多田玲子個展『仮面ブドーのレース』と、“大人の運動会”[2008・3]
3月×日
ジャンク・スタイル・シリーズでお世話になった伊藤絵里子さんの個展『青果』(gallery it’s)、最終日に何とか滑り込んだ。タイトル通り、野菜がモチーフ。期間中日替わりで漬け物が出るサービスあり。絵の方は、グラデーションを使って表現力がさらに進歩していた。下仁田ネギだったか、質感と色合いが芹沢銈介のようで、いつまでも見入ってしまった。大きい絵は買えず、以前の展覧会で出ていた小っこい醤油差しの絵を買う。
3月×日
目白の日本女子大学成瀬記念館『多田牧子 組紐展』へ。多田さんはぼくが非常に傾倒している女子二人組バンドの片方の母上であり、日本のみならず世界各地の組紐を研究している学者さんでもある。古来から伝わる組紐の美しさを伝えるにとどまらず、趣味の域を超えてひとつの学問として追求していく姿勢に感服。
3月×日
世田谷文学館『永井荷風のシングル・シンプルライフ』、近所なので散歩がてら。生涯独身を貫き通した文学者・永井荷風の生き様を、現代の「おひとりさま」のライフスタイルに重ねた構成がわかりやすくて面白かった。展示企画を担当したのは、以前『宮沢和史の世界』の展示でお世話になったNさん。久々にご挨拶してお互いの近況を報告し合った。
3月×日
表参道hpdgpギャラリーでTAKA写真展『In Between』。涙がうっすら滲んだときに見えるようなぼんやりした風景。美しかった。その後、HP Galleryの北村人個展『となり町』。色鉛筆による描線がひたすらリラックスしていて心が和んだ。作家と少し話した。いつか仕事をしてみたい。
この日のもうひとつの目当てだった、Lamp Harajukuのミナペルホネンの展示。会場が女子度の高いあまりに可愛らしいブティックで、ドレスコード的な事情で自粛。minä白金台の本店なんかは、わりと平気で入れるんだけど……。
3月×日
吉祥寺にじ画廊、多田玲子個展『ABCDの素晴しき世界 〜アイスクリームの百物語〜』のオープニング。アイスクリームをモチーフにした絵と自作の物語。天は、この朗らかな一人の女子に惜しみなく才能を与え給うた。絵や音楽だけでなく、文才までも……。砂漠の砂時計(きなこアイス)とか好きな話/アイスがいくつもあった。いつかちゃんとした形で、作品集として出てほしい。パーティーではいくつかの物語を、lakin……いや多田さんと、身重のバンド・メイトのu.t.が朗読してくれた。みんなと会えて、久々にごはんも一緒に食べられたりして楽しかった。
3月×日
角野栄子さんの絵本『魔女からの手紙』をモチーフにした『春休みこども大会「魔女からの手紙」』を、大手町のていぱーくで。ていぱーく=逓信総合博物館、ということで、郵便つながり。子どもも遊べる楽しい展示で、一昨年に観た鎌倉文学館の『魔女』展をさらにバージョンアップした感じ。2F、3Fの郵便・放送関連の資料館も面白かった。世界中の切手を国別年代順に網羅したアルバムは、一日めいっぱい使っても見きれなそうなボリュームだった。
3月×日
吉祥寺で二つの個展を同時期に開催する多田玲子さんの、こちらは三色ボールペンを使った『仮面ブドーのレース』(Artcenter Ongoing)。オープニングは用事のため一瞬しか顔を出せず、後日改めてじっくりと再見。以前、MOLESKINEノートに描いた作品を見たときから面白いと思っていたが、これはすごい。ニューヨークでもパリでも、全世界どこでも通用するアートだと思った。こんないい作品を見させてもらった記念に、ささやかながら小さいのを一点購入した。「キャラバン」という作品。
帰りにトムズボックスの100%ORANGE展に立ち寄る。B6サイズほどのパネルに描かれた作品が総じてクオリティが高く、心地よい衝撃を受けた。グラフィック・デザイン的。ブルーナとかと比べてもまったく遜色なし。一点ほしかったな。やっぱり初日に行かないとだめかなー。
3月×日
『仮面ブドーのレース』3回目。この日は、小説家としても活躍している鉄割・戌井昭人さんとの「朗読とドローイングの会」。今度の『新潮』に載るという競輪についての話の描写がリアルで、昔、地元の競輪を2、3回見に行ったときのことをありありと思い出す。あれは大人の運動会だった。日常と隔絶したもうひとつの世界……。新作詩画集『いただきますごちそうさま』に二人のサインをもらって帰途へ。
――2010秋以降の展覧会ツイートを、こちらのハッシュタグ #gbiyori に残しています。