夜行性動物の作品が並ぶ。この日は残念ながら作家不在廊。なぜ夜行性動物なんか描こうと思ったのか(あとでメールで聞くことができたが)、面白い。
7月×日
本格的な夏を目前にして酷暑。酷暑だったり豪雨だったり……展覧会日和というものは実はありそうでないようなもの。仕事のスケジュール優先でその合間に行くものだから、気候などの条件はどうしても二の次になってしまう。
汗でびっしょりになりながら、恵比寿に新しくオープンしたNADiff A/P/A/R/Tへ。高層ビルの間を抜けて、ボロアパートの裏手に、複数のギャラリー/ショップ/バーが集合するアート“トキワ荘”。地下にあるNADiff Galleryのオープニング展示、Chim↑Pom「日本のアートは10年おくれている」。階下に向かう階段にはロープが張られ、地下はすべて水没しゴミやがらくたが散乱している、というインスタレーション。これが本当に“10年すすんでいる”アートなのか、それとも単なるゴミなのか。答えは胸の奥深くにしまって、次の目的地の山本現代(白金高輪)へ。歩いてすぐかと思ったが、意外と遠く、猛暑で死にそうに。やっとたどり着いた宇川直弘の展示『UKAWARTCHIVES#1』で待ち受けていたのは、ウズラの鳴き声と、昭和天皇の映像が流れるヴィンテージ小型ブラウン管テレビやラテカセの大群。死んだふり。
そのまま事務所まで徒歩で向かう途中、白金台のminä perphonenへ立ち寄り、心が和んだ。カワイイ「未来への贈り物」を発見し、リボンを付けて梱包してもらう。
7月×日
yanokamiのイラストを描いている坂本奈緒さんのHBファイルコンペ受賞展最終日。ギリギリで間に合わずすでに撤収された後だった。残念……。と、その二日後再び渋谷〜表参道へ。
まず、渋谷NANZUKA UNDERGROUNDの黒川知希個展「ユース」。90年代後期のザ・チョイス〜ヒロ杉山ラインの鮮度のままずっと描き続けている人がいることが嬉しかった。
原宿まで歩き、EYE OF GYREの「アート & エコロジー『エコゾフィーの実践I』」とHBの浅妻健司個展「ラララ」を駆け足で観た後、OPA Gallery・Shopの「モノクローム」展のオープニング・パーティーへ。伊藤絵里子さん、先日観た北村人さん、そして2年前エセコミで一緒に仕事したヨダヒロユキさんほかが参加するグループ展。ヨダヒロユキさんの作品の力強さ、このごろの心境にあまりにタイムリーな、「人の持つ光と闇の両方を描いていきたい」という力強く的を射たコメントにうたれる。ヨダさん、北村さんや初めて出会う若手イラストレーターたちと少しおしゃべりし、ほろ酔い気味(ビール一缶)で帰途へ。
7月×日
最近好きな乃木坂へ。国立新美術館のエミリー・ウングワレー展と迷った末、21_21 DESIGN SIGHTで始まったばかりの、浅葉克己『祈りの痕跡。』展に行くことに。浅葉氏がキュレーションする古今東西、古代から現代までの文字にまつわる/文字を超えたすべて。トンパ文字関連ばかりでなくTDC会員(中島英樹、立花文穂ほか)の作品や服部一成の最新作なども観られて盛り沢山の、恐ろしく充実した展示だった。壁一面に並べられた浅葉氏の日記と過去のデザイン作品に魅了された。勉強量とそのフィードバックの揺るぎなさに感嘆して、何度もそこだけリピートして観た。
そのあとちょっと息抜きに、FUJIFILM SQUAREのカフェで開かれている堀北真希ちゃんの写真展「私の大切なメモリー」へ。一目見てテクニックがあるな、とわかる写真。絞りや被写界深度とか写真撮影の基本的なことがわかってきて、撮ることが楽しいんです、っていうことがプリントを通して伝わってくる。ちゃんとしたギャラリーでの展示もいつか観てみたい。
――2010秋以降の展覧会ツイートを、こちらのハッシュタグ #gbiyori に残しています。